奈良県観光局では地域の課題解決と持続可能な発展をめざし、「奈良の観光地域づくり」について取り組んでいます。奈良県庁の思いや、地域のキーパーソンのインタビューを掲載していきます。
※本記事は月刊なら2024年12月号で掲載した記事と同じ内容です。

奈良県には数多くの魅力的な地域があり、それぞれが持つ個性や歴史、文化が本当に豊かです。これまでは、そうした魅力を全体的に発信することが重要と考え、県内観光地を幅広く紹介してきました。しかし、これからは地域ごとの特色をより際立たせ、その地域が本当に必要としているサポートを求められていると感じています。
そのため、今年度から県庁としては一方的な方針の押し付けではなく、現地に出向き、地域で活動されている方々の声を直接聞き始めました。たとえば、現場に出て、地域が抱える課題やその背景を詳しく知ることができれば、私たちも何ができるか、どうすればその地域に寄り添えるかをしっかり考えられる。これが本当に大事なことなんです。
地域の「光」を観る
「観光」という言葉を聞くと、華やかで一過性のイメージを抱かれる方も多いかもしれませんが、観光は単に人を集める手段ではなく、その地域の日常を見つめ直し、再発見する機会にもなります。観光の「光」は、地域の日常にあります。そうした日常の魅力に気づき、訪れる人々が「非日常」として楽しんでくださることで、地域のファンが増えていく。だからこそ、奈良においても地域の日常の中にある「光」を見つめ、それを多くの方々に届けたいと願います。
また、観光資源の磨き上げを進める中で、「地域に存在する課題を、どう観光を通じて解決していくか」も重要なテーマです。人口減少や高齢化、生活インフラの課題など、さまざまな問題を抱えている地域も少なくありません。私たちの役割は、こうした地域の悩みに対して観光を通じた解決策を一緒に考え、実現していくことだと思っています。
「押し付けない対話」とデータの活用

地域の課題に向き合うとき、大事にしているのが「押し付けない対話」です。行政としては、つい「こうするべき」という考えが先行してしまうことがあるかもしれませんが、それでは本当の意味で地域に寄り添うことができない。地域の方が本当に求めていることを、膝をつき合わせて聞き出すことが何より大事です。行政が「この方法がいい」と決めつけるのではなく、各地の状況に合わせた支援を、地域と共に見つけていきたいと考えています。
また、今後の観光施策を考えるにあたっては、データの活用も欠かせません。たとえば、県は今年度からNTT西日本やソフトバンクと連携協定を結び、人流データを用いた分析を進めています。このデータを活用すれば、どのエリアにどのような観光客が訪れ、どのように行動しているのかを可視化でき、より的確な施策を打ち出せます。また各地へのシェアサイクル導入も、観光の利便性向上と地域間の回遊を促す一つの手段として取り組んでいるところです。
観光で地域の「点」を「面」に
奈良県の観光資源は、広範囲に分布しています。そのため、限られた地域のみを巡るだけで終わってしまうことも少なくありません。しかし、点で散らばっている魅力を「面」として見せる工夫があれば、より奈良の奥深さを感じてもらえるはずです。たとえば、奈良の南北で歴史文化をシェアし、一つのテーマの中でストーリー性のある観光体験を作り上げることで、訪問者の滞在を自然と長くできるのではと考えています。こうした市町村の枠を越えた広域的な視点で観光を捉え、連携した仕掛けを作るのが県の役割だと思っています。
今後の観光における大きな節目として、2025年の大阪万博や2026年の飛鳥藤原の世界遺産観光で地域の「点」を「面」に上から目線ではなく、相手の目線に合わせる地域の活動に「光」を当てる登録に向けた取り組みが挙げられます。これらの機会に向け、毎年確実に奈良の魅力を伝える施策を実施し、一歩ずつ地域を磨き上げていくことが、行政の役割として重要であると感じています。
上から目線ではなく、相手の目線に合わせる
奈良の観光資源を活用し、地域をもっと身近に感じてもらうためには、まず私たちが「自分ごと」として捉えることが重要だと考えています。「上から目線」という表現がありますが、これは偉そうな言葉を使うことではなく、相手の目線に立っていないことだと感じます。目を合わせ、同じ視点で考えることが欠けていると、地域の方々には距離感が生まれますし、それが「上から目線」と捉えられてしまうのではないでしょうか。
我々が目線を合わせる努力をすることから始めることで、地域は大きく変わる可能性があります。地域の方々が自ら動きたくなるような環境を整えるためには、我々観光局としても、その方々の立場で考える姿勢が必要です。そしてそれが観光業だけでなく、地域全体の活性化にもつながると信じています。
地域の活動に「光」を当てる

最後に、私は「地域に光を当てる」ことの重要性を痛感しています。地域で日々努力している方々がおられ、その姿を知ってもらうことで奈良全体の魅力が高まっていくのです。地域ごとの特徴や強みを引き出し、それを支える活動を可視化することが大切です。たとえば、明日香村などでは、地域のプロガイド育成にも力を入れておられます。地元の方が持つ知識や思いを観光客に伝えることで、地域の価値がより伝わりやすくなります。
観光というのは、単なるイベントやプロモーションではありません。地域の人と観光客が出会い、共に時間を共有する中で生まれる「地域の光」を大切にし、奈良のファンを一人でも多く増やしていきたい。こうした取り組みは、来年以降も継続的に進めていくつもりです。奈良の魅力をさらに引き出し、多くの方に奈良を「自分ごと」として愛していただけるような活動を、地域の皆様と共に続けていきます。
最終更新日:2025/03/10