奈良、旅もくらしも

【連載】奈良さんぽ「第8回 どんづる峯が好き」もりきあや


我が家には、石ころ愛好家(?)の中1女子がいる。物心がついた頃から石が好きで、最初は鉱物図鑑やら石ころ博士の本やらを渡してみたら、夢中になって読んでいた。あらためて「なんで石が好きなん?」と聞いてみると、「石にも全部名前があって、石を見れば地球がわかる。石のおかげで生きてるんやで。だから石を尊敬してる!」。彼女いわく、石は無償の愛で私たちを生かしてくれていると。軽い気持ちで聞いてみたら、返答の熱量が爆発的で少々おののいた。偏愛万歳。好きこそものの上手なれ。すくすく成長してくれているようで、喜ばしい。

そろそろ本気で春が恋しい休日の朝、おにぎりを持ってどこか外で食べようよ、という話になり、「どこがいい?」と募ったら、「屯鶴峯(どんづるぼう)!」と中1女子が手を挙げた。小1男子はそれが何かわかっていないまま、「やったー!」とうれしそう。行ったことはあるけれど、都度忘れますからね。まあ、帰りに彼の好きな公園に寄れば大丈夫だろうということで、私の母も誘って葛城方面へ。

屯鶴峯は、香芝市穴虫にある県天然記念物の奇岩群だ。金剛葛城山系の稜線を縦走する長距離自然歩道、ダイヤモンドトレールの起点でもある。二上山、岩橋山、大和葛城山、金剛山、岩湧山、槇尾山とつながり、全行程は約45キロメートルにも及ぶとのこと。5台ほどが停められる駐車場に着くと、先客が3台あった。私たち家族は、本格的な山登りが目的ではなく、岩石観察と散歩が目的だから、普段服と運動靴でも、大丈夫。駐車場から歩いても、10分ほどで目的の景色に辿り着ける。入り口の階段を登っていくと、休憩スペースがあり、そこでは20人ほどの団体さんが昼食を取っていた。本来なら一番和やかな時間のはずだが、感染予防のためだろう。シーンと静かな食事時間。皆さんの間を抜けて、少し登ると視界が開けた。晩冬の弱い日差しの中でも、白く艶やかな岩肌が眩しい。この白さが「ツル」にたとえられたという説に納得。


千数百万年前、二上山の火山活動によって噴出物が堆積したものが、地殻変動で隆起してきた。さらに長い年月をかけて侵食され、今の屯鶴峯となった。奇岩群はただ白いだけじゃなく、隆起してきたことをあらわすように、層になっているのが見てとれる。間には、小石(礫)が挟まっていたりして、火山活動が様々な規模で何度も起こったことがわかる。しかもこのきれいな層は、水中に堆積した証だというから、水中からここまで上がってきたと思うと、壮大な地球のエネルギーを感じずにはいられない。
「でも、なんで白いんやろう?」と娘に疑問を投げかけた。
「火山のマグマに含まれているシリカの量で、生成される岩石が決まるんやけど。ここのマグマはシリカの量が多いから白いんじゃない? 知らんけど。」
と言う。(「知らんけど」がついたので、家に帰ってから調べてみたが、合っているようだ。小学校低学年に渡した『石ころ博士入門(全国農村教育協会)』は、大切に読み込まれていた。彼女がこれからも好きなこと、興味のあることに心ゆくまま没頭できることを願っている。私の役目は、精一杯のサポートだ。)

小1男子は岩山でも関係ないとばかりに、動き回る。ツルツルとした岩肌の斜面には、風化した細かい砂利が満遍なく敷かれていて、余計滑るっていうのに…。走ったり飛んだり、不規則極まりない動きにヒヤヒヤ。
久しぶりの屯鶴峯を満喫したので、私たちはもと来た道を下り始めることにした。あれ? ふと気がつくと母が見当たらない。「おばあちゃん、先に付いているかなぁ」と話しながら駐車場まで来たけれど、影はなし。しばらく待っても音沙汰がないため、電話をかけてみた。
「さっき親子連れの人とすれ違って、ここを降りて行ったら…下に着くと思うんやけど…」。ずいぶん歩き回ったのだろう。かなり息が切れている。岩を渡って、違う道に行ったんだ。好奇心と冒険心の塊のような母は、一緒に出かけても一人でスタスタ先に進み、「行きと帰りに同じ道を通るのは、つまらん!」と言って、気づかぬ間に私たちとは違う道を行っていることがよくある。スーパーの買い物でもすぐにはぐれてしまうし、特に母が大好きな野山に行くと、童心もプラスされて自由に歯止めが効かない。私は怖がりの慎重派、さらに方向音痴を自覚していて、できるだけ王道を進みたい性分。2人を足して割るとちょうどいいのかもしれないが、それは出来そうもないことだ。
足を滑らせたらどうしよう、探しに行くにもどこを目指せば…とうろたえ始めたところに、母が見えた。「お待たせ、お待たせ。あー! 屯鶴峯で迷子になるところだった〜」。おーい、ちょっと楽しそうなのはなぜなんだ。今度は「さあ、何歩になったでしょう」と言って、うれしそうに万歩計を確認している。

結果オーライ。みんなそれぞれ楽しかったのなら、いいや。公園目指して、おにぎりを食べましょか!


執筆者紹介

もりきあや
奈良市在住。ライター・編集者として活動する中で、地元である奈良の魅力に気づく。新聞の県版でコラムの連載、カルチャーセンターで奈良を案内しながら、さらにどっぷりはまっていく。この連載でさらに奈良が好きになる予感。著書に『おひとり奈良の旅』(光文社知恵の森文庫)。

最終更新日:2022/03/01

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