奈良、旅もくらしも

平安スイーツ本出版記念オンライン講座

初めまして!生まれも育ちも奈良、奈良が大好きな社会人6年目の才治と申します。
幼少のころから奈良の史跡を巡り、大学では考古学を学びました。
今はライティング、イベントの司会、ツアーの添乗などをしています。


『枕草子』『源氏物語』といった古典文学に、みなさんはどのような印象を持ちますか?実は私は小学生の時に音読をしたり、テストに出てきたりしたものの、イマイチ物語の内容は頭に入ってこなかったし、昔の人が何を考えていたのか、どんな暮らしをしていたのかピンとこないなぁ……と思っている節がありました。古典ってどこかとっつきにくい、堅苦しい、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そんな古典のイメージが変わるであろう一冊の本が2021年9月に出版されました。その名も『古典がおいしい!平安スイーツ』(かもがわ出版)。著者は奈良女子大学協力研究員の前川佳代さんと宍戸香美さんです。

前川さんは、10種類の古代菓子を今ある材料で多少のアレンジを加え再現した「古代スイーツ」のレシピを作られました。そこに、宍戸さんがそれぞれの古代菓子が登場する古典文学がどんなあらすじかを解説し、さらに古代菓子が登場する部分の古典の原文と現代語訳、歴史的説明を入れられた形で構成されています。全ページカラーで、イラストや写真を添えながら優しい言葉で解説されているので、古典初心者の大人はもちろん、子どもたちにもとっつきやすいのが特徴です。昔の人たちが食べていたもの、と言えば歴史資料館なんかで、平安時代の「貴族の食事」「庶民の食事」と書かれて、食べ物が器に盛られた復元模型が展示されているのを見た記憶がパッと浮かびます。そういえば貴族の食事の器は豪華で、お菓子のようなものが並んでいたような、いなかったような……。薄い薄い記憶しかありませんでしたが、この本を読んで、こんなおいしそうな食べ物が古代からあったなんて!と目から鱗でした。実際にレシピを考案し古代スイーツを作られたことで、古代の食べ物が現代によみがえったようで、資料館で復元模型を見ている時とはまた違った、タイムスリップしたような気持ちになりました。

本書の出版を記念したオンライン講座が2021年9月3日に開かれました。前川さんと宍戸さんが出演され、本ができるまでの経緯や、古代菓子ならぬ古代スイーツ再現への想い、古典文学の中でどのような古代菓子がどのような場面で登場しているのかなど、お話いただきました。

まず、前川さんは古代の天皇や貴族が食べていたとされる古代甘味料「あまづらせん」(甘葛煎)に着目し、あまづらせんを再現する実験を2011年に始められました。あまづらせんとは、冬に、ツタの茎から樹液を取り出して煮詰めたもの。奈良女子大学にツタが生えていたこともあり、あまづらせん再現プロジェクトチームを作り、約10年間、研究を続けてこられました。少しの量を採取するのにものすごく時間がかかったそうで、大変貴重なものであることがうかがえます。

平城京の長屋王邸跡の発掘調査で出土した木簡の削りくずに、「甘葛」という文字が書かれているものが見つかったことから、長屋王邸ではあまづらせんが食べられていたことがわかりました。さらに、長屋王邸には夏に氷が運ばれていたという研究もあることから、甘いシロップと氷の組み合わせ、現在でいうところのかき氷が食べられていた可能性が高いのではないかと考えられています。およそ1300年前から、甘いシロップがあり、長屋王はそれを氷にかけて食べていた――。そう考えるとなんだか急に古代がとても近く感じられました。

 オンライン講座の中では、『枕草子』に登場する「けずり氷(ひ)」「べいだん」、『源氏物語』に登場する「ふずく」、『今昔物語』に登場する「いもがゆ」の4種類の古代菓子が取り上げられました。古代菓子の名前は聞いたことがないような響きですが、写真を見てみると、べいだんはクレープのように、ふずくは分厚いクッキーのように見えます。今普通に売っているものと変わりないのでは?と疑いたくもなるほど、現代にもなじんでいる完成形なのですが、先生方の解説を聞くと、文献資料に書かれた内容を元に作るとたしかにこうなるのか!とうなずけます。

 ここで一つ、オンライン講座でも登場した小話を紹介します。
“べいだん”と“れいたん”で韻をふむ!?
 『枕草子』を書いた清少納言は、弁官だった藤原行成から「べいだん」のおくりものをいただいたのですが、そこに和歌は添えられておらず、「べいだんを進上いたします」といった形式ばった手紙が添えられていました。それに驚いた清少納言は「(べいだんを)自分で持ってこないなんて、ずいぶん冷淡な人ですね」という返事の手紙を書いたそうです。清少納言の返事はまるでラップバトルのアンサーのようです。平安時代の貴族らも冗談を言い合って笑いあっていたのかと思うと、古典文学や平安時代の貴族らが急に身近に感じられます。

オンライン講座の最後に、宍戸さんは、古典文学を通じて平安貴族がどのようにお菓子を食べて楽しんでいたのかを知ることができると伝えられました。前川さんは、人の身体は食べたものによって作られると考え、歴史的に日本人が食べてきたものは何だったのかを見つけ出して、現代の食に取り入れることが必要だと訴えられました。そういった考えから、歴史を食卓へという意味の「歴食」を提案され、古代スイーツ再現を取り組み続けられています。

今の子どもたちは小学5年生から古典の学習をはじめます。古典、家庭科、社会科が横断的に学べる一冊として、親子で古代スイーツ作りをされてみてはいかがでしょうか?古代スイーツをこの本で知ったら、歴史や古典のおもしろさに気づくことまちがいなしです。

(文:才治 朋子)

最終更新日:2021/11/22

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