奈良県観光局では地域の課題解決と持続可能な発展をめざし、「奈良の観光地域づくり」について取り組んでいます。奈良県庁の思いや、地域のキーパーソンのインタビューを掲載していきます。
※本記事は月刊奈良2025年1月号で掲載した記事と同じ内容です。
元々実家は葛の店ではなく食堂なんです。店を継ぐために地元に戻った際、葛という素材に可能性を感じ、独学でその製法や歴史を学び、新たに「葛屋 中井春風堂」を2014年に開業しました。
開業してから私が特に大切にしているのが、お客様の目の前で行う葛餅や葛切りの実演です。基本的に私自身が1日に最大で14回ほど実演を行っています。お客様に見ていただくことで得られるリアクションは私にとっても大きな学びで、葛や吉野山に対するお客様の意識や期待を知る貴重な機会となっています。
吉野山は桜の名所として知られる観光地ですが、現状には多くの課題があります。春や秋の観光シーズンには多くの人が訪れますが、トイレの数が足りず、不便を感じる方も。ベンチも少ないので休憩がしにくい。また夜に営業している飲食店が少なく、素泊まりのお客様が困るケースもあります。
観光客が快適に過ごせる環境を整えることはもちろんですが、吉野山の多くの社寺をより楽しんでいただける仕組みも必要です。お参りの仕方がわかりにくいといった声に応えるため、手を合わせたくなるような仕組みや、訪れる方がわくわくするような案内の工夫を考えていきたいと思っています。
空き家の増加も大きな問題です。吉野山の建物は「吉野建て」と呼ばれる特徴的な造りで、改修するには莫大な費用が必要です。このため、住みながら商売をする人が増えにくい状況が続いています。もし、「吉野山に住んで商売しませんか」と窓口をつくり、積極的に呼びかけられれば、関心を持つ方もいるかもしれません。しかしこうした取り組みを地域だけで担うには限界があります。行政との連携が不可欠だと感じています。
吉野山の中でも、地域の中での温度差や意識の違いもあります。個々の商売意識を超えて、地域全体で観光地としての価値を高める視点がこれからますます必要だと感じます。
葛屋 中井春風堂 店主 中井孝嘉さんProfile
高校卒業後、約10年間料理や菓子を学び、その後稼業に就く。2014年に独立し、葛屋 中井春風堂を開業する
最終更新日:2025/03/13