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今月のおやつとうつわVol.15 菓匠苑 梅ぞの「上生菓子『桃の花』」/陶屋 なづな「stainlessピューター皿」

菓匠苑 梅ぞの 「上生菓子『桃の花』」
陶屋 なづな「stainless ピューター皿」

仕事に学校、家事…毎日やることいっぱいで忙しいですよね。あわただしい日々を過ごしていると、ついつい自分のことをおろそかにしがち。たまには、おいしいお菓子で自分を甘やかしてみませんか。この連載では、奈良で手に入る素敵なおやつと器をご紹介します。お気に入りのおやつセットを用意して、ちょっと一息つきましょう。


最近、早寝早起きをしている。今年こそ生活リズムを見直そうと一念発起して始めた習慣で、3日坊主の私の割には順調に続いていた。先日、気持ちよく目覚めて時計を見ると時計は10時をまわっていた。アラームは誰かが消してくれていたみたいだ。窓を開けると鳥の声とかすかな梅の香りが入ってくる。春眠暁を覚えずとはこのとかな、とその日は諦めて朝からかわいいお菓子とお茶を用意した。

しっとり桃色が美しい今回のおやつは、広陵町にある和菓子店「梅ぞの」の上生菓子、「桃の花」。しなやかなのに立体感があり、本物の花のようなみずみずしさとハリがある。まさに「にほふ」という言葉がぴったり。甘さは控えめで、舌の上ですうっと溶ける。通常お茶の席で見られるものよりも、かわいらしくてカジュアルな雰囲気をまとった梅ぞのの上生菓子は、老若男女だれでも楽しめるのが魅力。しかし、ただかわいいだけではない。質感や形、微妙な色合いから、熟練の技と和の心を感じる。和菓子と洋菓子の違いの一つは「手の上で仕上げるかどうか」。配合、温度、湿度に細心の注意を払い、職人の手で一つ一つ丁寧に作られたお菓子は、作り手の人となりがにじみ出る。美味しい和菓子を作るには、技術だけでなく人間性も磨かなければならないと語る店主の鈴木美典さん。お菓子を作っていないときも、地道な努力を怠らない。理論・技術・感性を大切にし、科学や芸術を学んだり、ほかの料理からインスピレーションを得たりしているそう。決めるところはかっちり決め、それ以外は柔軟に様々な要素を取り入れる様がなんとも日本的で格好いい。「桃の花」を時間をかけていただきながら、私もそんな風になりたいと思った。

上生菓子「桃の花」(300円)
売り切れ次第販売終了のためお早めにお買い求めください。
花びらの先が、ほんのり光を透かしている

そんな上生菓子に合わせて選んだのは、ちょっと異質な器。同じく広陵町にある「陶屋 なづな」で見つけた、竹俣勇壱さんの作品。店主の大垣ひろ子さんは、若いころから食器が大好き。器を選ぶ基準は、第一に自分が気に入るかどうか、次に料理が映えるかどうか、絵になるかどうか、最後は直観だ。店内には、シンプルだけれどちょっと一癖ある器たちが並ぶ。その一つ一つが大垣さんにとって宝物なのだということが伝わってくる。

今回の器は『今月のおやつとうつわ』初のステンレス製で、光の加減によって無限に表情を変える。春の柔らかい日の光を反射してぼうっと輝く上に「桃の花」を置くと、春霞の中に一輪だけ咲いたように見える。竹俣さんがジュエリー作家でもあるからだろうか、そのシルエットもオブジェのように美しい。ごたごたした調味料を棚にしまい、キッチンを磨き上げ、そのお皿を立てかけてみた。これだけでもぴんと空気が張って、緊張感が生まれる。いつもより少しだけ値段が張るが、私の背筋を伸ばしてくれる良い相棒に出会った。

stainless ピューター皿M(6,380円)
金属なので少しずつ色が変化して深みが増していくのも楽しみ
大きさもいろいろ。(左からL、M、S)

寒い冬が終わりをつげ、ようやく春に向かいだした。暖かくなると同時に、急に雨風が強まる日も増える。夜のうちに嵐がやってくると、せっかく咲いた花が散ってしまわないかと気になるが、お皿の上に咲く花ならその心配はなさそうだ。早起きはまた明日からにして、たまには何も気にせずぐっすり眠る日を作ろう。

(記事・撮影/岡田菜友子)

菓匠苑 梅ぞの 
住所:奈良県北葛城郡広陵町馬見南2丁目5-31
電話:0745-55-7170
営業時間:9:00~17:00
定休日:不定休(HPをご覧ください)
駐車場:有
http://www.umezono-wagashi.com/

陶屋 なづな
住所:奈良県北葛城郡広陵町馬見北9丁目2-6
電話:0745-55-9117
営業時間:11:00~17:00
定休日:不定休(HPをご覧ください)
駐車場:有
https://www.naduna-utsuwa.com/

最終更新日:2022/03/11

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