奈良、旅もくらしも

今月のおやつとうつわVol.18 wakumusubi chocolate「タブレットとサラミ」/陶芸家・長﨑絢「実山椒文プレート」

仕事に学校、家事…毎日やることいっぱいで忙しいですよね。あわただしい日々を過ごしていると、ついつい自分のことをおろそかにしがち。たまには、おいしいお菓子で自分を甘やかしてみませんか。この連載では、奈良で手に入る素敵なおやつと器をご紹介します。お気に入りのおやつセットを用意して、ちょっと一息つきましょう。


桜に別れを告げると、透き通るような薄緑色がまぶしい、私が一番好きな季節の到来だ。対面での授業も始まり、友達と会う機会も増えた。緑がいっぱいの大学の中庭で、休み時間にジュースやお菓子を買っておしゃべりするのが楽しい。その間、課題はちょっとわきに置いておく。こうしてあれこれ話すのは、課題よりも大切なひとときなのだ。そんなおしゃべりのお供になりそうなお菓子をご紹介。

奈良市川上町にある「wakumusubi chocolate」を訪れた。カカオ豆から作る、Bean to Barチョコレートの専門店なのだが、建築会社が運営している。飲食店の設計をするならまずは、自社で飲食店を経営してみようという考えから、もともと会社の事務所だった場所を改装してお店を始めた。Bean to Barチョコレートは、カカオの選別に始まり、焙煎やテンパリングなど手間と時間がかかるお菓子。特にカカオの選別は大変な作業なので、ときどき会社の方に手伝ってもらうのだとか。スーツ姿の大人たちがもくもくとカカオを選別している姿を想像するとちょっと面白い。

Bean to Barチョコレート 4枚入り
(400円)
手のひらサイズの個包装。数種類購入してシェアしても楽しそう。
左「インド」 右「エクアドル」
使用するカカオによって、色も微妙に異なる。

今回選んだのは、タブレット(一口サイズの板チョコ)と、ナッツやドライフルーツがたっぷり練りこまれたチョコレートサラミ。タブレットには、それぞれ異なる産地のカカオを使用しており、現在は「エクアドル」、「インド」、「ベトナム」など6種類が展開されている。中でも私のお気に入りは「エクアドル」と「インド」。「エクアドル」は、お花のような甘い香りが印象的だが、後味はすっきり。一方「インド」は、フルーティーな酸味の中に、ヨーグルトのようなさわやかさがある。カカオが違うだけで、ここまで風味が異なることに驚いた。

サラミは、オレンジピールとラムレーズンの2種類。私は、ラムレーズンを選んでみた。ラム酒はチョコレートに合うようセレクトされている。もったいないので、薄く切ってみた。ラムとチョコレートの重厚感に、ナッツが軽やかなアクセントになっていて、薄切りでも満足感がある。いろいろなチョコレートを少しずつ食べられるのが「wakumusubi chocolate」の魅力。一人で味わうのもいいけれど、誰かと感想を共有しながら食べられるチョコレートは一層美味しく感じられるはず。

おいしすぎて目を回してしまったチョコレートサラミ(1,250円)
好きな厚さに切っていただこう。

小さなチョコレートにぴったりの可憐な器は、東吉野村の陶芸家・長﨑絢さんの作品。実は雑誌編集の経験がある方だったので話が盛り上がった。子育てをしつつ、一生続けられる仕事について考えたとき、中学校で先生に教えてもらって興味を持った、陶芸をやってみたいと思ったのだそう。数年間の修業を経て、2019年に東吉野村へ移住して制作を始めた。雑誌編集のほか、設計や古美術の修復の仕事をしていたこともあり、当時の経験が今の制作活動にも生かされている。暮らしの中や過去の記憶からインスピレーションを得ることが多いという長﨑さん。今回のお皿に描かれているかわいらしい植物も、自宅の庭に生えている実山椒を参考にしたそう。リアルな絵ではなく、あくまでも文様として描かれているのだが、長﨑さんの目に映る自然が、そのままお皿の上で生きているようだ。デフォルメしつつも、しなやかさやみずみずしさが表現されている。

実山椒文プレート(4,400円)

ほかの作品も、よく見るとウサギや鹿、小鳥などが描かれていた。みんな東吉野の動物たちだ。取材の合間に、長﨑さんが日々の生活の中で撮った写真を見せていただいた。青々と茂った山椒の茂みや、窓辺にあいさつにきた鹿、道路をとことこ歩く鷹。これらの写真を撮ったからといって、そのまま取り入れるわけではない。じっくり咀嚼して自分の中で熟成させる。当然忘れてしまうこともあるが、それでも記憶に残ったものを作品に落とし込む。この過程が、ただ美しいだけでなく、陰翳と深みのある作品を生み出すのだ。東吉野の自然を自分の日常に溶け込ませるように、大切に使っていきたい。

「いっちん」という手法で、立体的に描かれた実山椒。
強度を保ちつつ重さが最小になる厚さに作られている。

来週はさっそくチョコレートをもって大学に行こうと思う。楽しみがあると授業もそれなりに真剣にできるというもの。普段一人で過ごすのが好きという方も、気心知れた友達を招いてチョコレートをお供にお茶をしてはいかがだろうか。おしゃべりの中に、悩みごとのちょっとしたヒントや気分をあげてくれる何かが隠れているかも。

(記事・撮影/岡田菜友子)


wakumusubi chocolate (わくむすび チョコレート)
住所:奈良県奈良市川上町439-3
電話:0742-93-5199
営業時間:11:00~17:00
定休日: 不定休(インスタグラムをご覧ください)
駐車場:有
https://www.instagram.com/wakumusubi_chocolate/

陶芸家・長﨑絢
HP:nuyak (base.shop)
インスタグラム:https://www.instagram.com/aya.nagasaki/

最終更新日:2022/04/27

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