奈良、旅もくらしも

今月のおやつとうつわVol.12 堀井松月堂「きみごろも」、ぬるべの郷 漆工房「葉の器」

堀井松月堂「きみごろも」
ぬるべの郷 漆工房「葉の器」

仕事に学校、家事…毎日やることいっぱいで忙しいですよね。あわただしい日々を過ごしていると、ついつい自分のことをおろそかにしがち。たまには、おいしいお菓子で自分を甘やかしてみませんか。この連載では、奈良で手に入る素敵なおやつと器をご紹介します。お気に入りのおやつセットを用意して、ちょっと一息つきましょう。


奈良県には、神社仏閣や史跡などが数多く残っている。そのおかげで「奈良といえば歴史」というイメージは、奈良に来たことがない人でも抱くだろう。しかし、教科書に載るような華やかな歴史の陰にひっそりと息を潜めている事物も忘れてはならない。こういったものは、建造物や遺跡などと比べるとどうしても廃れてしまったり途絶えてしまったりする傾向にあるが、静かな奈良の片隅で今も大切に守られているものがある。今回は「教科書っぽい歴史」とは少し違う、長い時の流れを感じるものに出会ってきた。

今回のお菓子は、明治35年創業の老舗和菓子店「堀井松月堂」の銘菓「きみごろも」。江戸時代の街並みが残る保存地区で、長い間人々に愛されてきた。厚揚げのような外見だが、口に含むとしゅわっと溶け、ほんのり優しい甘さが広がる。初めて食べる人は、きっと目をパチクリさせてしまうだろう。その作り方は、一子相伝・門外不出。全国でここでしか味わえない。メレンゲに砂糖やハチミツを加えて寒天で固め、黄身で包んで焼くという潔いほどシンプルなお菓子だが、その単純に見える工程の中に、こだわりと熟練の技がつまっている。卵は鮮度を落とさないよう、産んでから2日以内のものを使う。朝5時半からその日使う卵を割り始め、黄身と白身に分けていく。分けた白身でメレンゲを作るが、機械を使うとメレンゲがボロボロになってしまうので、手作業で40分間泡立て続ける。硬すぎず、緩すぎないメレンゲにするには、空気をたっぷり含ませることが大切なのだそう。忍耐力と微妙な匙加減で仕上がりに差ができる。また、気候やその日の卵によってもわずかな違いが出てしまう。そんな繊細なお菓子が120年も変わらずに受け継がれてきたのだ。

4代目の堀井隆佑さんは、「味を落とすわけにはいかないというプレッシャーもあるが、少しアレンジを加えたものにも挑戦してみたい」と語る。遠方からもこの味を求めてたくさんの人々が訪れるが、今後は日本だけでなく外国のお客様にも親しんでもらいたいそう。元祖きみごろもの横に、ちょっと洋風なきみごろもが並ぶ日も来るかもしれない。

きみごろも 6個入り(842円)/ 1個(140円) 人気商品なので、電話でお取り置きをしてもらうのがおすすめ
中は、しゅわしゅわのメレンゲ。凍らせて食べても美味しい

その歴史あるお菓子に合わせてセレクトした器は、曽爾村塩井地区の「ぬるべの郷 漆工房」で制作されている「葉の器」。曾爾村は漆発祥の地とされており、文献にもその証拠が書き記されていたが、長い歴史の中で漆の栽培も漆塗りも廃れてしまっていた。2005年、その漆産業を再び活性化させようと立ち上がったのが、塩井地区の人々だった。せっかく漆発祥の地なのだから、ここで国産漆を栽培して外へ発信していこうと試行錯誤を繰り返した。順風満帆…とはいかず、土地の具合や獣害など漆を栽培するうえでの様々な問題にぶつかったそう。より多くの人に曽爾の漆を知ってもらうため、漆を使った商品の制作が始まったのは、今から7年前。栽培はしていても、職人がいるわけではないので、まずは岡山県の漆職人の方に、一から作り方を教わるところからだった。「葉の器」の制作には、全部で88の工程がある。柿の葉に安定紙を貼り、裏面には吉野の手漉き和紙を貼って頑丈にする。その上から漆を塗って仕上げる。漆、柿の葉、和紙に至るまで、どれも奈良県産のもの。今回、実際に制作している現場にお邪魔したが、みなさんとても楽しそうに作業をされていた。おしゃべりをしながらも、一つ一つの作業が丁寧で思わず見入ってしまう。漆栽培、漆工芸の制作、宣伝。どれも地域の人々がゼロからスタートし、地元の未来を見据えた活動を続けている。こうして笑顔を絶やさず楽しみながらかかわることが、長く続ける秘訣なのだろう。

葉の器(3,000円)※お手入れは、乾いた布で拭うかぬるま湯ですすぐ
葉と漆の間に空気が入らないよう、細かいところまで丁寧に作られている
裏面には、和紙が貼ってある

長く続いてきたものを守り続けることも、長く続いてきたはずのものを再びよみがえらせることも決して簡単なことではない。「歴史をつくる」というと、新しい技術や大規模な開発などを思い浮かべる。しかし、その土地でつくられてきたものを守り、活かそうとすることこそ、歴史をつくる行為そのものであり、これからも大切にしなければならない。また一つ、学校では学べないことを発見できた旅になった。

(記事・撮影/岡田菜友子)

堀井松月堂(ほりいしょうげつどう)
住所:奈良県宇陀市大宇陀上1988
電話:0745-83-0114
営業時間:8:00~17:00(売り切れ次第終了)
定休日:水曜日、年末年始および夏季休暇
駐車場:無

https://kimigoromo.com/#access

ぬるべの郷 漆工房(ぬるべのさとうるしこうぼう)
住所:奈良県宇陀郡曽爾村大字塩井605
電話:0745-94-2116
営業時間:平日9:00~17:00  工房の活動日は第2・4日曜日
定休日:不定休(HPをご覧ください)
駐車場:有

https://yamatourushi.jp/#event

最終更新日:2022/01/20

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