奈良、旅もくらしも

今月のおやつとうつわVol.21 千代乃舎 竹村「うぐいす餅」/いにま陶房「ひらひら皿」

仕事に学校、家事…毎日やることいっぱいで忙しいですよね。あわただしい日々を過ごしていると、ついつい自分のことをおろそかにしがち。たまには、おいしいお菓子で自分を甘やかしてみませんか。この連載では、奈良で手に入る素敵なおやつと器をご紹介します。お気に入りのおやつセットを用意して、ちょっと一息つきましょう。


奈良にやってきて4年目。すっかり慣れてしまったが、改めてずいぶん贅沢な場所だなと思う。教科書に載っているような歴史的建造物がそこかしこにあり、少し歩けば豊かな原始林がある。そして素敵なお店もたくさん。東大寺を前に歓声を上げる観光客を見て、奈良に来たばかりの頃はいちいち感動していたのを思い出した。今回はちょっと新鮮な気持ちになって、奈良生活1年目に見つけたとっておきをご紹介。


今回のお菓子は、私が奈良に来て最初に訪れたお店「千代乃舎 竹村」の「うぐいす餅」。東向き商店街に店を構える老舗和菓子店だ。うぐいす餅というから鳥のウグイスに由来するのだろうか。でもいったいどこが……疑問に思って聞いてみると、鳥ではなく若草山山頂にある「鶯塚古墳」にちなんで名づけられたそう。なるほど、そういわれると薄茶色でぽってりとした楕円形が古墳に見えてくる。

餅粉、白あん、卵白で作られた皮はしっとり柔らか。黒砂糖でコクのある風味に仕上げた餡との相性も抜群。温かい緑茶が欲しくなるところだ。

うぐいす餅(1個 175円)

和菓子は、つくる環境によって味に大きな違いが出てしまうデリケートなお菓子。材料の分量が決まっていたとしても、コンスタントに同じ味を作り続けるのは職人技だ。お客様にいつ食べても美味しいと思っていただけるよう、ちょっとした気温や湿度の変化も見逃さない。

そんな長い歴史と確かな技術を持つ「千代乃舎 竹村」だが、時代に合わせて新しいお菓子も生み出している。中でもおすすめは、バターが香る「さるさわの月」。猿沢池の上空に浮かぶ月をモチーフにした奈良らしいお菓子で、白あんとバターの和洋折衷な味わいは老若男女問わず楽しめる。

さるさわの月(6個入り 1,020円)
中はしっとり、外はサクサクのクッキー生地。珈琲にぴったり!


ころんとかわいい和菓子に合わせて選んだのは、「いにま陶房」の鈴木智子さんが制作する器「ひらひら皿」。こちらも奈良に来たばかりの頃にSNSで拝見し、ひそかにファンになっていた陶房だ。

「器を作っているとじわーっと充実感があふれてくる」という鈴木さんは、たとえ体が疲れていても、頭だけはクリアになる瞬間があるのだとか。集中力の質が違うのだろうか、私もそんな感覚を味わってみたいと思った。その集中力の結晶ともいえるお皿にお菓子を載せると、一気に雰囲気が変わる。静謐で清らかな感じがデンマークの絵画みたいだ。大きなケーキを一つ載せても、小さなお菓子の周りに花を散らしてもよさそう。ざらっとした質感なので、載せたお菓子が滑りにくいのも特徴。この質感が油絵の雰囲気を感じさせるのかもしれない。

ひらひら皿 薄白化粧 18cm (3,300円)
木漏れ日の反射にも、揺らぐ水面にも見える

お皿の色を書こうと思ったが、グレーにも白にも見え「この色」と決め難い。黒い地に白化粧を重ねた表現は、奥行きと柔らかさを兼ね備えている。離れて見ると、どこか見覚えがあるような……実は、木漏れ日からインスピレーションを受けて生まれたものだそう。自然の風景や日々の暮らしからヒントを得て作品に落とし込むのが鈴木さん流。今後もどんな美しい器が生まれるか楽しみだ。


歴史ある奈良の風景、美しい自然。今回はそれらをモチーフにしたお菓子と器だった。自然と歴史の織り交ざった贅沢な環境に暮らしていても、いざそれを他のもので表現するのは至難の業。職人としての「技術」と芸術家としての「感性」に加え、「身近なものを大切に思う心」も大切な要素だと感じた。私は特殊な技術や感性を持ち合わせていないけれど、この心だけはいつまでも持ち続けようと思った。

                   

(記事・撮影/岡田菜友子)


千代乃舎竹村
住所:奈良県奈良市東向南町22番地
電話:0742-22-2325
営業時間:10:00~17:00
定休日: 木曜日
駐車場:無
千代乃舎竹村のこと|千代乃舎竹村【奈良饅頭・青丹よし・野守の鏡・古瓦】 (chiyonoya-takemura.jp)

いにま陶房
住所:奈良県吉野郡川上村東川135番地
電話:0746‐53‐2660
いにま陶房 (thebase.in)

最終更新日:2023/01/09

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