奈良、旅もくらしも

やまとかたな巡り〜奈良、旅と刀とよきものと〜

2022年4月13日から5月8日まで、當麻寺中之坊霊宝殿で刀剣展が開催されます。
展示されるのは打刀 備前長船師景(もろかげ)と室町時代の大和物と思われる薙刀と槍、計3口。
https://taimadera.org/news/event24.html

このうち薙刀と槍は2020年に當麻寺中之坊宝蔵で見つかったもので、発見当時はすっかり錆に覆われてしまっていた刀身も、御所市在住の研師 大越明友氏の手で往時の美しい輝きを取り戻すことができました。
戦後に當麻寺中之坊に奉納されていた打刀の師景を含めていずれも先日研ぎ上がったばかり、文字通りの”初公開”です。

3口の研磨にかかった期間はおよそ1年。
錆を落とした後の調査で薙刀と槍はともに室町時代の大和物であることも確認されました。南北朝時代の名残を感じさせる古風な姿の薙刀と力強い姿の大身槍は同時代に作られたと思しき柄と共に発見されており、こちらも貴重な資料として特別展示される予定です。

(以下の写真はクリックすると大きなサイズでご覧いただけます。)


近年の刀剣人気もあってか、お寺や神社だけでなく、個人からも「古い家を解体したら刀が見つかった」「大掃除をしていたら刀が出てきた」という話を聞くようになりました。

貴重な文化財である刀剣類を所有するにはその刀剣類の登録が必要で、今回當麻寺中之坊で展示される薙刀や槍も発見後、警察に発見届を出して教育委員会に登録をすることから始められたものです。

備えあれば憂いなし。

いざというときに慌てることがなくて済むように、今回は”家から刀が出てきたらどうすればいいのか”を説明させていただくことにしましょう。

家から刀が出てきたら?〜登録証なしの場合、ありの場合〜

●刀だけが出てきた場合

  1. 警察の生活安全課に刀剣を発見したと電話連絡
  2. 所轄の警察署で刀剣類発見届出済証をもらう
  3. 登録審査の会場と日時を確認
  4. 刀剣類発見届出済証・発見した銃砲刀剣類・印鑑・登録手数料(2022年時点では6300円)を揃えて登録審査会へ

法に触れることがないよう刀は持ち運ばずそのままにして、刀が発見された場所を管轄する警察署の生活安全課に「家から日本刀が出てきた」と電話、指示に従って発見の届出をします。

警察署に持っていくものは発見された刀と印鑑と本人確認のできる身分証明書。規定により第三者が登録を代行することや、発見された場所とは違う都道府県で登録することはできないのでご注意ください。
警察署で発見届を交付してもらう際、発見の経緯や日時、場所などを尋ねられるので、メモなどを作っていくと安心です。

※時々耳にするケースなのですが、もしかしたら届け出に行った際に刀の廃棄などをすすめられることもあるかもしれません。その際は日本刀が貴重な文化財であることを伝えて廃棄や破損(曲げられてしまったりもするのです)を断るようにしてください。刀を所有することが難しい場合、手放したい場合はどうすればいいかについてもまた後でお話しします。

無事手続きが終わって刀剣類発見届出済証が交付されたら、各都道府県の登録審査会の日時や場所を確認しましょう。

刀剣類の登録が行われる登録審査は地域によって開催日が異なっており、奈良県の場合は2、8、10月を除いた第3金曜日、奈良県庁か中小企業会館の会議室で審査会が開かれるのですが……月によって会場が異なるので、発見届時に警察署で説明を受けた場所に行くようにしてください。
※県のHPでも確認できます。
https://www.pref.nara.jp/6707.htm

繰り返しになりますが刀剣類の登録には

  • 刀剣類発見届出済証
  • 発見した銃砲刀剣類
  • 印鑑
  • 登録手数料(6300円)

が必要です。念のため身分証も持っておくと良いでしょう。

交付された登録証を紛失してしまうと再び登録審査(再交付手数料3500円)が必要になるので、無くさないよう刀と一緒に保管しておくようにしましょう。

※白鞘に輪ゴムやセロテープで登録証を固定してある刀を稀に見かけますが、輪ゴムもテープ類も劣化するので使用厳禁です。どうしてもという場合はヘアゴムコーナーなどに売っている無色のシリコンゴムを使ってください。漆塗りの拵に登録証を直接固定するのは、傷みの原因になるのでいかなる場合もNGで。

●銃砲刀剣類登録証と共に刀が発見された場合

  1. 登録証記載の教育委員会の連絡先を調べて電話
  2. 指定された方法で20日以内に所有者変更届を

この場合は手続きも簡単、登録証に記載されてある教育委員会に問い合わせ、登録記号番号を伝えて所有者を確認、20日以内に「所有者変更届出」を提出するだけです。
奈良県の場合は電子申請(e古都なら)があるので便利ですが、登録されている地域によっては郵送しか受け付けていないこともあるので、問い合わせ時にあわせて確認しておきましょう。

●刀を手放したい場合

「歴史ある貴重なものだと分かってはいても、適切に管理できるか自信がない」などの理由で刀を手放す、これもまた一つの文化財保護のあり方です。登録証があれば、下記の方法で刀剣を売却あるいは譲渡することも可能です。

  • 買取をお願いする
    刀剣を販売しているお店を検索して、刀を買い取ってもらう方法です。出張や宅配での買取も便利ですが、いきなりここというお店を決めるのも難しいと思うので、まずはいくつかの刀剣店に持ち込んでみて買取価格を比較検討、このお店なら……と思ったお店に買い取ってもらうのが良いでしょう。
  • 身近な刀剣愛好家に譲る
    刀に詳しい親戚や友人知人に譲る、これは信頼できる人に持っていてもらう方が安心という場合におすすめしたい方法です。譲渡後は20日以内に所有者変更をしてもらうこともお忘れなく。
  • 寄贈や寄託、奉納を検討する
    見つかった刀が美術的あるいは資料的に大変価値のある刀であった場合、博物館に寄贈(譲渡)や寄託(貸与)を打診するのもいいでしょう。適切に管理してくれるだけではなく、展示や研究も行ってもらえるところがメリットです。

刀剣の管理や公開を行っているお寺や神社に奉納してそこで大切にしてもらうことを選ぶ人もあります。
例えば今回刀剣展の開催される當麻寺中之坊に当麻派や大和物の刀剣類を奉納することもある意味里帰り。
ゆかりの刀剣をゆかりの場所に返すという点で大変意義のある行為であると同時に、自分の刀がそのお寺や神社の歴史の一部分になり、後の世の人にも見てもらえるという喜びがあります。
寄贈や寄託をするにしても奉納するにしても相手あってのこと、まずは先方に寄贈や寄託、奉納をしても大丈夫かどうかお尋ねするようにしてくださいね。

自分が元気な間は手元に置いておいて、管理が難しくなって手放す際に、上に挙げたいくつかの方法の中から選ぶ、というのもいいかもしれません。

自分の手元に置いておくと決めたものの、お手入れなどが正しくできるか不安がある場合は、各地で行われている刀剣お手入れ講習会に参加したり、お近くの刀剣愛好団体(日本美術刀剣保存協会 など)にお尋ねするのもよいでしょう。

全国にはまだまだ発見されていない刀剣が数多く眠っているといいます。
いつか自分の家から、あるいは身近な人の家から刀が出てきたら……今回お伝えしたことを、ふんわり思い出してみてください。

(文・ちらいむ)

最終更新日:2022/04/12

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