奈良、旅もくらしも

スマホを捨てよ、旅にでようVol.1 東吉野~豊かな自然とこだわりのお店を訪ねて~

「ちょっと休憩」と思ってスマホをいじっていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。のんびりするのもいいけれど、せっかくの貴重な時間、そんなことばかりに使うのはもったいない!

奈良にだって、まだまだ面白いところがいっぱいあるのです。普通なら車で行くところを、岡田と福井の大学生2人であえて電車やバスを乗り継いで、日帰り旅で巡ってみました。文章は岡田、写真は福井です。道中の発見や出会う人々とのお話。こればっかりは、ネットの情報からでは得られません。たまには、スマホを置いて(地図は見ますが)行ったことのない場所に踏み込んでみませんか?

さあ、通知はオフに!いざ出発!


到着地点(右:東吉野村役場、左:コミュニティバスターミナル)

第1回は東吉野村。大学3回生で就活真っ只中、春休みの旅行もおあずけになっていた私たちは、この日を楽しみにしていた。3月5日の朝、幸い天候もよく、JR奈良駅から元気に出発。近鉄榛原駅からは奈良交通のバスで菟田野まで行き、さらにコミュニティバスに乗り換えて東吉野村役場へ。そこから歩いてまずは、カフェ「Litte oven」に向かった。

Little oven
お店の隣は、ご主人の家具工房
レモンタルト(450円)
美味しくてあっという間に食べてしまった。

空気がひんやりしているうえに、人気がない道を歩いていくので、ちょっと不安になる。役場から30分ほど歩くと山小屋のようなかわいい建物が見えてきた。同時に看板犬・小梅ちゃんがお出迎え。家具工房とカフェが隣り合わせになっており、お茶がてら気軽に家具を見られるのが嬉しい。オーナーは中峰瞳さん。テーブルや椅子は家具職人のご主人が制作し、カフェになっている小屋は二人で地元の木材を貼り合わせて作ったのだそう。洗練されているのに、温かみがあって落ち着くのはそのおかげだろう。

今回いただいたのは、レモンタルト。レモン風味のクリームとサクサクの生地がぴったり。国産で、農薬を控えた食材を厳選して作っているそう。大きな窓からは川沿いの風景が見えて、都会では味わえないひとときを過ごせる。また、壁の一部がガラス張りになっていて、ご主人が家具を製作しているのが見える。私たちがタルトを食べている間に、素敵な椅子がどんどん仕上がっていくのを、「椅子って、こんな風に作られるんだ」と感心しながら見入っていた。いつか広い家に住んで、ここで誂えた家具を置きたいなと思った。小梅ちゃんに手を振って、また役場まで降りていく。途中でニホンオオカミの像(思ったより小さい)を見つけ、写真撮影。東吉野はニホンオオカミが最後まで生きていた場所として知られている。

ニホンオオカミの像
梅が咲いていた。深緑に赤がよく映える。
朝の光が気持ちいい。

役場まで戻ると、今度はパン屋さん「自然酵房 麦笑」へ。この日は徒歩だったが、結構距離があるのでコミュニティバスに乗ることをおすすめする。てくてく歩いていると岩影に小さなお社を見つけたので、就活の内定祈願をしておいた。日が高くなってきて、日光が川の水や木々の葉に反射する。緑の合間からのぞく空が真っ青で、空気が澄んでいるのが分かる。川の水は宝石みたいな青緑色で、底の小石までくっきり見える。

透明度の高い川
木漏れ日のトンネルがきれい。

そんな美しい空気と澄み切った水があふれる場所がおいしいパン作りのカギになるそう。オーナーの森田智さんにお話を聞いていると、開店前にもかかわらず店の前にはお客さんが。営業日は土日のみと少ないのは、とにかく時間をかけて丁寧に作るから。2週間ほどかけてじっくり酵母を小麦に慣れさせる。築300年の古民家を改装して造られた店舗には、良質の菌が住み着いているそうで、その菌とともにパンの自然酵母にしていきたいと語る。焼きたてのパンと古民家特有の木のにおい。あけ放った入口から入る風がのれんをふんわりを持ち上げる。朝からこんなところでパンを買うなんて都会ではできない贅沢だ。店の前は川が流れており、河原で焼きたてを食べるのもよさそう。心底それをやりたかったが、次の予定があるので先を急いだ。

自然酵房 麦笑
暖簾をくぐると、店内には種類豊富なパンが並ぶ。
どれも美味しそうで選ぶのに悩んでしまった。
上と下、どちらが岡田でどちらが福井が買ったパンでしょう?
(ヒント:福井=オシャレ!)
山の中に漁業組合!?

パンを抱えて歩いていると、「漁業組合」の看板が。今回初めて東吉野にやってきた私たちは、山奥にそぐわない文言に首をかしげる。近くでおしゃべりをしていたおばあさん達に聞いてみたところ、このあたりでは春になると鮎やアマゴの釣り人でにぎわうそうで、今日はその準備の日らしい。生け簀の中でアマゴが涼しげに泳いでいる。ひとしきり話すとおばあさんはバイクに乗って颯爽と去っていった。川沿いの集落は、時が止まったように静かで穏やかな空気が流れている。

アマゴが入っている生簀
爆釣祈願
(岡田、これにツボる)
アマゴの餌になる水中生物を捕まえている。

日ごろのあわただしさを忘れ、のんびり歩いていくと、「Little oven」の中峰さんおすすめの「よしの庵」に到着する。このあたりでちょうどお昼だ。築300年の古民家を改装した蕎麦屋で、店内に入るだけでもほっと落ち着く。中峰さん曰く、よそから来た人のおもてなしをするときに欠かせないお店なのだそう。風味とのど越しのバランスが絶妙な外一(蕎麦10に対して小麦1)の手打ちそばが自慢。風味をしっかり感じられるよう、福井県産の小粒のそばを使っている。熟練職人の風格漂う店主の宮下俊二さんは、50代を過ぎてから趣味で蕎麦作りをはじめ、退職後に店を持つようになった。「そば打ち道場でいろんなそば仲間に会うのが楽しかったんだよね」と笑う。実は、二人しておそばを食べる気満々だったのだが、よく考えればその日は定休日。お休みの日にそばが出てくるわけもなく、「しまった」と思いながら取材を進めた。アポイントの時点で、しっかり確認しておくべきだったね…と反省した。

手打ちそば よしの庵
鴨居にかけられたいかにも古そうな振り子時計が歴史を刻んでいる気がした。
うっかりミスで、食べられなかったおそばセット。リベンジしに行きたい!

駐車場を挟んですぐ隣にあるのが、奥様の奥谷良子さんが営む雑貨店「空木」。白い小屋の窓からお皿やアクセサリーが見え、まるで絵本の挿絵に出てきそうなお店だ。中に入ると、奥谷さん選りすぐりのアンティーク雑貨と奥大和地区に住む作家さんたちの作品が並ぶ。かわいい食器やキラキラ輝くジュエリーに、思わず「わあ!」と歓声を上げた。つい見入ってしまっていたが、「そうだ、取材に来たんだ」と我に返って仕事モードに切り替え。

空木-utsugi-
こだわりのアンティーク雑貨がいっぱい
コーヒー(深煎りスペシャリティブレンド)(400円)
ベイクドチーズケーキ(ゆずジャム添え)(400円)

コーヒーとチーズケーキを頂きながら、お話を伺った。たくさん歩いてお腹がペコペコだったので、上品に食べるのにちょっと苦戦した。奥谷さんは、以前は「よしの庵」のおかみさんとして働いていたが、それだけではなんとなく心許ない感じがしていた。そこで、昔から好きだった古いものを集めた雑貨屋をはじめ、そばを食べた人が食後のコーヒーを飲めるよう、ドリンクも提供するようになった。コーヒーカップを載せてある木のトレイは、奥谷さんと隣の川上村の木工作家さんのコラボ商品。欲しかったけれど、今日は移動に(予想外に)お金を使ってしまったのでまた今度。古いものと地域で作られるもの、お客さんと作家さん。それらをつなぐ「出会いの場」になっていきたいという。

バス停「蟻通」からコミュニティバスに乗車

この日も、近くでお茶を作っているという方とデザイナーさんがやってきた。これから一緒に打ち合わせをするのだそう。雑貨屋さんでこうやって人が集まるのはなかなか珍しい光景だ。そういえば、「Little oven」の中峰さんも奥谷さんにはよく相談に乗ってもらっているとおっしゃっていた。村の人それぞれがやりたいことに取り組みつつも、助け合って生きているのを感じた。

お土産にコーヒーを買って帰途につく。今日一日でいろんな人に出会い、いろんな働き方を見た。途中の道ではひたすら就活の話が続いたが、一人会うごとに「こんな働き方もありだよね」と選択肢が広がっていくようだった。日常から離れて、自然の中を黙々と歩くといつの間にか頭の中が整理されたり、普段は見落としていたことを発見したりするものだ。今回の旅は、図らずも自分の将来について考える時間にもなった。次回の旅ではどんな発見があるか楽しみだ。


〈スケジュール見本〉

今回の取材を踏まえて、理想的なタイムスケジュールを組んでみました。

10:35 「菟田野」からコミュニティバス
11:10 「蟻通」で降りる
11:17 自然酵房 麦笑 あっという間に売り切れるので最初に行くのが◎
11:40 「蟻通」からコミュニティバス
11:50 「上出橋」で降りる
12:00 よしの庵、空木
13:50 「上出橋」からコミュニティバス
14:10 「東吉野村役場」で降りる
14:40 Little oven
15:50「東吉野村役場」まで歩く
16:36 奈良交通バスで帰る

※平日が定休日のお店が多いので、すべて回る場合は土曜日がおすすめです。


〈今回のテンパり度〉★★★★☆
*旅にはハプニングがつきもの。予想していなかった事態に焦ってしまうことも…。その焦り具合を「テンパり度」で表現してみました。

・バスの予約ができておらず、急遽タクシーに課金。バスの運転手さんたちに助けてもらいました。コミュニティバスは、運行表をしっかり確認しましょう。
・帰りは誰かが送ってくれると妄信。そんな訳がない。
・おしゃべりに夢中で電車の乗り換え場所を間違える。同じ場所でまた乗り過ごしそうになる。

〈次回の目標〉
スムーズに往き帰りができるようにしよう!


Little oven(リトルオーブン)
住所:奈良県吉野郡東吉野村小栗栖77
電話:090-4305-1968
営業時間:11:00~16:30
営業日:木金土
駐車場:有

自然

よしの庵
住所:奈良県吉野郡東吉野村木津川601
電話:050-5005-1411
営業時間:11:30~14:30(売り切れ次第終了)
営業日:土日祝
駐車場:有

空木-utsugi-
住所:奈良県吉野郡東吉野村木津川601
電話:050-5005-1411
営業時間:11:00~17:00
営業日:金土日祝
駐車場:有


〈編集後記〉
初めての企画で、いろいろハプニングもありましたが、とても楽しくできました。東吉野村はずっと行ってみたかった場所なので、満喫出来て大満足です。これから暑くなるので、次の旅は熱中症対策万全で挑みたいと思います。(岡田)

初めての旅企画は出会いとハプニングを楽しみながら終えました。山道を歩きながら、僕、大学生なんですが体力の衰えを感じたので、次の旅に向けて日頃の運動を心がけようと思います。では、次回も楽しみにしていてください!(福井)


〈文〉
『猪突猛進☆凄腕チェイサー』 
岡田菜友子
福岡出身、奈良暮らし4年目の女子大生です。気になったものに、後先考えずチェイス&アタックする無鉄砲な性格を活かして、奈良の田舎をめぐるのが最近のブームです。同著『今月のおやつとうつわ』もよろしくね!
〈写真〉
『好奇心旺盛なよく歩くコアラ』
福井風太
僕は奈良生まれ奈良育ちの大学生です。
コアラのようによく眠る僕ですが、起きている時は元気いっぱい、1日平均1万歩の散歩好きです!好奇心と探求心で自分らしく旅を楽しみます!

最終更新日:2022/04/25

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