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今月のおやつとうつわVol.7 小谷商店「黒豆きなこ丸」、ならまちミレー「たまごボウル」

小谷商店「黒豆きなこ丸」
ならまちミレー「たまごボウル」

家で過ごす時間がぐっと増えたこのご時世。いつも同じ場所リモートワークやリモート授業……飽き飽きしてしまった人も多いはず。この連載では、奈良で手に入るおやつと器をご紹介します。素敵な器においしいおやつをのせて、おうち時間をちょっぴり楽しくしてみませんか。


寒暖差が激しい季節になった。朝は冷え込むのに、昼には汗をかいてしまうので、せっかく買った秋服をクローゼットから出したり入れたり。でも、この気温差のおかげか、早朝には若草山にうっすら靄がかかる。早起きは苦手だけれど、最近はその幻想的な景色を見ようと四苦八苦している。今回は、その「靄」に関係するお菓子をご紹介。

昔ながらの喫茶店や商店が立ち並び、どこかレトロな雰囲気が漂う大和郡山市。そんな街の一角にある「小谷商店」の看板商品「黒豆きなこ丸」は、私がここ最近ですっかりはまってしまったお菓子。宇陀産の黒豆を煎り、表面に黒豆のきなこと黒糖をまぶした豆菓子で、一度食べたら本当に病みつきになる。黒豆は、寒暖差が激しい土地ほど甘く、おいしく育つ。気温差によって生じる靄が豆を熟成させるからだ。宇陀市の気候は黒豆栽培にぴったり。収穫した豆は人の手でサイズごとに丁寧に仕分けられ、特に大きいものが黒豆きなこ丸の材料になる。だから、普通の豆菓子よりも二回りほど大きい。「立派な豆だなあ」と眺めた後、口に入れる。まずは、サクッと黒豆きなこと黒糖の層。その後にお待ちかねの黒豆。かりっと心地よい歯ごたえの後、嚙めば嚙むほど豆本来の香ばしい甘みがにじみ出てくる。

たっぷりかかったきなことサクサクの食感が癖になる
黒豆きなこ丸(540円)

「体にいい黒豆をおいしく食べてほしい」と語る店主の小谷芳子さん。最近は、砂糖菓子がいっぱい乗ったかわいいケーキや、カラフルなアイスクリームなど、見た目の華やかなスイーツについつい目がいきがち。でも、奈良で昔から愛されてきた素朴なお菓子は、体によく、添加物に慣れ切った舌をリセットしてくれる。体も心もきっと喜ぶに違いない。


コロコロかわいい豆菓子にぴったりな器を見つけた。ならまちにある雑貨屋「ならまちミレー」で販売する、陶芸家・高木浩二さんの作品。奈良で陶芸の修業をしてきた方だそう。独特の作風で、おしゃれな器がたくさん並んでいる中でも、ちょっと異彩を放っていた。コロンとしたフォルムで、手の中にすっぽり収まる。裏面までしっかり釉薬が掛かっているので、ひっくり返すとオブジェにもなる。表面は本物の石のような質感。その中に木の実のようなお菓子を入れるので、ままごとでもしているような気分になった。そして一番の魅力は、異なる釉薬を数回に分けて重ね塗りするという絶妙な色合い。ずっと地中に埋まっていた岩石にも、靄の中に透ける風景にも、古い記憶の中の色にも見える。大げさかもしれないが、本当に人間が作ったのかな?と思ってしまった。見ていると、懐かしいような切ないような気持ちになる。複数の色が使われているが、それらが柔らかくと溶け合っているので、色鮮やかな食材にもなじむ。旬の柿や葡萄も映えそう。「繊細な器は、食べる時の感覚を研ぎ澄ませてくれる」という店主の三宅みゆきさん。店頭には色形が複雑微妙なものがいっぱいでついつい見入ってしまう。この器も色こそ複雑だが、形がシンプルでしっかり厚みがあるので、気兼ねなく使える。色と形を楽しみつつ、毎日の食卓で活躍させよう。

たまごボウル(2,200円)
裏返すと本当に河原の石のよう

黒豆は、宇陀の靄の中で美味しく育つ。その黒豆を使ったお菓子を載せるのに、「靄」を思わせる器に出会えたのは偶然だろうか。立派に育って、お菓子として生まれ変わった黒豆を故郷の風景で包み込んであげる。そんなつもりでこの器に入れると、より一層味が深まるような気がする。

(記事・岡田菜友子)

小谷商店(こたにしょうてん)  
住所:奈良県大和郡山市柳2丁目23
電話:0742-55-2266
営業時間:9:30~17:30
定休日:土・日
駐車場:有 
https://www.kotani-shouten.jp/


ならまちミレー
住所:奈良県奈良市芝突抜町1
電話:0742-93-8865
営業時間:11:30~17:00
定休日:月~水(催し物で変わる場合があります)
駐車場:無
https://www.naramachi-millet.com/

最終更新日:2021/10/27

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