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【連載】山とレファレンスブック「第7回 宮さんのこと」青木 海青子

 東吉野村は奈良県の東に位置し、隣県の三重にほど近い山村です。川の水が澄んでいて、静かで美しいところです。私たちは2016年よりこの山村で暮らしてきました。山の暮らしの中でそれまで知らなかった習慣や行事、言葉、感覚に出会い、ワクワクして、誰かに話したくなりました。そんな訳でエッセイとして、暮らしの中で見聞きしたものを留めたり、調べてみたり出来たらと考えたのでした。

 わが家は、鷲家地区内にある「宮さん」こと鷲家八幡神社の氏子になっています。八幡神社には社務所があり、戦後朝鮮から引き揚げてきた大家さん一家が一時暮らしていたというお話も伺っています。

この鷲家に八幡神社がありますね、あそこの社務所の部屋を借りていました。その後、今の社務所に建て替えてちょっと小さくなりましたけどね、以前はもっと大きかったんですよ。社務所でニ、三年過ごしました。
【『ルッチャ』創刊號(人文系私設図書館Lucha Libro, 2018) p.22より】

 現在では地区の投票所として使われることもある場所です。神社の由来や祭神等よく知らないままだったので、『東吉野村郷土誌』(東吉野村教育委員会, 1972)を開いてみると、このようにまとめられていました。

八幡神社 鷲家
祭神 誉田別命(ほんだわけのみこと)  天照大神 天児屋根命(あめのこやねのみこと)

往古、大豆生、伊豆生とともに春日さん、八幡さん、お伊勢さんを祭る氏神で約500年前、大豆生、伊豆生は別社を創建して分祀した。古文書によると、初め上鷲家の大岩にあったのを、慶長年間、現在の宮馬場に移奉した。
…(中略)…
本社のほか、摂社、若宮があり、…弁財天等多くの神々も、街道の繁栄とともに合祀され、鷲家二十二社さんと呼んでいる。
【同書 p.432】

 現在の場所が元々馬場であったという話は、神社のある通りが伊勢街道の宿場町であったことを想起させます。また、上鷲家とは現在小さな道の駅「ひよしのさとマルシェ」がある辺りで、少し開けた場所です。過去には田んぼがあり、田んぼの周りが栄えるから、上鷲家辺りが中心的な地域だったのだと、氏子の方が教えてくれました。

 今の家に住み始め、氏子として会費を納めるようになってから、この八幡神社周りのことを興味深く見てきました。宮司さんがおらず、氏子どうしで「こうやったかな」と探り探り運営している感じが私はとても好きでした。

宮さんへの参拝は、鷲家川にかかる橋を渡って
現在の鷲家八幡神社の社務所
6月頃には「菖蒲立て」といって、拝殿や手水舎の屋根に菖蒲を置く行事がある。お味噌汁も供える

 印象深く残っているのが、目にしたことのない木札が、わが家のポストの上に立て掛けられていたことでした。(結構大きいので、ポストには入りません。)八幡神社の関係のものらしい、どうやら回覧するらしいということだけを頼りに、とりあえず垣内内で氏子になっているお宅に回していました。するとある日、「この板が回ってきたら、八幡神社の石燈籠に蝋燭で灯りをともしてってことやってんよ〜」と伺う機会があり、役割が判明したのでした。その後近所の方に、「最近あの木札回ってきませんね」と確認したところ、「宮さんの灯りが電気に変わったから、あれは無くなってん」とのことで、「一番最初に確認しておけば良かった、蝋燭灯していなかった、灯したかった」という後悔を味わったのでした。

「信ずれば徳あり」と書いてある立派な木札
電気に変わった宮さんの灯り。火の灯りも見てみたかったけれど、木造建築の多い村ではこの方が安心ではある

 また、この習慣は鷲家だけでなく村の他地区にもあるらしく、東吉野村在住の漫画家・元町夏央先生が描かれている『14歳の里山レシピ 東吉野でいただきます』(ぶんか社)2巻のあとがきにも、同じような「献灯板」というものが紹介されています。ぜひ読んでみてください。

東吉野村に住む少女と、街から越してきた青年が地元の食材を使った料理を通じて、交流を深める物語

 そんなこんなで献灯をスルーしてしまっていた氏子ですが、今年度は家人が「宮さんの係」に当たったため、境内の掃除や行事で足を運ぶことが増えそうです。当館近くの史跡を掃除していたら、観光で来た人に「えっ、近所の人がボランティアで掃除するんですか?!」とびっくりされたのですが、八幡神社等の場所はほとんど住人が綺麗にしています。神社の運営含め、そういう部分で手づくり感があることが、私たちとしては「関われる余地がある」という感じがして嬉しいのです。石灯籠の中に一つ一つ大切に蝋燭をともすような感覚で、習わしを繋いでいけたらと思っています。

執筆者紹介

連載「山とレファレンスブック」
文/青木海青子


編集部から

青木海青子さんは、人文系私設図書館Lucha Libro(ルチャリブロ)の司書です。同館のキュレーターであり夫である青木真兵さんとともに、同館を運営しています。今回の連載は、海青子さん曰く「山で暮らす中で聞いた話に加えて、それを手がかりに本を紐解いてみる」もの。同館が東吉野村という山間地にあること、「レファレンス」という図書館の重要な役割。おふたりの著作『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』(エイチアンドエスカンパニー)とともにご覧ください。「レファレンスブック」というと通常は辞典や図鑑等を指しますが、ここでは広く参考資料というニュアンスで使っています。

最終更新日:2022/12/16

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