奈良、旅もくらしも

【連載】ニシムクサムライ「第1回 はじめまして」松島靖朗

文/松島靖朗 タイトル絵/上村恭子

むかしむかし、お日さんとお月さんが伊勢参りをしようと相談していました。雷さんがこれを聞いて「どうか私も連れて行ってください」と頼みました。

お日さんもお月さんも雷さんに向かって「おまえみたいにゴロゴロと言うのはやかましいから連れていきたくない」と申しました。

雷さんは伊勢参りしたくてたまりません。「これから心を改めて、けっしてゴロゴロ言いませんから、どうぞ連れて行って下さい」と頼みました。あまりにも雷さんが頼みますから、仕方なしに連れていくことになりました。雷さんは大喜びです。

途中で宿屋に泊まりましたが、雷さんの寝ている間にお日さんとお月さんが相談されます。

「雷さんはああ言っていたが、すぐゴロゴロと言うに決まっているから、今のうちに立ってしまおう」

まだほの暗いうちに、お日さんとお月さんは宿屋をあとにしたのでした。

さて雷さんが目を覚ますと、お日さんもお月さんも見えません。
どうしたことか?と宿のご主人に尋ねますと「もうさっきお立ちになりました」と言います。

雷さんはおどろいて「月日の経つのははやいものだなあ!」と言いました。

宿の主人、雷さんに「いつお立ちで?」と訪ねます。 「私は夕立(ゆうだち)にしよう」

さて、東京から奈良にもどり、坊さんになり、はや10年が過ぎました。もう10年 ……
「月日が経つのは早いなぁ……」

みなさん、はじめまして。田原本町にある安養寺というお寺で住職をしています松島靖朗(まつしま・せいろう)です。ご縁あって「奈良、旅もくらしも」で連載させていただくことになりました。どうして僕なんだ(笑)

冒頭でご紹介の小話。落語のまくらで聞いたりするお話ですが、お寺のある田原本町の古い話を探していたら『磯城郡川東村外三ヶ村風俗志』という書籍と出会い、その中に似たような話がありました。え?この話って地元に伝わる話だったの?みたいな……(笑)

大正4年(1915年) 奈良県教育会の指示にもとづいて磯城郡川東村(現在の田原本町)・川西村・三宅村・都村の風俗志が作成されました。それにしても奈良って掘り返していくと、色んなものが出てきますね。ほんとに遺構とか木簡とかゴロゴロ出てきますから。

田原本のお寺で住職をしているってことを紹介したかっただけなのですが、えらい長い話になってしまいました。

「月日が経つのが早い」でいうと……、みなさん、日の数が31日無い月は2月、4月、6月、9月、11月で、この5ヶ月を語呂合わせで「ニシムクサムライ」とおぼえませんでしたか? でもこれ、なんで思えたんでしたっけね、生活の知恵的な?

普段はあんまり使わなくなりましたが、音の響きがよくて思わず声に出して独り言みたいに言うことあります。そういう言葉ありますよね。ありませんか。「ありおりはべり・いまそかり」とか「すいへーりーべーぼくのふね」とか「なむかんじーざい」とか「ぎゃーてーぎゃーてーはらそーぎゃーてー」とか(笑)

今回、連載の話を頂いて、まあなんというか、奈良で修行する坊さんが考えていることを久しぶりに書いてみるか〜とお受けしたんですが、(お声がけくださった砂川さんとか生駒さんは僕がまだ坊さんになるまえの修行時代をご存知なので何を期待されてるのかちょっと心配ですが……)さて何を書こうか……頭を抱えてしまいました。

とりあえず、新しいノート買ってこよう、みたいに形から入る癖が出て、ノート、つまり連載タイトルを考えようと、ぱっと思い浮かんだのが「ニシムクサムライ」だったのです。

僕は今、田原本にあるお寺で修行生活を送っています。田原本があるあたりは「くんなか」ともよばれ、奈良県のまんなか、北に行くのも南に行くのも案外便利な場所なんです。最近は京奈和自動車道の三宅インターもできて車で大阪に出やすくなりました。(おいおい)

また話がそれました。

僕がなんのために修行しているかというと、その日がやってきたときに「極楽浄土」(ごくらくじょうど)という世界に生まれ変わるために修行しています。極楽浄土は今僕たちがいきているこの世界からずぅーーーーーと西にある世界なんです。

「ニシムクサムライ」 西向くサムライ 西向く侍

西に思いを馳せながらお寺にいる人の奈良の日々、あまり考えず、気ままにお伝えしていこうと思います。どうぞよろしくおねがいします。

松島靖朗拝

執筆者紹介

連載「ニシムクサムライ」
文/松島靖朗 

編集部から

松島さんは奈良県磯城郡田原本町にある安養寺のご住職です。わたしたちが松島さんを知ったのはTwitter黎明期。松島さんは手練れの投稿職人(?)でした。その後、松島さんが2014年にスタートさせた、お寺への「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する仕組み [おてらおやつクラブ] の活動は、2018年度グッドデザイン賞大賞を受賞するなどしながら共助の輪を広げています。度々驚かせてくれる松島さんの日常を、垣間見ることができるかも(できないかも)な連載です。

最終更新日:2021/02/09

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