たくさんの電車が行き交う近鉄生駒駅から北へ歩くこと約5分、“大人のオムライス”が食べられるというレストラン「LE　NORD」（ルノール）を訪れました。ドアを開けると、小さなハコにカウンター6席が並ぶコンパクトな空間。初めて入ったのになんとも温かみがあり落ち着く店内で、車通りが多い道路沿いにありながら隠れ家的な雰囲気です。

フランスでの修行経験もある料理人歴28年の北田浩久さんが昨年6月にオープン。ランチはオムライス屋さん、ディナーは洋食バル屋さんです。以前、生駒市松美台でフレンチのコース料理を提供する「ビストロルノール」を営んでしましたが、数年前に惜しまれながら閉店。本格フレンチもいいけれど、みんなに馴染みのある一品ものにアレンジを加えた創作料理がしたいと考え、オムライスを主軸に新業態で新規オープンしました。

　ルノールのオムライスには、年中常時提供するいわゆる「定番」メニューはありません。毎月の月初めに新作を発表し、2か月前の新作メニューと入れ替えるという形で、いつも2種類のオムライスを用意してきました。つまり、今月か先月の新作2種類から選ぶというわけです。
※6月は10日に1周年を迎えるため、10日のタイミングで2種類とも新作に変更。今後も変則的になる場合があります。

過去に出ていたメニューを見てみると、和風、中華風、インド料理風、ジビエのオムライスなど、一つひとつまったく違う個性豊かなものばかり。オムライスというと、ケチャップやデミグラス、ホワイトソースなどのイメージしかなかったので、度肝を抜かれました。上の「具が乗っている」というのも、単にトッピングされているということではなく、オムとライスと一緒に味わった時に馴染むように考えられていて、お皿の中で一体となっています。具材とソースがオムライスとともにふんだんに盛り付けられた料理……それらは思わず「作品」と呼びたくなります。

この時食べたのは4月の新作「アナゴは海の女王」（※6月9日をもって提供終了）。衣に包まれた国産穴子が乗り、醤油ベースの和風ダレにバルサミコビネガーを加えたエスプーマソースと合わせた逸品。北田さんは「どこかで聞いたことがあるメニュー名でしょう？」とにんまり。アナ雪にかけていたのですね……！シェフの遊び心が垣間見えるのもルノールの魅力です。

丸々一匹乗った穴子のベニエ（フランス発祥の揚げ物の一種）と、エスプーマを一旦我慢し、まずはオムライスのみを一口、ぱくり。しっかりめに焼かれた卵に包まれたバターライスには、野菜と刻まれた穴子が！穴子のもっちりねっとり食感がたまりません。全体を卵が優しくまとめ、すべてが一口の中で混ざり合い織りなす食のハーモニーは、これまで食べたことのない味わいでした。オレンジ色が鮮やかなエスプーマは甘みの中に酸味が効いていてオムライスによく合います。繊細なふわふわ泡ですが、味はくっきりしていてこれまたアクセントに。

さぁ、いよいよ穴子のベニエをがぶり。ふわサク食感の衣と肉厚穴子を噛み締めます。穴子とオムライスという異色の組み合わせですが、中のライスが穴子に合うように仕上げられているため、穴子のベニエが単なるトッピングではなく、オムライスにきちんと馴染みます。それに穴子のベニエとエスプーマが合うこと合うこと。一口ずつ違う味わいを楽しみながら、あっという間に完食しました。

また、北田さんの食材へのこだわりには心を打たれました。オムライスに使う米や卵、野菜などは奈良県内の信頼できる生産者が作ったものに厳選。珍しい野菜やハーブなどは自家栽培で育てたものを使います。県内の料理人が集うフランス料理研究会のNPO法人「テロワール」にも所属し、県内食材の魅力を発信。狩猟免許を取得し、ジビエ料理の食材を自ら山に狩りにも行くというから驚きです。

夜は洋食バルスタイルで、お酒とともにシェフの創作料理も楽しめます。メニューは不定期で変わるので、行ったときにどんな料理に出会えるか、そちらも気になります。

これまでオムライスはランチのみでしたが、オープン1周年を機にディナーでも提供を開始しました。月に一度、自分への“ご褒美オムライス”はいかがでしょうか。

（文：才治　朋子）

最終更新日：2022/06/06

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