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【前編】王寺町愛あふれる広報誌!人気の秘密に迫る!Interviewee:王寺町政策推進課政策広報係・村田大地

~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~

地域のお知らせを届けてくれる広報誌。市町村ごとにデザインはさまざまです。そのなかで今注目を集めているのが、数々の広報誌コンクールで受賞を重ねている北葛城郡王寺町の広報誌「王伸(おうしん)」ではないでしょうか。

「こんな特集しちゃうの!?」
「広報誌にしてはオシャレじゃない!?」

旅くら編集部もざわついております。一体どんな人が作っているのでしょうか?敏腕デザイナーがいるんだろうか……。気になることは即、取材!みんな聞きたい広報誌の裏側です。

今回は、編集長の生駒あさみさんと、編集部の仲間たちも引き連れて、王寺町広報誌のご担当・村田大地さんを訪ねました。


友人の衝撃の一言に、奮闘編集劇場、始まる

村田:はじめまして。広報誌を担当している村田です。

徳永:はじめまして。いろいろと聞かせてほしいのですが、まずは村田さんが何者さんなのかを教えてください。

村田:入庁したのは平成27(2015)年の2月。1985年生まれの35歳。出身は山口県下関市、2歳から王寺町に住んでいます。中学生の頃から子ども達のリーダーを育成する団体に入っていて、キャンプファイヤーなどを経験し、アウトドアが大好きでした。就職活動のタイミングで、王寺町の教育委員会がアルバイトの募集をしていたので、「教育委員会ならキャンプ場の管理とかもあるかな!?」と期待もしつつ、20代は臨時職員として働いていました。私は王寺町に骨を埋めたいと思っていましたので、正職員を目指して試験に挑戦。正職員なら子ども達のために生涯を通じて王寺町を大好きになれる企画がつくれると思っていたので。でも、なんせ僕は学がなかったので、一次試験の筆記で3回落ちました。その度に上司から「もうひとふんばりや。がんばれ」と励まされて。何度か繰り返し、そろそろラストチャンスかなという時に一次試験を突破。ようやく正職員になれました。それが平成27年の2月です。

徳永:王寺町へ骨を埋めるくらいの思い!子どもの頃から王寺町が大好きなんですね。

村田入庁していろいろやろうと思っていたのですが、命じられたのが「政策推進課」でした。「そうかキャンプ場ではないのか〜」とがっかり。でも、最初の1年間は、町内の自治会長で組織される自治連合会や、Facebookを1日1記事アップする担当を引き継ぎました。Facebookは雪丸(町のマスコットキャラ/聖徳太子の愛犬がモデル)が日々の日常を肉球でタイピングするというスタイルだったので、広報の入り口みたいなことをやっていました。これで下地ができたのだと思います。

徳永:肉球♥ Facebookを毎日1記事アップはかなり大変だったのではないですか?抵抗なくいけましたか?

村田楽しかったですよ!雪丸を全面に押し出しているので、全国各地の雪丸ファンも登録してくれていました。町のお知らせをはじめ、キャンプ場で薪を割っている雪丸のオフショットなどほんわかした記事を並行して投稿していたので、楽しかったです。

徳永:楽しめていたわけですね。何よりです。

村田自治会長ともお話ができ、町を良くしようと考えている人がなんて多いんだろうと感じました。王寺町は住民に恵まれているなと深く実感したんです。私も王寺町が大好きで、誰にも負けないと思っていましたが、上には上がいるなと。

徳永:さらに上がいたわけですね。

村田その後、広報誌の前任者が異動することになったので、「広報誌、誰がする?」となり、興味があったので志願し、平成28(2016)年から担当するようになりました。

徳永:広報誌を作ってみてどうでしたか?

村田最初は業者さんとやりとりをして作っていましたが、なかなかうまくいかなくて。たまたま職場のパソコンにイラストレーター(デザインソフト)が入っていたので、これで紙面を作ったら思い通りになるかも!?とやり始めました。そこが最初の勘違いですよね(笑)。よく「最初からセンスがあったんだろう」と言われるんですけど、全くそんなことはなかったのです。

徳永:勘違い!? イラストレーターは使えたんですか?

村田独学です。従来の広報誌は、ワードで作っていたので、記事を埋めて、パズルのようにはめ込むデザインでした。とりあえずなんとかおさまればと配置していたんです。だから、何の情報が大事なのかがわからない。住民の生活に関わるお知らせ情報も別冊で分けられていて、本誌はほとんど読まれていませんでした。

徳永:広報誌は大半がそういう作り方のように思います。

村田当時、イラストレーターの技術がまだまだ追いついていなかったので、少しずつ作ることを増やしていきました。このラジオ体操特集がイラストレーターで初めて作った特集です。

徳永:デザインは凝りだすと時間がかかりますよね。

村田昔は写真の切り抜き処理も家でも8時間かけてやっていましたね。でも、どんどん技術も高まり、自信が湧いていきました。雑誌のデザインからいいものを真似ながら。でも、反響がまったくなかったんです。友人に聞いてみたら「そんなん読んでないよ」と言われました。

徳永:それはショックですね。

村田王寺大好きな僕がこんなに神経を注いで作っているのに、褒めてもらえないという。ようやくその言葉で気付いたんです。自分自身も、好きな雑誌ですら興味ある記事しか読まないのに、住民のみなさんが広報誌を読んでくれるかというとありえないですよね。全ページ改革が必要だなと。お知らせも統合させないといけない。町からの一方的なお知らせだけでなく、町でいろんな活動をしている人達を全面的に打ち出していきたい。そう思って改革を決意。2017年5月号より内製化に移行し、印刷のみ業者さんにお願いしています。

徳永:ちゃんと感想に耳を傾けておられたのですね。広報担当はお1人ですか?

村田当時、HP担当やお知らせ担当が何名かいましたが、3年前からは広報は1人でやっていて、今年ようやく新人が入ってきました。2018年からは完全にお知らせも統合して、月2回の締め切りに追われるようになりました。

徳永:月2回とは大変ですね。でも、お知らせの号も何を伝えたいかはっきりわかるデザインになっていると思うのですが。

村田子どもの頃、絵を描けば褒めてもらっていたので、自分はセンスがあると思っていたのですが、思い起こせば、色を載せると全くダメだったんです。それを忘れていて、デザインで色を使いすぎる傾向にありました。

徳永:デザインは難しいです。広報誌を振り返ると村田さんのデザイン力の成長過程が語られているわけですね。

村田色づかいをはじめ、編集に必要な基礎をなんとか習得しないといけないなと勉強をしました。そして、メディア・ユニバーサルデザイン・アドバイザーの資格を取ったんです。みんなが読みやすいように、文字や行間、色づかいなどを学ぶ資格なんですが、これが効き目抜群でしたね!当時、お知らせと本誌が別々だったので、コンクールへの応募はあきらめていたんです。でも、志半ばでの異動は絶対に避けたかったので、何か武器がほしいと思っていました。資格をとると、庁舎内に本気度が伝わりました。

徳永資格の威力、すごいですね。

村田また、各課とのデータのやりとりもスムーズにするため様式を整えていきました。ワード素材だけもらって、こちらでテキストの修正をした上で適したページにデザインを施し校正に回すようにしています。最初の1、2年はもらった素材を変えないでほしいと言われたこともありますが、伝わる広報を目指し、戦ってきました。「村田に任せたら伝わる内容にしてもらえる」とわかってもらうまでは大変でしたけど。あと、いまだに文章は苦手ですけどね(笑)。

徳永:村田さんの努力ですね。

村田デザインも、失敗を繰り返しながら色を整えていきました。見出しにビビッドカラーを使うことをやめたり、余計な装飾を入れないなど工夫をしていきました。そして2018年9月号にて、全国広報コンクールと毎日新聞社の広報コンクールで初めて賞をいただきました。コンクールに出すことが目的ではないのですが、対外的な評価があれば住民のみなさんの読んでくれるきっかけになるのではないかと思いまして。

最初に賞をとった2018年9月号 特集「多様な女性の生き方」

徳永:奈良県民ってそういうところありますよね。対外的な評価を気にする県民性。

村田この時から、全国の広報担当者と繋がりはじめました。奈良県内の広報協会町村部会の会長もやっていた経緯から、奈良県の広報誌ご担当の方にお話をさせていただく機会もあります。他県からの依頼もあり、奈良県・全国の広報誌がよりよくなっていけばいいなと思います。わかりやすいデザインな内容であれば、共有しあえるものはしていけばいいと思っています。

徳永:真似をしたとしても、そこに地域性を加えればオリジナルのものになりますね。

村田嬉しいことに、特集に人気が出過ぎて再版した号もあるんです。最近では、世界遺産が5つ見える明神山が日本遺産の構成文化財のひとつに認定されたことを受け、和歌山まで取材に行った号や、JR王寺駅130周年を記念してつくった号などが、全国各地から取り寄せがありました。

生駒:王寺の知名度があがるきっかけになりましたね。

【後編へ続く】

(記事・徳永祐巳子、撮影・北尾篤司)



村田 大地
1985年山口県下関市生まれ。2歳から王寺町で暮らし、中学生の頃から地域活動へ参加。20代前半は臨時職員として、2015年2月からは正職員として王寺町役場に勤める。2016年に広報誌担当となり、2018年に王寺町広報誌「王伸」を完全リニューアル。メディア・ユニバーサルデザイン・アドバイザー。アウトドア好き。

王寺町広報誌はこちら

最終更新日:2021/09/18

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