奈良、旅もくらしも

「withコロナ」をテーマに開催された2021年の「若草山焼き行事」配信を振り返る

2021年(令和3年)1月23日(土)、「若草山焼き行事」が行われました。例年であれば、若草山麓に、山焼きや花火、飲食などを楽しむ大勢の人が集まる恒例行事です。

しかし、今回は新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえて、早い段階から「withコロナ」をテーマとした開催方法の検討が進められました。その中の取り組みの一つとして、行事の様子をYouTubeチャンネルでライブ中継するというものがあり、手前味噌な話になりますが、「奈良、旅もくらしも」編集長の生駒あさみが、番組の進行役を務めさせていただきました。

果たして当日は無情にも雨天、山はほとんど燃えませんでした。にも関わらず、初の試みとなったYouTubeでのライブ配信は、リアルタイム視聴は予想以上に、またその後の視聴回数もじわじわと数字を伸ばし、若草山焼き行事当日から約2か月を経て、視聴回数は1万5千回を超えています。

今回のライブ配信の実行に向けて、どのような考え方で計画が進められたのか、また、催事当日に行事をどのように伝えたのか、奈良県県土マネジメント部地域デザイン推進局奈良公園室係長の林誠人さんと、同主査の孝岡愛也佳さんにお話を伺ってきました。

山焼きの準備は1日にしてならず

若草山焼き行事

若草山三重目の頂上には、鶯塚古墳(うぐいすづかこふん)という前方後円の巨大なお墓があります。
その昔、このお墓から幽霊が出て人々を恐がらせるけれど山を焼くと幽霊が出なくなるらしい、また翌年1月頃までに山を焼かなければ、なにか望ましくないことが起こるらしい、などの迷信が長く続き、この山を通る人が勝手に火をつけるようになったといわれています。
これにより東大寺境内に火が迫る事件が再三起こり、1738年12月に、奈良奉行所は若草山に放火禁止の立て札を立てました。しかし、その後も誰ともわからないまま放火は続き、近隣の寺や神社へ火が燃え広がるなど危険が絶えなかったため、江戸時代末期頃には若草山に隣接する東大寺・興福寺と奈良奉行所が立ち会って山を焼くようになりました。
このように山焼きの起こりは、山上古墳の鶯塚に葬る霊魂を鎮めるための祭礼というべきものであり、供養のためでもあったといえます。

(若草山焼き行事公式サイトから要約引用)

若草山焼き行事は、奈良県や奈良市の行政と、商店街等地域の関係者とで構成される「若草山焼き行事実行委員会」の主催で行われます。2021年の開催に向けた委員会の初会合は、2020年10月21日に開かれました。

「その際にライブ配信の方針を協議しました。また、例年行ってきたコンテンツの中から、実施するもの・しないものを選別。密を防ぐため聖火行列や飲食ブースなどは中止、若草山焼き行事の無事を祈願する野上神社祭典や山焼きは実施することに。感染を生まないための対策と、山焼きとの両立をいかに図るかを課題として踏み出しました」(林さん談)

委員会の皆さんは「山麓に密な状態を生まないこと」と「若草山焼き行事は奈良に早春を告げる行事であること」のどちらも軽視することなく、コロナ禍の2021年の若草山焼きに向き合ったのですね。

早々に動画配信の方向を決めたことで、広報に費やす期間を確保できました。県民だよりでの告知や報道発表、そこから各メディアで取り上げられたり、ホームページやSNSで発信したり。それぞれに違った世代やライフスタイルを持つ人々にリーチしたおかげか、飲食などのブースが出ないといった情報の周知、また視聴者数の伸びといった結果がもたらされました。

放送プログラムとしては、山焼きの様子を生中継するのはもちろん、

  1. 野上神社で行われる祭典の中継
  2. 若草山焼き行事に携わる方々の紹介

という2点にとくに注力されています。

「行事の歴史や支えてくださっている方々について知っていただきたいという思いがありました。今回のYouTube番組内で、若草山焼き行事の際に用いられる松明についてご紹介しているのですが、事前に松明を作る皆さんにお話を伺って放送に備えました。当行事で使われる松明は倒木を利用しています。それも倒れてから10年経ったものなのだそうです。長い時間をかけて準備していくものなのだと改めて驚きました。ちなみにこの松明は花が開いたようなきれいなかたちをしています。工夫を重ねて、このオリジナルのかたちになったんですよ」(孝岡さん談)

「消防団の皆さんの活動についても、ぜひご紹介したいと思っていました。残念ながら今年は雨が降って燃えませんでしたが、普段は火を消す立場の皆さんが、細心の注意を払いながら1年に1回だけ若草山焼きの伝統を守る思いの強さに触れていただきたくて。奈良市の、奈良県の、もっと広くは世界の安全を祈願して、山焼きに取り組んでくださっています」(林さん談)

山に消火栓があるんですね。山焼きが続いているのも事故を未然に防いでいるからこそ

雨のため山が焼ける映像は撮れなかったものの、こうした事前の取材に基づいたレポートがあったことで、当日の放送に興味を持った視聴者が多かったことが、生中継時のSNSへの投稿などから見て取れます。

リアルタイム視聴していた人たちがSNSでひと際盛り上がった瞬間がありました。それは野上神社での祭典の様子が中継されたときです。「ご神事をこんな間近で見せてくれるの!?」というざわめきでした。

「若草山焼き行事の中心の一つとなるご神事の、厳かな様子をご覧いただけたことは、今回とても良かったと考えております」(林さん談)

通常であれば、山裾から遠目に見るのが精一杯の神事を、ディスプレイ越しとはいえ、しっかり拝見できたことは貴重な体験。祝詞の音声が流れたのも驚きでした。通常の若草山焼き行事であれば、近くまで行かないと聞くことができません。花火と山焼き以外に「ご神事が行われている」ということを今回の映像で初めて知ったという声も聞かれました。

春日大社、興福寺、東大寺の三社寺の方々からのお話の場面では、若草山焼きが奈良という土地に根付く行事であることや神仏習合について、また終息を祈願してコロナ禍で開催されることの意義について、改めて考えた方も多かったのではないでしょうか。

こちらは2020年の山焼きの様子です。

2022年の若草山焼きに向けてですが、奈良公園室では、「コロナの状況を鑑みつつ、今年の経験を生かして準備して、密を避けて実施する方法を探りたい」(林さん談)、「山焼きのことをより深く知っていただけるようにホームページを充実させていきたいです」(孝岡さん談)とのこと。今後、開催に向けた実行委員会で検討が進められます。

さて本年の若草山開山期間は、2021年3月20日~12月12日となっています。つまり、つい先日開山され、山麓ゲートから山に入れる季節になりました。豊かな自然と眺望をのびのび楽しみに、ぜひ若草山へおでかけしたいですね!

若草山焼きをはじめとした奈良公園の観光資源の価値を高める事業を、寄付を通して応援する「奈良公園観光地域活性化基金」があります。奈良にとって大切な場所、なくてはならない行事を支えることにご興味のある皆さん、サイトをご覧になってみてください。

(記事・砂川みほ子)

関連リンク

最終更新日:2021/03/30

TOPへ