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「全国を見て回って、やっぱり奈良がいい!と思った」奈良移住者インタビュー:CHEESE CAFE soan 町田美保さん【後編】

~なぜ奈良に? あの人の来寧記~

奈良移住者の方に移住ストーリーや奈良への思いを伺う企画「なぜ奈良に? あの人の来寧記」。第5回は、餅飯殿センター街の商業インキュベータ施設「もちいどの夢CUBE」で、チーズをコンセプトにしたカフェ「CHEESE CAFE soan」を営む町田美保さん。前編記事では、奈良で過ごした大学時代の思い出や、東京に居を移して美術・料理・販売接客など様々な業界や職種を経験した後、「奈良で自分のお店を開く」決意をしたお話を伺いました。

後編となるこの記事では、CHEESE CAFE soanの開業準備や、再びの奈良移住、東京など他の地域を見たからこそ感じる奈良の魅力についてお聞きします。

他の土地を見たからこそ「奈良がいい!」と思った。移住時期は方位学で決定

「奈良で自分のカフェを開く」と思い立った町田さん。出店場所を「奈良」とピンポイントに定めたのは、奈良以外の土地を体験した経験からでした。

町田:「東京への引っ越し直後に感じた『やっぱり奈良は良かった。自分に合っていたな』という感覚。これはその後も色んな職場で働きながら、ずっと変わらずに感じていて、やっぱり奈良がいいと思いました。影絵の劇団で全国を回った時に、奈良の住み良さに気づいたのも大きいです」

奈良を離れて様々な経験をしたからこそ、自分に合う場所として奈良に再び目を向けられた町田さん。移住先だけでなく、移住時期も2021年8月とピンポイントで決定しました。

町田:「移住時期は方位学で決めました。『好きなところに好きなタイミングで移住するのであれば、色んな観点から見てベストを尽くしたい』という思いがあって。方位学の先生に『奈良に移住したいんですけど、ベストな時期はいつですか?』と聞き、もらった回答が2021年8月でした」

開業に向けて走り続けた3年間。移住予定月の2か月前に夢CUBE合格

移住時期が定まると、町田さんはそこに向けて約3年間、あらゆる開業準備を進めていきました。まずは、お店のコンセプトを「チーズ」に決定し、チーズの勉強に取りかかります。

町田:「ケーキファクトリーやカフェ、料理教室など、これまでの経験の中で培った自分の技術を考えて、カフェの中でもチーズケーキをメインにしたいと思いました。開業予定時期から逆算して、チーズプロフェッショナルの資格を少しでも早く取りたくて、恵比寿のチーズ教室に行き、先生にお願いしましたね。『チーズをコンセプトにしたお店を奈良に開く予定なんです。絶対に1年でチーズプロフェッショナルを取りたいんです!』って」

チーズの学びを深めつつ、取引先となるチーズ工房さんとのつながりもつくっていきたいと考えていた町田さん。「こんなどこの馬の骨とも知らない奴に、いきなり商売の話をされても困ってしまうのでは……?」と営業活動に及び腰になっていましたが、ふとした閃きからトントン拍子に道が拓けていきます。

町田:「カルディで同僚だった人が『先輩がチーズ作っているんだよね』と話していたのをたまたま思い出して、その先輩を紹介してもらったら、国産チーズ界のものすごく有名な方だったんです。これはもう神の啓示と思い、そのチーズ工房さんとコンタクトを取り、お取引させていただけることになりました。

有名なチーズ工房さんからOKをいただけたことで、『この感じで頑張ればいいんだ』と、他のチーズ工房さんに声をかける勇気ももらえて、お取引先もどんどん増えていきました」

移住時期が近づき、町田さんは出店場所のリサーチも始めます。

町田:「地元の人にも観光客にも立ち寄っていただける立地が理想でした。不動産屋さんにも声はかけていて、いくつか提案していただきましたが、『そこじゃないんだよな~』と思う場所ばかりで悩んでいました。そんな時、もちいどの夢CUBEの募集をたまたま発見して。

夢CUBEは私の求めていた立地条件にぴったり。奈良には学生時代に暮らしていたものの、商売的なベースは全くなかったので、サポートしていただける環境もありがたいなと思って応募しました」

熱意が通じたのか、2021年6月、町田さんはもちいどの夢CUBE出店に晴れて合格。この時のことを「来たぁぁーっ!って思いましたね。本当に運命的」と熱く語る町田さん。なぜなら、この夢CUBE合格は方位学で決めた移住予定月の2か月前のことだったからです。

改めて移住して感じた奈良の包容力。自分のお店を営む充実した日々

移住直前、奈良での人間関係は大学時代の友人数名のみだったという町田さんですが、移住前後の時期にあっという間に奈良の人とのつながりをつくっていきました。

町田:「移住する1か月前からお店のTwitterを始めて、夢CUBEの人たちをはじめ、奈良の皆さんとどんどんつながっていきました。皆さんに受け入れていただけたのは、私が『奈良、好き~!』と本心から発信しているのが伝わっているから、というのもあると思いますが、何よりも奈良に包容力があるからかなとも思いました。奈良の皆さんは、新しい人がやってきた時のウェルカムモードが凄いなと感じます。

ちなみに、『どうして奈良に包容力があるのか?』について、仮説として考えていることがあります。それは、自然と人が集まる場所だったから、という説。古い建物がたくさん残っているということは、奈良は恐らく昔から災害が少なくて、古代の人に『ここなら安全』と思われたのかも知れません。そして自然と人が集まる場所、都になっていったからこそ、色んな人を受け入れてくれる包容力があって、移住者にも優しいのかな……なんて想像しています」

3年前から決めていた2021年8月の移住を予定通り果たし、町田さんは同年11月にCHEESE CAFE soanをグランドオープン。以降、お店を一人で切り盛りしてきました。

町田:「『寝る時間と食べる時間をいかにつくるか』という日々ですね(笑)。当然ながら11時~20時の営業時間中、ずーっとお店にいるので、接客や料理をする以外は、時間を見つけて自分の食事をしたり、事務的な作業をしたり。定休日の木曜日も、買い出しに行って、仕込みして、深夜に帰宅するので、実質休みではありません。

でも、好きなことをやっているので、労働という意識はなく、むしろエネルギーがどんどん湧いてきます。チーズケーキの種類も『一人でやってるのに、出し過ぎじゃない?』と言われることもありますが、やりたくてやっているから止められないんです(笑)。長い間、目標にしてきた自分のお店ですからね」

奈良の町から、もっと多くの国産チーズを発信したい

改めて暮らし始めた奈良でとりわけ魅力に映るのは、やはり「ゆったりとした空気」だと語る町田さん。

町田:「奈良の人は穏やかでのんびりとした、優しい方が多いなと感じます。お店を1年以上やっていて、お客様から『まだですか?』と急かされたことはないに等しいです。

家からお店に向かう途中にある狭い道でも、車がお互いに譲り合って通り、ゆっくり歩いているお年寄りがいても誰も急かさず、クラクションも鳴らさずに、うまいこと配慮し合って通行しているんです。東京などでこういう場面があったら、車も歩行者もイライラが募ってしまいそうですが、奈良ではそうした空気は感じません。

この様子を見て、『奈良の人は魔法使いかテレパシストなの!? 皆さん素晴らしくない!? あの力はどうやって培われたの!?』とものすごく感動したのですが、奈良の人は『当たり前やから~』と言うんです。これが当たり前って本当に凄いこと。他の町を見たからこそわかるのですが、これは当たり前ではないんですよ」

「奈良に骨を埋めると決めている」と語る町田さん。最後に、今後のお店運営について描いているビジョンを伺いました。

町田:「夢CUBEの出店期間は3年間。この期間が終わったら、猿沢池からあまり離れない場所に移転して、お店の規模も大きくするというのが目下の目標です。

また、色んな国産チーズをもっと幅広く発信したいですね。日本のチーズを作っている方は、『牛にも自然にも人にも優しい』を意識している人が多いのですが、『自然と現代の人間の暮らしが美しく調和する』という奈良との共通点を感じています。国産チーズと根底で通じ合うような場所・奈良から、よりたくさんの日本のチーズを発信していきたいです」

奈良の楽しさを味わった学生時代、奈良の住み良さに気づいた全国巡業、多彩な職業に就き経験を重ねた東京生活。あらゆる体験が、町田さんを再び奈良に呼び戻し、唯一無二のお店作りへと結実していきました。

インタビューの間、印象的だったのは、何よりも町田さんの奈良愛。口に手を当てて遠くの人に呼びかけるようなポーズで、「日本の皆さん~!気づいていらっしゃいます!? 奈良は素晴らしいの。みんな引っ越してきた方がいい」などと、全国の皆さんに語りかけるように奈良の魅力をエネルギッシュに語り続けてくださいました。この熱く力強い語りは、町田さんが東京をはじめ、他の地域を見た上で「奈良がいい」と体感したからこそかも知れません。

町田さんが感じる奈良の魅力について、もっと聞きたい方は、ぜひCHEESE CAFE soanを訪ねてみてくださいね。

(取材・文:五十嵐綾子 写真:北尾篤司)

CHEESE CAFE soan
https://twitter.com/Soancheese

最終更新日:2023/02/24

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