奈良、旅もくらしも

文化財研究と興味の距離を縮めるミュージアムグッズ。飛鳥資料館へ

ときどき無性に、飛鳥を歩きたくなる。甘樫丘から見るとよくわかるけれど、コンパクトにまとまっているのに、激動の歴史が感じられ、しかも密度が濃い。だけど現代の風景はのどかで、村の人たちもさり気ないところがまたいいのだ。

飛鳥を思い浮かべながら、ネットであれこれ検索していると、なんともいえないかわいらしい塗り絵に行き当たった。飛鳥資料館がサイトでダウンロードできるようにしてある、「山田寺銅板五尊像」の塗り絵。モチーフがまた、マニアックというか、私はパッと頭に浮かばなかった。だけど、塗って飛鳥資料館に持って行くと、何やらいいものと交換してくれるらしいと知って、早速ヌリヌリ。


ぬりえは2種類。ダウンロードはこちらから。

よく見てみると、奈良文化財研究所 飛鳥資料館のミュージアムグッズは、モチーフは学術的な遺物(昔の人の生活道具や瓦、装飾など)や遺構(昔の建物の柱や構造の跡)なのに、どこかアーティスティックで、なぜかかわいい。どうして?

「考古遺物とか遺構というのは、一般的に地味で難しくて、わかりにくいというイメージがあると思うんです」。そう話すのは、グッズ企画に携わる奈良文化財研究所の西田紀子さん。「歴史が好きな人はもちろんだけれども、そうでもない…という人に対して、きちんと魅力を伝えられるものをつくりたい」。それが、ミュージアムグッズをつくる原動力なんだとか。その上で、「手にとってもらいやすい、日常で使えるもの」さらに、「私たちがどういう研究をしているのかがわかるもの」というのがこだわり。グッズを見渡してみると、エコバッグ、手拭い、ブックカバー、ハガキなどなど。

例えば、手ぬぐい。柄は、山田寺跡の遺構、出土土器、それに瓦、木簡。やっぱりモチーフは文化財の研究所ならではであり、渋さ全開。同僚の土器研究者が、研究報告書に掲載する図面を、見た人がわかりやすいように、バランスよく繊細に並べる様子を隣で見ていて、そのこだわりを伝えたかった。「可愛らしくデフォルメするのではなく、研究の質をダイレクトに伝えることに、こだわっていきたい」と西田さん。「報告書のつもりで、この手拭いの画角で土器を並べて」とお願いしてできたのが、土器の手ぬぐい。整然とリズミカルに並ぶ様子が、不思議とそそるんだな。

瓦はかわいい花柄にも見えるけれど、ちゃんと時代順に並んでいる。山田寺の遺構図面は、パッケージするために折ったとき、どこが見えていたら素敵? というところまで。見る人がおそらく気づかないであろう細部に気を配るのは、なんというか、“愛”なんだろうな。

研究所って、身近ではなかったけれど、どうも楽しそうなところだ。

エコバッグ(500円)のモチーフも、現代のものと変わらないと思いきや、宿る“出土した感”。1本しかない箸だとか、穴が空いている匙だとか。
土器てぬぐい(800円)。これで赤ちゃんのズボンを作った人もいるんですって!

6月22日。長く閉館していた飛鳥資料館が再開。体調も、天気も絶好調! いざ、本物に会う旅へ。飛鳥資料館に着くと、アジサイと飛鳥ならではの石像物のレプリカがお出迎え。何度見ても、どこかユーモラス。造った人は大変だったに違いない。想像するだに骨が折れそうで、私ならゲンナリしてしまうかも。「斉明天皇さん、無茶言わはるわ〜」なんて、愚痴をこぼしたりして。

飛鳥資料館は、地中に眠っていた”もの”を掘り起こして、その歴史背景と、こうして再び光を受けるまでの物語を丸ごと展示しているようなところ。発掘当時の様子を思い描いて一緒にワクワクしたり、飛鳥びとの手仕事を感じてグッときたり。ものの向こうに、現在過去未来、いろんな人の気配を感じる。

「飛鳥ってね、今は土と水の匂いがする静かな農村だけど、かつては、試行錯誤しながら新しい時代を創ろう!というエネルギーに満ちた場所だったと思うんです。きらびやかで、かわいいものもたくさんあるんですよ」。

西田さんの言葉通り、錆びた金具も、欠けた土器も、色とりどりの小さなガラス玉も、壁画の星たちも、とつとつと自らを語り始めそうな存在感。

第二展示室の手前には、ぬりえが飾られていた。そして、冒頭の「何やらいいもの」というのがこれ。山田寺跡から出土した銅板五尊像のマグネット。わーい。と思わず自撮りしてしまった。念持仏にしたいサイズ感。

第二展示室は、山田寺跡について。1400年前のお寺の回廊が倒れたままの形で出土したなんて、奇跡だ。そんなふうにいちいち驚きながら進んでいくと、いよいよ実物とご対面ですよ! そう、塗り絵やマグネットになっていた、銅板五尊像。縦4.6㎝、横3.8㎝の中の造作とは思えないほどの、濃密感。板状だと思えない立体感。小さいけれど、その引力は強力。思わず写真を撮ったけれど(フラッシュなしならOK!とのことだったので)、不思議と写真には現れないんだなぁ。ぜひ、生で見ていただきたい。

山田寺銅板五尊像。実物の魅力がちょっとでも伝わりますように。


さて、資料館を出て、次に向かったのは山田寺跡。さっき見てきた物語のその場所が、歩いて行ける距離にあるというのが、最高。家々と田畑の中にその跡はあり、建物の跡に盛られた土も、元の地形だったかのように農村風景に溶け込んでいる。中ほどにポツリと佇む案内には、この場所から銅板五尊像が出土したことが書かれていた。なるほど、ここにいらっしゃいましたか。土の中から現れた小さな銅板らしい何かの、土を少しずつ落としていったら、あのお方でしょう? びっくりしただろうなぁ、作業していた人たちも。

さてと、水落遺跡にも行きたいし、飛鳥寺の塔の心柱跡から真神原を見渡したいし、奥飛鳥にだって行きたい…けど、それはまた次の機会かな。資料館から始まる飛鳥の旅は、反芻するようにじっくりと、のんびりと。

山田寺跡にて。こののどかな草原に、創建の頃の華やかさも、発掘当時の興奮も染み込んでいるのか。あぁ、私もそのときここにいたかった。

 

 

飛鳥資料館
住所:奈良県高市郡明日香村大字奥山601
開館時間:9:00〜16:30(入館 16:00まで)
休館日:毎週月曜(祝日と重なれば翌平日)、年末年始(12月26日〜1月3日)
入館料:一般350円、大学生200円、70歳以上・高校生および18歳未満無料
https://www.nabunken.go.jp/asuka/index.html

(記事・もりきあや)

最終更新日:2021/07/30

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