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奈良国立博物館 特別展『春日大社 若宮国宝展 ―祈りの王朝文化―』レポート

20年に一度の「式年造替」完了記念の特別展

奈良国立博物館で、特別展『春日大社 若宮国宝展 ―祈りの王朝文化―』が開催中です(~2023年1月22日まで)。

2022年10月、春日大社の摂社・若宮神社において、本殿の社殿を造り替え神宝や調度品などを新調する、20年に一度の「式年造替(しきねんぞうたい)」が完了しました。今回の特別展はこれを記念して開催されるものです。

若宮神は、春日大社本殿に祀られる四神の御子神として、長保5年(1003)に誕生したと伝えられています。毎年12月に行われる「春日若宮おん祭」は、大和一国を挙げた盛大な祭礼として知られ、保延2年(1136)の開始以来、およそ900年近い伝統を誇ります。

今回の特別展では、藤原摂関家をはじめ平安貴族が若宮神に奉納した太刀や弓、飾り物など、当時最高峰の技術を集めた工芸品を中心に、当代一流の名工が手掛けた古神宝の復元模造なども数多く展示。「平安の正倉院」とも呼ばれる春日大社に伝わる、壮麗な王朝文化の世界が体感できます。

※この日は会期前日に行われたプレスプレビューに参加しています。通常は館内撮影は禁止されています。

会場に入ってすぐ「獅子・狛犬(春日若宮撤下品)」(13世紀、春日大社)などが展示されています。こちらは近年、若宮神社から撤下(てっか。神前に供えた品を下げること)されたばかりで、これが初公開となります。
しかも、このスポットはなんと写真撮影が可能!ぜひ記念撮影してください。

特別展は4章で構成されています。
「第1章 春日若宮神の誕生」では、若宮神の誕生と信仰の広がりを古記録や絵画作品などを通じて紹介しています。
春日神の使いである神鹿が飛来する姿を描いた「春日鹿曼荼羅」(13~14世紀、奈良国立博物館)、若宮神を文殊菩薩として描いた「春日宮曼荼羅」(13世紀、奈良・南市町自治会)など、多様な図像が並びます。

「第3章 御造替の伝統」では、春日大社の御造替の記録類と、過去の御造替で撤下された品々が展示されています。
こちらは、春日大社の第60次式年造替(2015~16年)の際に、本社本殿から撤下された「獅子・狛犬(本社第一殿撤下品)」(13世紀、春日大社)や、八足机などの「御神前調度」(春日大社)、本殿を装飾する「本殿千木」(現代、春日大社)です。展示方法も凝っていて、雅さを引き立てています。

御神宝と復元品 – 見比べることでより愉しく

今回の特別展の最大の見どころとも言えるのが、「第2章 若宮御料古神宝の世界 ―王朝文化の粋―」です。

若宮神社の創建時に藤原摂関家などの貴族が奉納した「若宮御料古神宝類」(国宝)20件すべて、さらにそれらを現代の人間国宝が再現した品々などが展示されています。

平安時代の最高峰の技術と贅を尽くした御神宝と、現代の名工たちがその美を現代に蘇らせた復元品を見比べることで、その素晴らしさがより深く理解できます。

若宮御料古神宝類「金鶴及銀樹枝」「銀樹枝」「木造彩色磯形残欠」(いずれも12世紀、春日大社)は、千年を生きた鶴が洲浜に立つ松にとまる姿を表しています。平安貴族の祝宴の席などで飾られた豪華な飾物の部材なのだとか。

これを復元した「銀鶴及磯形 復元新調」(2022年、春日大社)は、今回が初公開となります。御神宝の材質や制作技法を調査研究し、重要無形文化財(彫金)保持者の桂盛仁氏によって制作されました。平安時代の貴族たちが愛した美が、鮮やかに蘇っています!

こちらは、春日大社本社本殿のうち第二殿より撤下された太刀を復元した「金地螺鈿毛抜形太刀 復元模造」(2018年、文化庁)です。まさに豪華絢爛!

鞘の部分は、螺鈿(らでん)の技法を用い、竹林で雀を追いかける猫たちの姿を描いています。
この太刀は、制作背景や奉献した人物などは不明ながら、猫を愛した藤原頼長が関与したとの指摘があるとか。愛猫家の大先輩による贅沢な趣向と考えるとおもしろいですね。

もちろん、元となった御神宝「金地螺鈿毛抜形太刀」(12世紀、春日大社)も展示されていますので、双方を見比べることができます。金色の輝きはややくすんでいますが、今なおこれだけの美しさが保たれていることに驚かされます。

この他にも、本宮御料古神宝類「蒔絵箏」(12世紀、春日大社)なども、実物とともに復元模造品が展示されています。
数百年がたった今でもこの美しさですが、1980年に制作された復元模造は、今は失われてしまった螺鈿の紋様も復元されていますので、ぜひ会場でじっくり観察してみてください。

「春日若宮おん祭」関連の展示も充実

「第4章 若宮信仰の発展とおん祭」では、時の関白・藤原忠通によって保延2年(1136)に始められたと伝わる「春日若宮おん祭」に関する品など、若宮神をまつる華やかな歴史が紹介されます。
中央の「日使(ひのつかい)装束」(装束:現代、飾太刀と平諸:17世紀)は、春日若宮おん祭の際に関白の代理が身につける装束です。今年の春日若宮おん祭を終えた12/20以降は、この隣に「風流傘」(現代、春日若宮おん祭保存会)が展示されます。

「春日若宮御祭礼絵巻」(17世紀、春日大社)は、春日若宮おん祭の様子を描いた、3巻からなる絵巻です。これは若宮神が深夜にお旅所へ移動される「御遷幸(ごせんこう)」の場面で、現在まで変わることなく浄闇の中で執り行われている神秘の行事の様子が描かれています。

こちらは源義経が所用したと伝わる「赤糸威大鎧(竹虎雀飾)」(13~14世紀、春日大社)です。竹と虎、全体に飛び回る雀の姿などが見られる、豪華で力強い甲冑です。儀式や奉納を目的として制作されたと考えられていますが、ひょっとしたら義経が身につけたこともあったかも……と考えると胸が踊ります!

名品展「珠玉の仏教美術」も必見です

今回はあわせて、西新館で開催中の名品展「珠玉の仏教美術」も追加料金不要で拝観できます。
(※なら仏像館「珠玉の仏たち」、青銅器館「中国古代青銅器」も同様に拝観可能です。)
こちらは奈良・室生寺に伝来した木製の二重箱「春日龍珠箱」(南北朝時代 14世紀)。貴族姿の春日五神、八大龍王などが描かれています。この他にも春日大社と関連する展示品もありますので、ぜひご注目ください。


■式年造替記念特別展『春日大社 若宮国宝展 ―祈りの王朝文化―』

  • 会期:2022年12月10日(土)~2023年1月22日(日)
  • 会場:奈良国立博物館 東・西新館
  • 休館日:毎週月曜日(1月2日[月・休]、1月9日[月・祝]は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)
  • 開館時間:9:30~17:00(※入館は閉館の30分前まで)
  • 観覧料:一般 1,600円、高大生 1,400円、小中生 700円 など

※以下の企画チケットも販売されています。詳細はホームページをご確認ください。

  • 春日大社国宝殿「杉本博司―春日神霊の御生展」との共通チケット(2,000円)
  • クリスタルチャーム付きチケット(2,200円)
  • 研究員レクチャー付き!夜間特別鑑賞チケット(2,500円)

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最終更新日:2022/12/21

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