文・絵/ヨシノマホ
地元奈良の高校を卒業したある年の4月、新たな学び舎である京都の大学に通うため、私はぎゅうぎゅう詰めの満員電車に揺られていました。“片道3時間” という今では考えられないような通学時間もあいまって、学校へ到着する頃にはすでに満身創痍の私…。(この生活を4年間続けて、みごと腰痛持ちになりました!)
やっとの事で教室へと到着し、出席番号で指定された席に着席。一息ついてから辺りを見回してみると、当たり前ですが知った顔は一つもありません。聞こえてくる会話の中には時々聞いたことのないイントネーションが混ざっていたりして、私は改めて県外に進学したのだと実感しました。
それからしばらくして、はじめてのクラスミーティングがはじまりました。知らない場所で知らない人たちに囲まれている不安の中、人前で話すことが超絶苦手な私にとっては苦痛でしかない “あの時間” が、ついに…ついにやってきてしまいました。
知らない者同士が、これから一緒に学んでいく上で必要な通過儀礼。……そう!自己紹介という名の試練です!
北は青森から南は沖縄まで、全国各地から生徒が集まっていたからなのでしょうか?
ただでさえ苦手な自己紹介に “出身地についての話題を織り交ぜる” という(余計な)条件が追加されていることを知り、私は今にも口から心臓が飛び出しそうな程に緊張していました。
そのうえ出席番号が一番大きな数字だったせいで、なんと!自己紹介のトリを飾ることになってしまったのです。
そんな私の状況を知ってか知らずか、順調に自己紹介を終えていくクラスメイト達…
当時の私は「奈良といえば大仏と鹿!」くらいの認識しかなかった(しかも大仏様の正式名称が「盧舎那仏(るしゃなぶつ)」であることも、奈良の鹿が「神の使い」であることも知らないレベルだった)ので、豊富な知識を織り交ぜながら堂々と自己紹介をするクラスメイトを前に、ますます焦りが強くなっていました。更に不幸なことに、私の前には同じ奈良県出身者が2人も控えていたのです。
(これが一体何を意味するのか…!?)
「神様仏様!どうかお願いします!」
私は今考えている “最悪の事態” が起こらないよう、心の中で必死に祈りました。
…シカし…
無情にも私の祈りが神仏に届くことはなく…、唯一知っている奈良の知識が2つとも既出してしまうという最悪の事態に、私はパニックに陥りました。しかし、いくら焦ろうとも順番は着実に近づいてきます。
大トリを飾る自己紹介。今までウトウトと眠りかけていたクラスメイトの視線までをも集めながら、私は口を開きました。
出来ることなら今すぐこの場から消えてしまいたい…ッ!!
緊張と恐怖で頭の中が真っ白になってしまい、このあと何を話したのか?全く記憶は残っていません。
緊張と不安の上に最悪の条件が重なった自己紹介は、案の定失敗に終わってしまいました。
自分の故郷について大仏と鹿以外に何も知らない(奈良に全く関心を持っていなかった)ということを、この時にはじめて自覚しました。恥ずかしながら、当時は出身地の吉野や近くの明日香村のことでさえ、頭に浮かぶことはありませんでした。
それにしても、出身地についての話題を織り交ぜなければならない自己紹介とは…。他のクラスメイトも何人か苦戦していましたが、ちょっと無茶振りではないかな?と今でも思っていたりします。
執筆者紹介
ヨシノマホ
奈良生まれ奈良育ち。「楽しく!面白く!」をモットーに、大好きな奈良を題材としたイラストや漫画、奈良グッズなどの制作を行っている。
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最終更新日:2021/09/01