奈良、旅もくらしも

金峯山寺の大絵馬に描かれた近世初頭の風俗

総本山金峯山寺 寺史研究室助手 池田 晶

 金峯山寺には、横4.5メートル、縦2.8メートルを超える国内最大級ともいわれる大絵馬を所蔵しています。令和4年4月2日(土)、近鉄文化サロン阿倍野において、龍谷大学の北野信彦先生をお招きし、この大絵馬を最新の光学機器を駆使した調査成果についてご講演いただきます。講演に先立ち、大絵馬の概要を写真とともにご紹介していきたいと思います。

 この大絵馬は、重要文化財に指定されており、正式名称を『板絵著色廻船入港図額』(いたえちゃくしょくかいせんにゅうこうずがく)といい、万治4年(1661)に下市や上市の豪商たちによって金峯山寺に奉納されたと伝えられています。

 現在は、蔵王堂の廻廊に置かれていますが、元々は蔵王堂の外陣に掛けられていました。経年変化によって、彩色の剥落や変色がおこり、制作当初の色彩などは失われつつありますが、ここには、総勢70名におよぶ人物が描かれ、近世初頭の豪華な風俗を垣間見ることができます。

 大絵馬の中央には、入港した大型の廻船が描かれ、その甲板では三味線・胡弓(こきゅう)・一節切(ひとよぎり)・小鼓が合奏するなか、若衆が踊をおどっています〈挿絵 ①・②・③〉。この若衆の踊を見物しながら、多くの人々が酒宴に興じています。

 若衆とは未成年の男性のことで、当時は歌舞伎など若衆による芸能が盛んにおこなわれていました。この若衆の踊もそうした芸能の一つだったのかもしれません。三味線は、永禄年間(1558~1569)に日本に伝来した琉球の三線(さんしん)が国内で改良された楽器で、この頃はまだ目新しい楽器の一つでした。

 この酒宴の最中、廻船からは積荷の荷下ろしでせっせと働く人たちが描かれています。港では、荷下ろしされた積荷を商う商人たちや、廻船の入港を見物するために集った華やかな衣装の女性たちが描かれ、画面左隅には、屋外の喫茶店ともいうべき一服一銭茶(いっぷくいっせんちゃ)も描かれています。〈挿絵 ⑤・⑥・⑦〉

 さて、ここに描かれた人たちはどのような色彩の衣装で着飾っていたのでしょう。近世初頭の華麗で豪華な風俗の一端が蘇ります。ぜひ講演にご参加いただき、近世初頭の風俗をご堪能ください。

 また、金峯山寺では、令和4年3月26日(土)~5月8日(日)まで春の秘仏御本尊特別御開帳が開催されます。


 近鉄文化サロン阿倍野で開催されます北野先生の講座は、下記のリーフレットをご参照ください。

最終更新日:2022/03/28

TOPへ