~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~
編集者の徳永です。現在44歳。20代の頃から奈良の情報を集めて発信する仕事をしてきました。新しいお店ができれば下見に出かけ、おもしろそうな場所があれば顔を出し……。そして2000年、なんとも不思議な空間が生まれ、通った場所がありました。それがJR奈良駅からすぐ、階段式客席があるギャラリー「浮遊代理店」です。カフェバーもあり、クリエイターや学生の一日店長が運営する場所。浮遊ってなんだ!?と衝撃を受け、そこにいる人たちがおもしろく、空間に心惹かれ──。おそらく「懐かしい」と記憶に残っている方もおられるはずです。
今回のwebメディアの編集会議で、今はなき場所、人気だった奈良を改めて紹介するのもおもしろいねーと議題にあがり、「浮遊代理店」の名が浮上したというわけです。1回目は生駒あさみさんと一緒に、元浮遊代理店、現想芸館工房オーナー、アーティストでもある奥田エイメイさんにお話を伺いました。
徳永:ご無沙汰しています。「浮遊代理店」の頃からお世話になっています。2007年にここ「想芸館工房」ができた頃に一度お邪魔をして以来でしょうか。
生駒:当時、「浮遊代理店」で知り合いがよく展示をしておられたので、東京から「浮遊代理店」へ行くために奈良へ来たことを思い出します。
奥田:少し前に「浮遊代理店」があった建物のオーナーさんに挨拶に行ってきたところです。2000年から2005年の5年間でしたね。オーナーさんの子どもが大きくなるまでなら使っていいよと安く貸してもらっていました。手作りでお金をかけずに作った空間でした。
徳永:当時、あの空間も人工クラゲも衝撃的でした。個性的なお店もどんどんできていた時期でしたね。
奥田:人工クラゲは、人工筋肉の一部のこんにゃくみたいな素材でできていて、水の流れで動いています。ギャラリーを始めるまでは会社の研究室で仕事をしていましたので、あまり世の中のことを知らなかったですね。奈良の他のお店のことは浮遊代理店のスタッフからいろいろ教えてもらいました。
徳永:当時のスタッフさんで、今も奈良で仕事をしている方もおられますよね。
奥田:そうですね。当時はおもしろいスタッフがいっぱいいましたね。アーティストとして活躍している人もいます。スタッフの一人には、競輪選手を目指していたはずが、1日店長をやって、何を思ったのでしょうね、「僕も展示がしたいです!」と、浮遊代理店で展覧会をした人がいました。店の入り口をバリケードして入れないという展示でした。彼は今、アーティストとしてバリバリやっています。
徳永:「浮遊代理店」から巣立っていかれた感じですね。
生駒:奈良っぽさを、ということではなく左右されない空間がよかったなと思います。東京にもあんなところがなかったなと思っています。
奥田:中身の濃い5年間でしたね。
徳永:「アート」への感覚は過去も今も同じですか?
奥田:同じものばかり作っていたら飽きもくるので、やることは変わってきているかな。僕は今56歳ですが、子どもが節目だったなと思います。息子が生まれるどさくさに紛れて会社をやめて、勢いで「浮遊代理店」を始めたのですが、やっぱり成人するまでは、養わないといけないと気がついて、はちゃめちゃにはなれなかったですね。ようやく息子も成人して今21歳ですが、自分でなんとかやっていけるようになったので、次の節目がきた感じです。僕はあとどれだけ生きるかわかりませんが、これからはまた弾けたいなと思っています。
徳永:Facebookを拝見していると、息子さんは映画を撮っておられるようですね?
奥田:短編映画やコマーシャルを撮影しているみたいですね。
今、東京に住んでいて、壊れかけた工場に住んでいるんですよ。10人くらいがシェアハウスにしているところで、都内で家賃1万。僕も一回行ったことがあるんですけど、すごいところでした。ネズミと格闘しながら生活していますよ(笑)。
徳永:え〜そんな場所に住んでおられるんですか。すごい!息子さんは、将来映画を作りたいのでしょうか?
奥田:今は映像制作をしたいようですね。高校を卒業する前から、大学へは行かず自分で仕事をすると決めていました。最初はカウンセラーのような仕事がしたいと、試しに人がしゃべっているところをビデオで映してみたりしているうちに、映像に興味が湧いてきたようです。
徳永:息子さんも表現者の道へ歩まれているのですね。お父さんとしてはどんなお気持ちですか?
奥田:子どもが勝手に進んでいくようになって気が楽になりました。この先どうなるかはわからないですが、見ていておもしろがれるかなと思っています。
息子には僕が展覧会をする時に映像での記録をしてもらってきています。去年の5月くらいに奈良の廃墟ビルを借りて配管を生き物に見立てた展示をしました。人の話を聞きながら配管を繋げていくというパフォーマンスだったのですけれども。その時に、どういうつもりで人工クラゲを作ってきたかの話も撮ってあげると言ってくれたので、撮影してもらいました。
徳永・生駒:お〜、息子さんからインタビューを受けたということですね!?
奥田:息⼦は⼩さい頃、僕を避けていたのでね。なんでこんな変な家に⽣まれたのか、と思っていたみたいです。でも、だんだん変な⽅に向いてきて⾯⽩いですね。
生駒:奈良では考古学者の家に生まれた人も同じように、嫌がられるか、同じ道にいくかどちらかだと聞いたことがあります。
徳永:奥田さんは人工クラゲのアーティストでもあり、「浮遊代理店」という素敵な空間を作られてきましたが、夢やアイデアはどんどん湧いてくる感じなのでしょうか?
奥田:自分は作るのが好きだから、自分が作ったものや人が作ったものを見てもらえる場所を持ちたいと思っています。でも運営は一人ではできないことだし、じわじわ行かないといけないなと思っています。思うのはただですし、妄想はいっぱいあります(笑)。
徳永:今後やりたいことはありますか?
奥田:2019年の12月に「ペチャクチャナイトに出ませんか?」と声をかけてもらって、そこで次のプロジェクトを発表したんです。工場プロジェクトと呼んでいるんですが、使われなくなった古い工場で浮遊代理店の拡大版をやってみたいなと。京都のお茶屋さんに「茶工場でもよかったらどうですか?」と言ってもらっていたのですが、見に行こうと思っていたら、新型コロナウイルス騒動で、とまってしまっていますね。
徳永:工場プロジェクトってどんな内容ですか?
奥田:生き物のようなモノが増殖し、見学者を圧倒する空間。そして、生まれたモノたちが遠くへと巣立っていく場所です。そういう場所が見つかったらやりたいですね。
徳永:大きな夢があっていいですね。
奥田:今年は、台湾の国立博物館で個展の企画が進んでいます。実は昨年の予定だったのですが、コロナで延期になり、代わりにオンラインでワークショップを開催しました。リモートでもできることをひとつずつやっていかないと。今年こそは個展をやりましょうと話を進めていますが、まだどうなるかはわかりませんね。
生駒:海外でも人工クラゲは珍しいですよね?
奥田:あまりにもマイナーだから出てこないのでしょうかね。
徳永:コロナ禍の暮らしはどうでしたか?
奥田:飲食店に置いてもらっていたレンタルクラゲの契約が打ち切りになって返却もたくさんありました。全部帰ってくることはなかったのですけど、出張も行けなくて、すごく暇でしたね。台湾の展覧会の打合せも息子と行く予定でしたが中止になったのでネットで映画を見ていました。素人の出演者ばかりの5時間くらいの映画があって、それが意外とおもしろくて。うちでも映画作れるんじゃないのと思いこんで始めてしまいましたね。4月、5月は本当に暇でしたので、息子と「映画を撮ろう!」と決めて、映画の機材も揃えて、撮る技術はあがってきています。僕の演技はさっぱりですが。
生駒:記録に残せるっていいですね。
奥田:映像はいいですね。10月にも1ヶ月間、映画月間と決めて、工房を閉めて映画を撮りました。奈良市にある現代美術の画廊「Gallery OUT of PLACE」や絵本とコーヒーの「パビリオン」を舞台に撮影しています。実は、パビリオンの方も元浮遊代理店のスタッフで、出演もしてもらっています。
徳永:懐かしいスタッフとの共演作ということですね!
奥田:タイトルは「カエルくん消えた」です。カエルくんは妻のことなんですけど。パビリオンのトイレで消滅するというお話なんです。
徳永:おもしろそうですね。ストーリーはどなたが考えておられるんですか?
奥田:脚本は僕で、監督・撮影・編集は息子です。ほぼ脚本はできているのですが、息子からダメ出しを受けながら書き直しているところです。元浮遊代理店のスタッフで今は木工作家をしている人に、パビリオンのトイレのセットをつくってもらっています。いろんなところへ浮遊してワープしていけるトイレなんです(笑)。
徳永:どこでもトイレですね!本格的!
奥田:半日くらいのストーリーなのですが、撮影している期間に、僕、かなり体重が減って。何キロ痩せたかな〜。半日の前半から後半にかけて僕の姿がスッキリしていくと思います(笑)。妻は化粧がどんどん濃くなっていく感じ……おもしろいと思いますよ。
徳永:見どころ満載でおもしろそうです。ぜひ上映会してください。
奥田:まだまだ先になると思いますけど、「Gallery OUT of PLACE」ではやることが決まっているので、またご案内します。
徳永:最後に教えてください。奥田さんの、最近のお気に入りスポットはどこですか?
奥田:平城宮跡を歩いてばかりいます。
生駒:平城宮跡がすぐそこにあるという環境がうらやましいです。
奥田:散歩にことかかない場所ですね。今まで、自分のことを「クラゲ屋」と言ってきましたが、今は「歩き屋」と言っています。朝起きたらまず歩く。それはもう10年くらい続けてます。歩いていると何か思いつくんです。じゃあ、歩くことを仕事にしようと。歩いて思いついたら、「今日1日の仕事は終わり」という感じです。
徳永:それ、めっちゃいい!
奥田:今はもっぱら映画ですね。
てづくり映画<カエルくん消えた>のホームページはこちら。下書きですけど公開します。
http://huyuu.com/Toimen/kaerukun/kk.html
【編集後記】
おもしろすぎました。歩いてアイデア思いついたら仕事が終わりって最高すぎませんか?
お子さんが成人されて、また新しい場づくりも始まるかもしれませんし、なんと言っても映画づくりを息子さんとご一緒にされているとは!
やっぱり奥田エイメイさんは根っからのアーティストですね。
帰り際、手渡された冊子からの抜粋
「浮遊する空間プロジェクト」
私は人とモノとが対話する空間を繰り返し作ってきた。
対話によって人は変化して流れていく。
モノは覚醒し生き物のように姿を変えていく。
人がモノの言葉を学ぶ空間、生まれたばかりのモノが育つ空間
進化した人やモノが新たな場所を求めて浮遊するための空間をこれからも作りたい。
私も、浮遊代理店で「浮遊」することと出会い、いろんな人と繋がっていけたと思います。
インタビュー後、奥田さんから「もしかしたら残っているかもと探してみたらやっぱりありました!」と写真付きでメッセージが届きました。
「浮遊代理店の人間メニュー」。
私、書いておりました。旧姓・木村でございます。
懐かしい思い出もありがとうございました。
工場プロジェクトがぜひ実現しますように。
(記事・徳永祐巳子)
奥田エイメイ
2000年より樹脂製人工クラゲの制作を行う。水中オブジェとしてオフィスや商業施設、海外の水族館などに展示、レンタル。2000年から5年間はギャラリー「浮遊代理店」、2007年からは奈良市佐紀町にて「想芸館工房 浮遊ファクトリー」を運営。
想芸館工房 浮遊ファクトリー
住所:奈良県奈良市佐紀町3096
電話番号:0742-30-0350
*予約で見学も可
http://www.huyuu.com/
最終更新日:2021/02/02