聖武天皇の愛用の品々など豪華絢爛な計67件が出陳
奈良の秋の風物詩『正倉院展』が、奈良国立博物館(奈良市)で開催中です(会期:2025年10月25日~11月10日)。
「正倉院宝物」は、光明皇后によって献納された聖武天皇の遺愛品、大仏開眼会など東大寺での法要にまつわる品々など、奈良時代を中心とした約9,000件を数えます。
第77回を迎えた今年は、奈良国立博物館の開館から130周年、開館のきっかけとなった奈良博覧会からは150周年の記念イヤーです。大きな話題となった関西・大阪万博の開催年でもあり、正倉院展も例年以上の豪華ラインナップとなりました。
深い紺色が美しい「瑠璃坏(るりのつき)」を筆頭に、「蘭奢待(らんじゃたい)」として知られる名香など国際色豊かな宝物や、第1回の奈良博覧会にも登場した巨大な筆「天平宝物筆(てんぴょうほうもつふで)」、聖武天皇の身近におかれた「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」など、名だたる名品がずらりと出そろいました。

『第77回 正倉院展』では、初出陳となる6件を含む計67件(北倉17件、中倉19件、南倉28件、聖語蔵3件)が出陳されています。
※この日は会期前日に行われたプレスプレビューに参加させていただきました。通常は館内撮影は禁止されていますのでお気をつけください。
コバルトブルーが煌めく「瑠璃坏」が圧巻!

例年以上に華やかな宝物がそろった『第77回 正倉院展』ですが、その中でも主役級の注目を集めるのが、美しいガラス製のさかずき「瑠璃坏(るりのつき)」です。
今回の展示では、会場の最後の一室を丸ごと使用して、このさかずきの美しさを360度から拝見できる贅沢な仕様となっています。

広い展示室の中央に一脚だけで展示された「瑠璃坏」。スポットライトを浴びて、周囲までコバルトブルーが拡がります。気高さと同時に、はるか西方からもたらされた妖艶さまでも感じられ、奈良時代の人々もこの美しさに魅了されたことでしょう!

正倉院展のミュージアムショップでは、毎年美しいデザインのオリジナルグッズがずらりと並びますが、今年は「瑠璃坏」をモチーフにしたアイテムが多数展開されています。必見です!
14年ぶりの出陳!天下の名香「黄熟香(蘭奢待)」

天下の名香として名高い「黄熟香(おうじゅくこう)」の14年ぶりの出陳も大きな話題となっています。その文字の中に「東大寺」の三文字を隠した雅号「蘭奢待(らんじゃたい)」として知られる香木で、堂々たる姿は迫力満点です。

「黄熟香」には多数の切り取られた痕跡がありますが、そのうちの3か所には足利義政、織田信長、明治天皇が切り取ったことを示す紙箋が付属しています。天下人たちとの歴史までもを至近距離から体感できます。
東大寺大仏の開眼法要などに用いられた品々も

150年前の第1回奈良博覧会にも出展された「天平宝物筆(てんぴょうほうもつふで)」は、東大寺大仏の開眼法要に用いられた特大の筆です。天平勝宝4年(752)の開眼法要に加え、文治元年(1185)に再興された大仏殿での開眼法要でも後白河法皇が用いた旨の銘文が見られます。

同じく天平勝宝4年の大仏開眼会で用いられた、藍染めの絹紐「縹縷(はなだのる)」。大仏に眼睛を点じた筆に結ばれて、参集者はこの紐を手にして功徳に与ったとされる由緒ある品です。東大寺の大仏開眼という国を挙げての一大行事の荘厳さが伝わってくるようです。

こちらは儀式に用いられたほうき「子日目利箒(ねのひのめとぎのほうき)」です。養蚕と農耕が順調であることを祈る中国の儀礼に倣って、天平宝字2年(758)正月に行われた儀式で用いられたもので、孝謙天皇から下賜されたものが東大寺に献納されたと考えられるとか。

「子日目利箒」は、遠目からはシンプルなほうきに見えますが、把の部分は革とガラス玉の飾り(かつては15段もあったとか)で巻いてあり、枝先にはガラス玉が挿し込まれていました。華やかな当時の宮廷儀式の姿が伝わる興味深い品です。
最高の技を駆使した華やかな宝物がずらり!

「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」は、聖武天皇が愛用し身近に置いた双六盤で、寄木細工の技法で美しい装飾文様に彩られています。
同時に象牙製のさいころ「双六頭(すごろくのとう)」、双六に用いる美しい駒「水精双六子(すいしょうのすごろくし)」なども展示されており、その豪華さには目を見張るばかりです。

聖武天皇ゆかりの鏡「平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)」は、背面はヤコウガイの貝片を用いた螺鈿で文様が表され、地の部分にはトルコ石やラピスラズリの小片が埋め込まれたもの。じっくりと文様を観察するとその世界に没入してしまいます。

東大寺の法要で用いられた「桑木阮咸(くわのきのげんかん)」は、四絃の希少な楽器です。会場内では実際に演奏した際の音源が流れていて、奈良時代の空気がよみがえってくるかのようでした。

「花氈(かせん)」は、豊麗な花文様を表したフェルトの敷物です。正倉院には31点の花氈が伝来しており、その中でもとくに色彩表現が豪華な一品だとか。こちらも東大寺での法要の場で用いられたと考えられもので、千年以上の時を経たものとは思えない美しさです!

「馴鹿角(となかいのつの)」とされていますがが、近年の調査でトナカイではなくシカ科の動物シフゾウののものと判明した一品です。「象牙(ぞうげ)」の名称で伝わっていながら大型クジラ類の肋骨と判明したものなども展示されており、正倉院宝物の世界では今なお新たな知見が得られていることがわかります。
例年以上の豪華な内容となった『第77回 正倉院展』ですが、宮内庁正倉院事務所による最新の宝物調査の成果なども織り交ぜられ、“すべてが見どころ” と言うほどの濃密さでした。ここで全てはご紹介しきれませんので、ぜひ会場でご堪能ください。
(文・中村秀樹、写真・中村恵理子)
■第77回 正倉院展
- 会期:2025年10月25日(土)~11月10日(月)※会期中無休
- 会場:奈良国立博物館 東西新館
- 開館時間:8:00~18:00(金土日祝は20:00まで)
- 観覧料:一般 2,000円、高大生 1,500円、小中生 500円 など
※観覧には原則、事前予約制の「日時指定券」の購入が必要です(無料対象の方を除く)。
※「日時指定券」に空きがある場合には、奈良国立博物館敷地内の特設窓口にて当日の「日時指定券」が販売されます(発券料200円/枚が必要)。
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最終更新日:2025/11/01

