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【下北山村】奈良県庁職員から下北山村役場職員へInterviewee:下北山村役場職員 堀内亮介さん

~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~

編集者の徳永です。これまでの対談とは少しスタイルを変えてお届けいたします。

今回訪ねたのは、奈良県の最南端に位置する「下北山村」。下北山村ってどんな地域でしょう。旅くらサイトをご覧の方の中には、ご存知の方も多いかと思いますが、あまりよく知らないという方にも楽しんでいただけるように、下北山村の魅力もお伝えしながら、移住して活躍している一人の男性をご紹介したいと思います。

私どっち向いてるんですか!?(左)、 堀内亮介さん(真ん中)、編集長・生駒(右)

下北山村ってどんな地域!?

奈良県の南にある村は3つ。十津川村、野迫川村、そして下北山村。これらの村へ出かける時は気合を入れて運転しなければなりません。下北山村へは、奈良市中心部から車で約3時間。往復約6時間。取材ともなると1日仕事です。

下北山村といえば、バス釣りをイメージする方が多いのではないでしょうか。バス釣りのメッカ「池原ダム」があります。その近くには、癒しの温泉「きなりの湯」。食をイメージされる方は奈良の伝統野菜のひとつ「下北春まな」でしょうか。郷土料理のめはり寿司が有名です。また、面積の9割以上が森林ということもあり、「自伐型林業」などで山林を守っています。伐採した木から生まれた木工品も目にする機会が増えました。文化財という視点では、2022年2月に発行された冊子「気になる!きなりの郷 下北山村の文化財」(旅くら編集長・生駒が担当)に知らなかった情報もたくさん詰まっています。詳しくは、以下リンクからレポート記事をご覧ください。

およそ人口800人の村で、過疎市町村のひとつです。下北山村で暮らす人の中には、和歌山など外に働きに出る人もいるようですが、村で働く人は基本的には村民。村をつくる人と村民がとても近い存在です。しかし、2017年にはコワーキングスペース BIYORIをオープンし、移住交流を活発に行ったり、移住者受け入れに力を入れていたり、イベントもしかりイキイキとした印象を受けます。


さて、下北山村のイメージはだいたいつかんでいただけたかと思います。
いよいよ本題。そんな村に移住した人とはいったい!?

今回インタビューしたのは、趣味は海釣りとサーフィン、海を愛する人。山に住んでいて海好きというだけでも興味をそそられます。約2年前に下北山村へ移住した堀内亮介さん。下北山村地域振興課課長補佐、現在44歳。移住のきっかけやそれまでのお仕事についてお話を伺いました。


堀内さんのこれまでの経歴

大阪府羽曳野市で生まれ育ち、今宮工業高校卒。堺市の下水道工事の現場管理の会社に就職したものの、ハードワークのため1年で退職。親御さんのすすめもあり、もう一度学業の道へ。予備校に通い、宮崎県の大学へ進学。

堀内 なぜ宮崎かというと、高校3年生からサーフィンをはじめていたので、サーフィンを楽しみたかったということも理由のひとつです。

大学では国際文化を学び、オーストラリアへの留学も経験。本が好きということから通信教育で図書館員の資格をとり、公務員予備校で勉強をするなど、20代前半は学業に勤しみました。地方の小さな自治体にも興味を持ちはじめていた頃、奈良県庁に合格。26歳で入庁。まず配属された吉野土木事務所で、上北山村、下北山村を担当。

堀内 用地係は大変な仕事と思われがちですが、いろんな人の家に訪問することができて楽しかったですね。この3年間で知り合いが増えました

その後、異動で商工課総務係へ。なんでもする部署で、楽天との連携協定も担当。外部の優秀な人材とのやりとりに刺激をもらい、出会いも多い時期を過ごしました。

次の異動先は南部の観光振興。3年半、十津川村の農家民宿の活性化など、南部を盛り上げたいという上司についていましたが、いろいろ組織論と相反することや自分なりに思うこともあり、別の場所、外へ出たいという意識が芽生えはじめていました。

堀内 実は、一度海外で働きたいと思っていて、海外への研修制度にも興味を持っていました。TOEIC750点以上あれば対象になるので、吉野土木事務所にいた頃に勉強しクリアしていたんです

なんとも驚きです。やりたい方向が見つかると、それに向けてがんばれるパワーがある堀内さん。しかし、その制度はなくなっており、結果、大学の頃に過ごした宮崎県への出向の枠に収まることに。またまたサーフィンを楽しめる日々に舞い戻りました。

堀内 毎朝5時半に海へ行って、8時に海からあがっても仕事に行ける環境でした

好きを極められたということですね。宮崎県での2年間は、観光の仕事を担当。古事記編纂1300年記念事業の時期でもあり多忙な日々を過ごしていました。記紀編纂の事業がかなり進んでいた奈良県との橋渡しとして、映画監督の河瀨直美さんをお呼びすることもありました。

その後2年間、平城宮跡事業推進室で平城宮跡の整備に携わりました。そして奥大和移住推進交流室での3年では、いろんなイベントを仕掛けましたが、なかなか手応えが感じられない悶々とした日々が過ぎました。

堀内 楽しいことをやってみて化学反応が起こったら次に進めるタイプだったんですが、一緒に働く部下への理解や、ゴール設定を求められましたね。上司の言葉足らずぶんを言語化して通訳していましたが、説明しきれないこともありました

観光局に戻り、コロナ禍で平城宮跡の大立山祭りに関わりました。開催するかしないかの判断を迫られた大変な時でした。観光事業は「誰の、何のために開催するのか」がぶれると意味がなく、疑問に思うことも増えていく環境下で、このまま続けていると誰かへの不満や愚痴を言いながら仕事をしていくことになっていく…そう思ったのが退職のきっかけでした。


そして下北山村へ

悩んでいた時期に下北山村の知り合いから採用試験があることを聞いていた堀内さん。「一度、下北山村へ遊びに来たら!?」そう誘われて夏に休暇をとり、下北山村へ。そして秋に採用試験を受け、下北山村で働くことが決まりました。

その知り合いというのが、下北山村出身、移住者を増やしたいと若者を常に探している下北山村地域振興課課長の和田英樹さんです。後日談ですが、「堀内くんはきっと来てくれるだろう」と確信していたそうです。

堀内 今も忙しいですが、楽しいですね。全部やらないといけませんけど、プレーヤーばかりです。大きな組織だと現場が見えませんから。机に向かっているより、なんでもできる人に憧れます。ただ、退職については当時の県庁の上司には申し訳ない気持ちです

今は、観光や特産品づくりを推進する、地域商社づくりに取り組み、法人化を目指しているところです。

堀内 組織づくりは大変です。メンバーを募集してもすぐに辞める人もいます。志が違ったり、何をしていいか指示を待つ人も多かったり。まだまだスタートアップで、価値観を共有することが大切だということを学んでいます

誰でもいいから人を集めればいいということではないということです。

堀内 どうしていいかわからない時期もありました。でも、簡単に諦めなければ成功かなと思っています。今後、観光にも力を入れていきたいです。答えは持っていませんから、トライアンドエラーを繰り返しながらやっていくしかないですね。私、失敗しかやらないので

いただきました。座右の名!? 失敗から学べることはたくさんありますね。

堀内 下北山村にきて、県庁時代はできていると思っていたことができないこともあり、天狗にならずにすんでいるかなと思います。日々勉強です。地域にいいことって何かは、やはり現場を知ることが一番です。目線が変わりました。

他の人がやっているから成功するわけでもなく、他の地域で成功していることを真似ることが地域にとって良しとされることでもなく、現場の情報を大切に活動している堀内さん。県庁から下北山村へ移住して約1年半。今の心境を伺いました。

堀内 まだわからないこともあり、新鮮です。生活にも不便はありません。海へは車で約40分で、好きな釣りもサーフィンも楽しめています。移住は大決断ではなく、楽しい方に動いたらここにいた、という感じですね


今後の目標

最後に今後の目標を語っていただきました。

堀内 地域に関心がある人やここで活動できる人を増やしていきたいですね。地域の組織とか草刈りができなくなってきているので、村を維持するためにも住んでもらうことが目的です。今の暮らしを維持していきたいと思ってもらえる村づくりです。でも、誰でもいいわけではなく、地域も人を選ぶ時代だと思います。村の人口が20年後半分になると言われています。自分の生まれた場所が廃れていくことって寂しいですし、子ども達に“いい村だな”と思ってもらいたいし、高齢者の方にもこの村はよかったと思ってほしいです。そんな村づくりが行政の仕事かなと思います。ここに生まれてよかったと思える村でありたいですよね。村に戻ってきて村のことを一生懸命するのもいいことだと思います。今の子ども達が20年後もこの村を好きだと思ってもらいたい、子どもたちのためにがんばりたいと思います。林業のように100年先を見通すことは私にとっては難しいですが、20年後はまだ想像しやすいです。これまで、村をよくするために活動してきてくれていた方がおられます。一つのカタチを続けるのは難しいですが、その思いが続いていくのは理想ですね。移住者のインタビューってもっとキラキラしていますが、大丈夫ですか?

行政マンとして、地域をつるく人として、十分なほどキラキラしています。ありのままの言葉で本音トークをありがとうございました。


取材は2022年夏頃に行ったものです。現在は、「一般社団法人 下北山つちのこパーク」を立ち上げられ、HPも開設されました。下北山村の特産品や体験をお楽しみください。

https://tsuchinoko-park.com/

(記事・徳永祐巳子、撮影・編集部)

最終更新日:2023/03/28

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