奈良、旅もくらしも

畠山製菓/親子三代で守り続ける手焼きのせんべいとベビーカステラ

長い年月、地元の人も旅人も受け入れてきた奈良のお店を訪ねるシリーズです。

ガラス越しに、黙々と作業する人の姿が見える。ガス台の上に鉄型が置かれ、香ばしいせんべいが次々に焼き上がっていく。店頭には、昔懐かしいベビーカステラやせんべいが並んでいる。近鉄奈良駅から徒歩15分ほど、一条通沿い一角にある日常。畠山製菓がある街の風景をいつも羨ましいと思っている。

創業時の1933(昭和8)年ごろは、現在の場所から数百メートル離れた船橋商店街に店を構えていた。「創業者である祖父は和菓子職人で、東京や神奈川で修行した後、出身地の奈良に帰ってきたと聞いています。何でもつくれる器用な人で、当初はせんべいやベビーカステラだけではなく、まんじゅうなどの和菓子もいろいろと扱っていたそうですよ」と語ってくれたのは3代目の畠山幸仁さん。幸仁さんの父である2代目・忠也さんにはせんべいとベビーカステラのみが伝えられた。

1999(平成11)年に現在の場所へ移転した際、それまで店奥にひっそりとあった焼き場を「道行く人の目に留まりやすいように」と店舗正面に配置し、ガラス張りの作業スペースに。83歳でなお現役の忠也さんがカステラを、幸仁さんがせんべいを担当し、創業時から変わらない味を守っている。

畠山製菓の朝は早い。午前2時からまず忠也さんがカステラを焼き始め、入れ替わりで幸仁さんが生地の仕込みを開始。そのまま夕方までノンストップでせんべいを焼き続ける。生地をこねるとこから全てを手作業で行い、何時間も座りっぱなしで鉄型を動かし続ける重労働だ。

「その日の気温によって生地の状態や焼け具合が違いますので、気は抜けません。力の入れ具合や鉄型をひっくり返すタイミングは、今も作業をしながら新しく発見することがあります。20年以上せんべいを焼いていますが、今もずっと研究し続けていますね」と幸仁さん。手焼きのせんべいは、1日千枚ほどを焼き上げるのが精一杯。道具の配置や手順を工夫して手早く仕上げても機械生産の8分の1程度の量だが、素朴な味を求めて店を訪れる人は後を絶たない。

一番人気は、塩味を効かせた生地にそら豆をたっぷりまぶしたビンズせんべい(14枚入り400円)。幸仁さんが気まぐれに入れる鹿の焼き印入りを見つけられたらラッキーだ。ベビーカステラ(大袋570円、小袋300円)は、帽子やバットなどの野球用具の形もかわいらしい。幻の鉄道をデザインした大仏鉄道せんべい(14枚入り400円)は、常連さんの要望で生まれたものが定番商品に。焼き印のデザインも常連さんによるものだそうだ。

店頭や近隣の道の駅で販売するほか、ホテルや企業からの要望でオリジナルの焼き印入りのせんべいを卸すことも。「お年賀の贈り物や手土産にたくさん注文してくださる会社や、近隣の学校からクラスや学年単位でのご注文もありますよ。長いお付き合いです」と幸仁さんは言う。

焼き場にいると、通りすがりの人が「おはよう!」と声をかけてくれたり、学校帰りの小学生たちが仲良く並んでじっと作業の様子を見ていることもしばしばだそう。素朴な味と地域の人同士の何気ないやり取りが当たり前にあり続けるこの街を、やはり羨ましいと思わずにはいられない。

(取材・文/油井やすこ)

畠山製菓
住所:奈良県奈良市法蓮町973-6
電話:0742-22-6531
営業時間:8:00~19:00
定休日:第1・3日曜日
駐車場:あり

最終更新日:2022/05/10

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