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【連載】ニシムクサムライ「第2回 奥大和MINDTRAIL 」松島靖朗

文/松島靖朗 タイトル絵/上村恭子

2020年の秋、奥大和MINDTRAIL(おくやまと・マインドトレイル)が催されました。

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館
会期:2020年10月3日(土)~11月15日(日)
会場:奈良県 吉野町、天川村、曽爾村 
入場料:無料 
主催:奥大和地域誘客促進事業実行委員会、奈良県
協力:株式会社ヤマップ
プロデューサー:齋藤精一(ライゾマティクス・アーキテクチャー代表)
キュレーター:林曉甫(特定非営利活動法人 インビジブル 理事長)
参加アーティスト:井口皓太、上野千蔵、oblaat(覚和歌子、カニエ・ナハ、谷川俊太郎、永方佑樹、則武弥、松田朋春)、菊池宏子+林敬庸、木村充伯、毛原大樹、齋藤精一、佐野文彦、力石咲、中﨑透、ニシジマ・アツシ、細井美裕 他
参加アーティスト:井口皓太、上野千蔵、oblaat(覚和歌子、カニエ・ナハ、谷川俊太郎、永方佑樹、則武弥、松田朋春)、菊池宏子+林敬庸、木村充伯、毛原大樹、齋藤精一、佐野文彦、力石咲、中﨑透、ニシジマ・アツシ、細井美裕 他
[NARA Program] 飯田華那、逢香、タカ ホリイ、松田大児

吉野・天川・曽爾を会場に、アーティストの作品が展示されるコロナ禍の社会情勢も踏まえた屋外展示企画がとても楽しみで3会場に足を運びました。以下はその当時のFacebookより。

2020年10月3日。奥大和MINDTRAILはじまりました。吉野水分神社、上野千蔵さんの「水面」で源流に出合う。離れがたい。8キロ4時間15,000歩。これぐらい歩かないと心のなかは見えてこない。力石咲さんの「ワイルドライフ」に癒やされました。今日遭えてよかった!

写真の説明はありません。


3人、立っている人の画像のようです

木、山、自然の画像のようです

写真の説明はありません。

、「だれでも しっている」というテキストの画像のようです

木、道路、自然の画像のようです

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2020年10月19日。奥大和MINDTRAIL。天川・洞川はどこもすばらしいが、ぜひ洞川自然研究路をゆっくり歩いてほしい。敷き詰められた杉の紅葉と苔むす石のコントラスト。眺めるに石が苔むすまでの時間を感じる。作品の写真を取ろうと構図を探す。背面に掛けられたフィルムの反射に自分が映る。自分が映らないように右往左往するが、自分が見えない構図が見つからない。思い通りにしようとしても思い通りにならない。自分(人間・破壊・管理)と自然の関係が見え隠れしてとても滑稽だ。この場所でこその作品、佐野さんの「関係➖気配」は11月15日まで。

1人以上、立っている人、アウターウェア、アウトドア、木の画像のようです

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2020年10月31日。曽爾はいつもススキの曽爾高原かお亀の湯なので会場の村役場周辺は初めて歩く。菊池宏子さんと林敬庸さんの「千本のひげ根」。3会場ともに共通のルーティーンでスタートできる儀式感がいい。3会場を巡った雑感。吉野町はコースにトレイル感あり、ラストに力石さんが異空間へいざなってくれるが、旅館街を中心に街全体・山全体の衰退感が押し寄せてきた。曽爾村は秋の手仕事、地元のおじいちゃんおばあちゃんがとっても近く感じられた。天川村はもうとにかく洞川自然研究路へどうぞ。11月15日まで。

1人以上、立っている人、アウターウェアの画像のようです

自然の画像のようです

写真の説明はありません。

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コロナ禍。これまでの生活を見直す機会ともなっていますが、自然回帰の流れもそのひとつでしょう。住職を務めるお寺でも食堂(じきどう)で出てしまう生ゴミや境内の雑草などを堆肥に変えるコンポストを導入したり、いままでなかなかできなかった過ごし方が増えてきました。

写真の説明はありません。

コンポストにいれる蓮の葉

写真の説明はありません。

境内に設置したコンポスト。実際に堆肥になるのは2年ぐらいかかるようです

お寺もそうですが、人が集まる場所に行きにくくなり、美術館や芸術祭へ行くことも制約があるなかで、今回の企画は奥大和エリアの開疎(※1)性を活かし、また作品を見るだけでなく、全長4キロ〜6キロほどの展示エリアを自らの足で歩きながら、観察者自身の頭や心にうかんだものとも向き合える(まさに心のなかにある美術館)気づき多き企画でした。

(編集部注 ※1)開疎…安宅和人氏がコロナ禍の社会でのあり方について提唱した「開放(open)×疎(sparse)」という考え方

ところで「奥大和(※2)」という言葉は、みなさんもう馴染みのある言葉でしょうか?

奈良県はその77%が森林地域※とも言われ、自然が残る豊かなエリアが残っていますが、人口減少による過疎化など、日本がかかえる課題の先進地域でもあります。観光や移住促進、関係人口の増加にむけて「奥大和」というキーワードで様々に企画され、実際に、多くの交流を生み出す流れがでてきています。

※統計から知る奈良 http://www.pref.nara.jp/33754.htm

個人的には、第一印象、「奥大和」ってどのあたり?と、少しわかりにくい印象を持っていましたが、アクセスしにくい「奥」まったエリアのもつ秘境感や奥駈道に代表される修行の場、圏外感、まだまだその価値が知られていない魅力のある場所を表現する言葉であるように思えてきました。

特に今回のような「奥大和」を自分の足で歩く企画は、普段車で通り過ぎてしまう景色とはちがう、人々の生活の空気やそこに残された歴史を感じさせる素晴らしい企画でした。

(編集部注 ※2) 奥大和…「奥吉野」などと混同されることもありますが、現時点では行政用語の側面が強い新しい用語です。歴史文化的な文脈での使用は妥当ではなく、奈良県内の特定の地域を指す固有名詞ではありません。

少し話がそれるかもしれませんが、面白い感覚を覚えたのが奥大和MINDTRAILで吉野町を歩いたときに感じたものです。

今回の企画展は、そのエリアで人々が生活している場所にアーティストたちの作品が展示されており、場所によっては歩きながら生活者のお姿をかいまみることもありました。息子と杖を手にしながら歩く僕たちにお声をかけてくださるおじいちゃんおばあちゃんもおられる一方で、さっとおうちの中に引っ込まれるお姿も。

ジブリ映画「となりのトトロ」に登場する「まっくろくろすけ」みたいだなと思いました。

観光などで過疎地域を訪れる人がふえることは、地域の人々にとって歓迎されるお客様かもしれませんが、生活エリアに見知らぬ人がたくさんやってくると、どう距離をとっていいものか・・・さささっとかくれようとする愛らしさを感じました。

こういうのなんと表現しましょうね。決して、来てくれるなということではないけれども、素直に歓迎できない感じ。特に吉野では温泉街の衰退も展示物とのコントラストで際立って伝わってくるものがあり、一時の企画では取り返せないほどの衰退や消失感が同じ場所に存在していることに考えさせられました。

執筆者紹介

連載「ニシムクサムライ」
文/松島靖朗 

編集部から

松島さんは奈良県磯城郡田原本町にある安養寺のご住職です。わたしたちが松島さんを知ったのはTwitter黎明期。松島さんは手練れの投稿職人(?)でした。その後、松島さんが2014年にスタートさせた、お寺への「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する仕組み [おてらおやつクラブ] の活動は、2018年度グッドデザイン賞大賞を受賞するなどしながら共助の輪を広げています。度々驚かせてくれる松島さんの日常を、垣間見ることができるかも(できないかも)な連載です。

最終更新日:2021/05/08

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