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【天理市高原地域】みんなのお茶の間!ハートをつなげるコミュニティーカー「Kura share(クラシェア)」Interviewee:森のようちえんウィズ・ナチュラ 岡本麻友子

~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~

編集者の徳永です。

私が岡本麻友子さんと出会ったのは、2018年12月のこと。高取町の「自然な暮らしでつながるフォーラム」のパネリストとして、明日香村で活動している「森のようちえん」のお話をされていました。「森のようちえん」とは、自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児幼少期教育のことで、岡本さんは「森のようちえんウィズ・ナチュラ」の代表です。ものすごくパワーのある女性だなぁ、という印象でした。その後、天理市福住へ移住され、私の地元のご近所ということで勝手に親近感を寄せていました(笑)。情報共有したり、それぞれの主催イベントに顔を出し合ったり、母親としての生き方にも共感できる部分がたくさんある女性です。岡本さんのチャレンジを日々楽しみにさせてもらっている中、「Kura share〜ハートをつなげるコミュニティーカー」という新しい動きをキャッチ!「Kura share」とは、車で地域に出向き、食事を販売するだけでなくコミュニケーションをとることを目的とした新しい取り組みのことです。どんな風に活動されているのか、現場でお話を伺いました。


「森のようちえん」明日香村〜天理市高原地域へ

徳永:今回は「Kura share」という新しい活動についてのお話をメインに伺いたいのですが、森のようちえんについても改めて聞かせてください!まず、天理市高原地域に移住されたのが2019年でしたよね?

岡本:森のようちえんウィズ・ナチュラの立ち上げからお話すると、2010年にスタートしました。その頃は、別の仕事をフルでしていたので、葛城市の山麓公園でイベント型として月2〜3回、週末だけの開催でした。普段幼稚園や保育園に行かせているけれど自然体験がなかなかできない、そう危惧されている親御さんがお子さんと一緒に参加されていました。私をはじめ運営メンバーは保育士や幼稚園の先生だったこともあり、1年を通して日常に子どもたちの成長を見ることが好きでした。だからイベント型は私たちのやりたかったことなのかと模索をしていました。そんな頃に娘を出産し、預けたいと思えるところもなかったので、イベント型から日常型にスタイルを変えて、明日香村で再始動しました。

徳永:明日香村から天理市高原地域へ移住されるまでのことを教えてください。

岡本:明日香村はすごく好きな場所だったので、ここで子育てができることはすごく理想だと思っていました。でも、移住する先がなかなか見つからず、隣の橿原市に住みながら明日香村へ通っていました。明日香村は観光地としては良い場所なのですが、日常的に自然の中で子育てや教育をするということに対して理解を得るのはすごく難しいと感じたこともありました。

徳永:そうだったんですね。お母さんたちが経営しておられたカフェ「自然な暮らしcommu+cafe コリコック」もがんばっておられたので、天理市高原地域へ移住されたと知った時は驚きました。

岡本:明日香村でやっていければ良かったのですが、2年前に保育料無償化になり、私たちも制度に歩み寄ることの必要性を感じました。そこで用意しないといけないものが園舎でした。明日香村には明日香法というものがあって、園舎として改修できそうな建物とはなかなか出会えず、たくさんの人に協力をいただき探したのですが、ハードルが高かったですね。「もうあかん」と思って心が折れました。SNSで場所を探しているということを投げかけてみたら、すごくたくさんの方がシェアをしてくれ、森のようちえんを利用してくれていた保護者の上司だった方が、天理市山田町にお住まいで、ご縁をいただきました。1000人キャンプファイヤーをされていた方です。

徳永:1000人キャンプファイヤー!そんなイベントありましたね。

岡本:天理市の山田町を勧めてもらったのですが、その時はピンときてなくて。最初、天理市と聞いて明日香村よりも都会だし、自然保育をできるところなんてあるの?と思っていたんです。福住インターは知っていたけれど、ここ天理市だったの?という感じでした。

徳永:確かに天理市と知らない方は多いかも知れません。

岡本:でも、一度来させてもらったら明日香村に負けないくらい自然が豊かで、「あぁ、なんかいいかも」と思いました。ちょうど天理の並河市長もこちらに引っ越してこられた頃で、ごあいさつもさせていただきました。

徳永:並河市長と同じくらいのタイミングで引っ越してこられたのですね。

岡本:私が半年ほど後に引っ越してきました。市長も、福住校区の子ども達がどんどん少なくなっているなかで、これからの町づくりをどうしていったらいいか悩まれている時でした。地元にはすごく地域ごとに熱心な方は多かったのですが、実際にどうしていったらいいのだろうと。

徳永:山間部が抱えている問題ですね。

岡本少し前に、地方創生における森のようちえんのお話を聞いておられたようで、そんな時に私が引っ越してきたわけです。

徳永:すごいタイミングですね。

岡本:どうにかしてここを使ってもらえませんか?という感じでした。これまでは認可外保育ということで行政に話を聞いてもらうことが難しかったのですが、初めて教育・保育部門のサポートをしていただけてうれしかったですね。「地域づくり」という点で、自然を活用して行政とウィズ・ナチュラが子育てや教育の分野で連携協定を結んでいるので活動しやすくなりました。天理市山田公民館(旧山田小学校)を会場に開催している「てんり高原マルシェ」も、町と里を繋げる地域活性化を目的として、場所を貸してもらっています。

徳永:きっと単独でもできないことはないと思いますが、行政との連携で幅が広がったりスピードが増したりしているんですね。並河市長のご理解もありますね。では、地域の人の視点はどうですか?森のようちえんって何?という感じではなかったですか? 

岡本:私が住んでいる長滝町の人は活動の内容をわかってくださっています。何をしているかというよりは、誰がやっているかということを見てもらっています。私たちも同じで、誰と子育てしたいか、どんな人たちに見守ってもらいたいか、どんな地域にしていきたいか、「誰とやりたい」っていうのは、すごく大事だと思っています。長滝町に私たちが入ってきた時の区長さんがすごくよく動いてくださったり、場所も整備してくださったり。行事にも声をかけてくださって、一緒に関わらせてもらっています。

徳永:「誰と」って本当に大事ですよね。元区長さん、最高です!

この日も移住当時の区長さんは卒園式の植樹の準備で軽トラックを走らせていた

岡本やっぱり地域にそういうキーパーソンがいてくださると、私たちも安心して暮らしていけます。

徳永:ちゃんと受け入れてくださっている気持ちが伝わってきます。

岡本:集会でも、「私たちがこういうことをやりたい」と言ったら、みんなで一緒にどうやったら実現できるかを考えてくれるんですよ。それがすごく衝撃でした。ダメって言われがちなので。そうしているうちに交流が深まり信頼関係を築いています。入園式や卒園式も長滝町の広場をお借りしています。血は繋がっていないけど、地域の人が来てくれるんです。運動会も一緒に参加してもらっています。こういう関係はなかなかないと思っています。

徳永:いいですね〜。失われてしまった本来の地域の姿があるようです。私たちの子どもの頃には当たり前にあった田舎の風景です。

岡本:実のお子さん達も外に出ていかれていて、子ども達も減っているので、私たちをすごくウェルカムに迎えてくださっています。すごくうれしいです。

徳永:一気に平均年齢が下がった感じですね(笑)。

岡本:森のようちえんにお子さんを預けているご家族がみんなで引っ越しされてきて、移住者も増えています。小さい時って、その瞬間の、初めてできたこととかあるじゃないですか。そういうのを見ながらゆったりとした気持ちで子育てしたいから、やっぱり街より、こういうところでのんびりしたいという人は増えてきています。

徳永:お母さんたちのお仕事も生み出しておられるので、すごいなと思います。

岡本:いろいろと仕事をつくることにもチャレンジしていて、起業支援もしています。

徳永:親が楽しく生きる姿、ですね。

岡本:何よりそれです。いくら自然保育でいいことをしていても、家庭でそれが途切れてしまったらやっぱり子どもの中で消化不良を起こします。それは私の中でも見逃せないポイントです。

徳永:お母さんたちから、家庭の問題とかも相談があるんですか?

岡本:お母さん達とチームで運営しているので、毎日自分の状態をみんなにシェアしています。子どもたちも朝一に森のようちえんでチェックインをして「今日の私こんな感じです」と伝えあいます。そして今日はそういう気持ちだから、どう過ごすかを考えます。隠し事ができないんです(笑)。子ども達を見ていると家庭のこともわかってくるんです。

徳永:なるほど、通じているんですね。

岡本:子ども同士の関係に疑問が出たら、お母さん同士の関係性が原因だったり。普通の幼稚園なら預けてさよならですが、お母さん達が密に仕事をしているので、すごくよく見えます。見逃せないですね。

徳永:すごく深い関係性ですね。

岡本:面倒くさいですよ(笑)。なんでここまでしないとあかんかなと思うこともあるんですけどね。

徳永:でも見逃せないんですよね。

岡本:そこに喜びがあるというか。その人がそこに気づけて、仲間にサポートされながら、自分で超えていく。それってこれからの未来に本当に必要な力だと思っています。

徳永:今、子どもも大人も近くの人に気軽に相談しにくい時代ですもんね。まさにその訓練って感じですよね。

岡本:そうそう!

徳永:それが人と人の関係性として、あるべき姿だと思うんですけどね。

岡本:親がやっていないと子どもはできないんですよね。

徳永:そう思います。家庭での教育が子どもに直結しますよね。よくわかります。

岡本:そこがベースにあって、幼稚園とか小学校へ行ってそれを実践していくという感じですよね。人間関係もそこやなと思います。

徳永:ここは、大家族で、より強い支えがあるという感じですね。

岡本:でも、お母さん同士ですっごく喧嘩もしますけどね。また始まった、って。でもそれを大人になってもできるって、すごいなって思います。

徳永:(笑)喧嘩もあるんですね〜。ホント家族みたいですね。でもそれが地域にあって、密ですね。

岡本:その関わりはすごく深いですね。

徳永:あと、いつもおっしゃっていることですが、世の中のお母さん達が幸せでいてほしいというのは絶対ですね。そういう姿を子ども達に見せていかないといけませんよね。世の中の大人が楽しく過ごしていれば、子ども達の不安なんてないよな〜って思うことが多々あります。

岡本:お母さんがしんどそうとか、やらなあかんからやってるとか、無意識にやったらあかんことを子どもに強要してしまっていることもあります。そんなつもりがなくても。自分自身にそうしていたら人にもそうしてしまう。そのループから抜け出すためには、今、今日はこうです、とか旦那と喧嘩してこうです、とかみんな朝に吐き出すといいんです。

徳永:私もよく吐き出します。吐き出さないとしんどくなりますよね。

岡本:一回口に出してみたら、客観的に自分を見ることができます。抱え込んでいるとマイナスにしか考えられなくなりますからね。

徳永:いや〜ホント大事なことですね。それが日常にあって、ありのまんまの姿で、その状態を受け入れるということですね。


いよいよ本題!コリコック発「Kura share」!

岡本:もともと明日香村で「自然な暮らしcommu+cafe コリコック」というカフェをしていました。今は森のようちえんの拠点でもある天理市山田町(福住町の隣町)へ移転し、そのまま同じようなカフェをしたかったのですが、スペース的にも難しく、ここで園児の給食をつくって提供しています。そのメニューを地域の人たちにテイクアウトしてもらえるように販売もしています。コミュニティスペースにしたかったのですが、コロナ禍でもありなかなか難しく、どうするかなと悩んでいたときに「Kura share」が生まれました。天理市高原地域は大きくわけて3つの地域(山田、福住、長滝)があるのですが、地域ごとに集会はされています。自分の住んでいる地域なら安心ということもあり、そこに私たちが出向いていって、食事を販売します。配食サービスではなく、歩ける距離まで出てきてもらって、会話をして、地域の課題やその人の困りごとを聞いています。お一人で住むお年寄りも多いので、お昼や夕ご飯に食べてもらえるようにしています。青空の下にテーブルと椅子を置いて、その場で食べられるようにもしているので、そこで交流する人もいますし、寝たきりの人がいるからとお友達が買いに来てくれることもあります。

徳永:素敵な活動ですね〜。いつから始めておられるんですか?

岡本:グランドオープンは2022年の2月です。それまでは試験的に何度かやっていました。

徳永:すでに私の実家の方(旧都祁村)でも噂になっていますよ。何曜日に出動しているんですか?

岡本:木曜日が福住、金曜日が長滝です。変則的に、天理市成願寺町の大和神社前交差点近くにも行っています。

徳永:コリコックでつくられた料理を販売されているんですね。

岡本:はい。保育園の給食メニューと一緒に一度に作っています。地域の方のお野菜とか天理市内の農家さんとも繋がりを深め、廃棄される野菜を使わせてもらうことも。キッチンカーではコロッケを揚げたりできるので温かいメニューも用意しています。

彩りのっけ弁当。汁物もアツアツで召し上がれ
お野菜もたっぷり。おかずの販売もあり
家族の粋を超える、みんなのお茶の間
手作りの揚げたてコロッケいただきました!美味しかったです!

徳永岡本さんは、着々といろんなことを実現されていますよね。

岡本:コロナ禍の助成金のおかげですし、私は基本待ちの仕事が苦手で……(笑)。自分から出会っていくというタイプなので。

徳永:そうですね(笑)、見ていてわかります。

岡本:私が住んでいる長滝町は25世帯くらいなのですが、コロナ禍で行事が減ってくるとあいさつ程度になってしまって。金曜日にKura shareをきっかけにゆっくりとしゃべると、近くに住んでいたのに知らなかったと思うことがいっぱいありますから。週1の情報交換はめちゃめちゃ大事やなと思っています。

徳永:高齢化が進む地域には必要な動きですね。ニーズを聴き取りされているんですね。

岡本:表面的なニーズではなく、潜在的にあるものです。みんなやっているからあきらめているものもあるんです。蓄積すると、疲弊するし、孤立してしまうことがあるので、ポキッと気持ちが折れてしまわないようにしたいんです。

徳永:なってからでは遅いですもんね。

岡本:子どももそうですけど、私たちよりちょっと上の方でもやっぱり引きこもってしまう人もいます。それは都会とか田舎とか関係ないんです。

徳永:そうなんですか?田舎は大丈夫かと思っていました。

岡本:町も田舎も同じくらいだそうです。それだけ田舎でも関係性が希薄になってきているってことですよね。ニュースになりやすいのは都会だったりしますので田舎は見えにくい。ここに来て、当たり前にしてきたことって怖いなと感じることもありますし、何が大事かということを気づいてもらえるような活動でありたいと思っています。

徳永:実際に顔を合わせてお話することで、話しやすい環境をつくっておられる感じですね。

岡本:やっぱりみんな交流したいと思っているんですよね。

徳永:どんな時代でもそうですよね。

岡本:スタッフは、安心して集まってもらえることを大切にしながらも、温かいものを用意して、おしゃべりして、その中から次はこんなのがあったら喜ばれるかなと考えてくれています。今こういう野菜があるからこのメニューではなく。ホント、訓練って感じですよね。

徳永:あるものだけで提供するのではない、ということですね。

山田町にある「コリコック」からKura shareが出動!
「コリコック」とはスウェーデン語で「こんにちは!お邪魔します!」の意味。
自然の中に私たちがお邪魔して遊ばせてもらうので、森の妖精さんたちへのご挨拶として使われている言葉だそう。

岡本:あと、森のようちえんの保護者のお母さん達の半数以上が奈良の人ではなくて、お嫁に来たり、転勤で引っ越してきたり。身内が周りにいない、ましてやコロナ禍ということで実家に帰ることもできない。孤独な子育てをがんばってきたお母さん達もおられます。そんな人たちと地域のおじいちゃんやおばあちゃんが交流してくれているので、お互いに本当に喜んでもらっています。

徳永:いいお話ですね。第二の故郷ですね。うちのおばあちゃんもそうですけど、近所の方に野菜を食べてもらったりしゃべりに来てもらうと、家族みたいになっていることありますね。私より仲良いやんって(笑)。

岡本:この子、どこのお孫さんやった?みたいな(笑)。

徳永:ぜひぜひこの活動、高原地域に広げてほしいです。

岡本:そうなればいいなと思っています。

いい風景ですね〜

【編集後記】

Kura shareの周りには、あったかくて穏やかな時間が流れていました。青空の下でテーブルと椅子を広げて……あれれ、私が取材へ行く先にはこういうシーンが多いのは気のせいでしょうか(笑)。私も好きってことですね。

何でもできるおじいちゃんが大好きな小さなお子さんがいました。
子どもを連れてお買い物にやってくる若いお母さんの姿がありました。
お友達と一緒にご飯を買いに来られたご年配の姿がありました。

子育てのこと、お母さんのこと、地域のこと。「こういうものだから」とあきらめず、関われば解決できることもある。それって面倒くさいことかもしれませんが、今ここにある気持ちや状態と向き合って、受け止めて暮らすと今まで見えていなかったことが見え出す。看板にもあったように、ここは「みんなのお茶の間」でした。天理市高原地域の新しい文化ですね。
岡本さんとはKura shareのことだけでなく、子育て環境についてもたくさんお話しました。紹介しきれませんが、地域の域を超えてできることももっとたくさんあるのかもしれません。いろんなつながりが生まれていくことで、子ども達にとってもっと楽しく学べる場が生まれるのではないかと思いました。地域の在り方も一緒です。地域の声を聴いて、あきらめないで関わることの大切さを教えていただきました。

(記事・徳永祐巳子、撮影・北尾篤司)



岡本麻友子
奈良県広陵町出身。1児の母。合同会社SOULS代表。森のようちえんウィズ・ナチュラ代表。NPO法人 森のようちえん全国ネットワーク連盟理事。2010年「森のようちえんウィズ・ナチュラ」を開園。2019年、住居とともに森のようちえん(定員18名)を天理市高原地域へ移転。子どもを預けるお母さんたちの仕事の場として「自然な暮らしcommu+cafe コリコック」や「てんり高原マルシェ」を立ち上げ、地域の課題解決事業として2022年から「Kura share〜ハートをつなげるコミュニティーカー」始動。お母さんたちの起業支援も行う。
https://www.withnatura.com

最終更新日:2022/04/18

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