~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~
編集者の徳永です。ふむふむ第3回は、株式会社 loop&loopの服部 多圭子さんを訪ねてきました。株式会社 loop&loopは奈良町のお店「風の栖(かぜのすみか)」「NAOT」と、「ループ舎」という出版事業を展開しておられます。
私は革靴が好きです。NAOTの靴も一足は持っておきたいなと思っていました。お店を訪ねては、どれがいいかと悩みに悩んで、ようやく選んだのがこちら。安定感抜群のレースアップシューズ「DANIELA」。
選んだ理由は、
・仕事で歩くことが多くなってきたので、歩きやすい靴がほしい。
・スニーカーはカジュアルすぎるので、少しきちんと見える靴がいい。
・今持っている装いに似合う靴。
日常履きするにはやや高めかもしれませんが、その価値は履けばわかります。
そんなNAOTには、出版部門もあるということで、興味津々に取材をオファー。いろいろと伺いたいこともあって、楽しみに出かけました。
徳永:まず、風の栖(かぜのすみか)とNAOTの関係について教えてください。
服部:風の栖は2000年にオーナーが女性一人でオープンしたセレクトショップ。その中で扱っていたのがNAOTの靴です。オーナーが足の幅や甲の高さで悩んでいた時に、このイスラエル製のNAOTと出会ったそうで、当時は日本にある総代理店を経由して仕入れていたようです。でも、その総代理店が取り扱いをやめることになり、オーナーは貿易関係の仕事ができる息子さんご夫婦と一緒に代理店を始めることに。最初は、段ボール一箱くらいからの取引だったようです。
徳永:風の栖は当時オーナーお一人で始められたお店だったんですね。足の幅、甲高は私も悩んでいるので、この靴はとってもありがたいです。では、服部さんはいつ入社されたんですか?
服部:2012年です。ここで働く前は、神奈川県に住んでいて、パッケージデザインの仕事をしていました。東日本大震災の年に子どもを出産し、いろいろと考える機会となりました。地元の奈良に帰ってきて、仕事をどうしようかなと思っている時に、風の栖の前でスタッフ募集の貼り紙を見つけて、受けてみようと思ったのがきっかけです。
徳永:子育てしながらの再就職は大変だったと思いますし、接客という仕事はどうでしたか?
服部:接客の仕事は学生時代のバイト以来でしたので、大丈夫かなと思っていたのですが、「自分なりの接客で大丈夫」と言ってもらえたのと、女性スタッフが多かったので長く続けることができました。奈良町自体がそういう雰囲気があったのかもしれません。
徳永:確かに、奈良町は当時、女性お一人でお店をされる方が増えていた時期でもありますし、女性は働きやすかったかもしれませんね。
服部:奈良町は他のまちよりも女性一人のオーナーって多い気がします。好きなことをするっていいなーと思っていました。味わいがあって、型にはまらず個性的なお店が多いですね。
徳永:その後、NAOTがオープンしたのですね。
服部:2014年に金曜日、土曜日だけオープンする出張所のような直営店を東京につくり、奈良町のお店は2015年からです。品数も増やしていきました。
徳永:NAOTにはどんなお客様が来られますか?
服部:足に悩まれている方はインターネットで調べて来られたりします。お店に来る若い方が、足に悩んでいるお母さんを連れてきてくれることもあります。一通り履かれて悩まれている方もおられますね。
徳永:私も、何度かお店に来ていますが、どれにしようかと悩んで帰るという状態が続き、先日やっとこちらを購入したところです。サボにするか悩みました。2足目はサボを狙っています。
服部:靴のラインナップに大きな変化はないので、またサボを選びにきてくださいね。確かに、靴選びは悩みますよね。洋服に比べて計画的に買われる方が多いです。
徳永:服部さんはNAOTの靴を何足くらい持っておられるんですか?
服部:10足くらいです。
徳永:え〜!?すごい。
服部:最初に買ったのが白色のサボで、これは2足目の白色です。サンダルも好きなので何足か持っています。夏は基本サンダルです。年に1足買っているわけでないのですが、新しいカタチが出たら履いてみたいなと思います。サボは色違いもあって、4足あります。片方をどこかに落としてしまったものもあるんです(笑)。おそらく野外イベントで置いて帰ったのではないかと。
徳永:え〜!?どこに置いてきたんですか!?たまに道ばたに一足だけ落ちている靴を見つけることがありますが……。でも、本当に毎日NAOTですね。
服部:そうですね。運動会もそのタイプ(DANIELA)の靴で行きますよ。砂まみれになってしまうんですけどね。普段運動をしないので、スニーカーを買うのがもったいないなと思って。DANIELAは買って間もなかったら靴ずれするかもしれませんが、時間が経つとかなり馴染みいい感じになりますので、軽い運動なら大丈夫ですよ。
徳永:私も履き始めの時に長距離を歩くことがあり少し靴ずれしました。でも今はもう大丈夫です。経年変化を楽しめるのもNAOTの魅力のひとつですね。
服部:軽い山登りもこの靴で行けますよ!
徳永:マジですか。万能すぎますね。
服部:お客様にはおすすめできませんが、私、あらく履くので、サンダルで川とか海にもそのまま入ります。
徳永:え?そのままですか?
服部:汚れや乾燥などの革のダメージさえ気にならなければ大丈夫です。
徳永:その人の履き方で、その人らしい風合いになっていくんですね。服部さんの靴はかなり鍛えられていますね(笑)。NAOTは日常履きをおすすめしている靴ですしね。
服部:決して安くはないので、日常の靴としてもったいないと言われる方もいますが、毎日使うからこそ、ラクな方がいいし、履きやすくなっていきます。お客様に最初の一足を選んでもらうときは、普段履く機会の多い靴を選んでもらうようにおすすめしています。道具というイメージで履いてもらえたらうれしいです。
徳永:確かに。高くてもったいないからたまにしか履かない、ではなくよく履く靴を選ぶといいですね。いいものを身につけて暮らすと毎日の気分もあがりますしね。若い頃はいろんな靴を履きたいので、安い靴を何足も買っていましたが、足に合わないこともあったり、すぐにボロボロになって捨てたり。最近は、普段こそいいものを!と思えるようになってきました。今思い出しましたが、サボと言えば、学生時代に厚底の木の白いサボを買って履いていたことを思い出します。
服部:私も昔、買って履いていましたね。
徳永:懐かしいですね。今思うと、履きにくかったように思います(笑)。ところで、最近、インスタライブも始められましたよね!?
服部:コロナ禍でもコミュニケーションがとれるスタイルだなと、スタッフみんなでインスタライブもがんばっています。
徳永:履いておられる雰囲気や、洋服とのバランスがよくわかっていいですよね。楽しい空気感が伝わっています。でも、お客さんのいないところで会話するのって難しいですよね?
服部:みんな終わったらぐったりしています(笑)。普通の接客とは違って、インスタライブは何度やっても気疲れがすごいです。でも、ライブのあとからでも見てくださっている方がおられるので、やっている意味もあるかなと思っています。
徳永:そして、もう一つ「ループ舎」のことについてお伺いします。靴屋さんが出版をされるって珍しいですよね。
服部:なぜ?と聞かれることもあります。本のきっかけは、風の栖にいた頃、オーナーやスタッフとの話し合いのときに、これからNAOTの靴やお店でやりたいことは何かを聞かれたんです。そこで、やりたいことのひとつに「本」と伝えたと思います。靴をどういう風に知ってもらうのか、という手段の一つで本をあげました。今でいうとインスタなどがありますけれど。本は、人から人に伝達する媒体でもあり、本が好きということもあり、カタログではなくおもしろい感じでNAOTを知ってもらえたらとイメージしていました。すぐにそういうことができたわけでもなく、2人目を生んで復帰してから少したって「本をやってみない?」と言ってもらい、2018年くらいから始動しました。
徳永:新しい挑戦だったのですね。
服部:それまではカタログや冊子を作ることはありましたが、売る本は初めてで。最初に作った本が、靴のお話の短編集です。
徳永:いろんな切り口で靴を見つめているのでおもしろいですね。
服部:接客でも靴の話だけをするのではなく、全く違う話で盛り上がることもあります。いろんな角度から見ることがおもしろいなと思っています。
徳永:「おしゃべりができる本」がコンセプトでしたね。
服部:無理なく、興味あることや自分がやっている延長にあることを大切にしています。世の中には大きな出版社がたくさんあるので、小さな出版社が無理してがんばらなくていいなと思っていて、やる意味を大切にしたいと思っています。
徳永:本離れはありますが、紙で届けたり、語るようにまとめられたりしていると、届きやすいですよね。私も紙は好きですし、紙は伝わり方が違いますよね。
服部:ネットは広く繋がれるかもしれませんが、痕跡がないですよね。本はモノとしての魅力があります。読むという、手触りの価値は残っていくのではないかと思います。オーナーが言っていたことでもありますが、昔に生まれて今も残っているものはとても必要なもので、靴もそのひとつ。本も、「これをみんなに伝えたい」「目の前の人だけでなくもっとたくさんの人に伝えたい」という想いから作られたものだと思います。
徳永:『日本書紀』や『古事記』がまさにそうですね。
服部:そして、今でも、日々新書がいっぱい出ています。
徳永:確かに、いっぱい生まれていますね。みんな伝えたいことがいっぱいあるってことですね!ループ舎の本にはどんなものがありますか?
服部:お話を伺ったことを記事にしたり、写真を撮ったりデザインしたりするものもあります。執筆されたものを編集することも。ほとんどがご縁です。靴で繋がった方と一緒に本を作るので、靴屋でなかったら本は生まれていません。本でさらに深く繋がっている感じです。本づくりを通して感じたことは、人の言葉を改めて感じることができたということです。これからは他のスタッフにももっと関わってもらって、そのスタッフの興味があることも交えながらどんどん視点を広げていけたらいいなと思っています。
徳永:これからも楽しみですね。がんばってください!最後に、服部さんにとって奈良の好きなところを教えてもらえますか?
服部:がんばりすぎないところですね。学生時代は京都に住んでいたこともありますが、奈良は単純にお店より自分の暮らしを優先しているところがあって、もうちょっとかんばったら売上げあがるのではないかなと思いますが、がんばらないんだなーと。観光地だけど、がんばらないところが逆に安心できるところなのかもしれません。観光という視点でみてみると、ここだけを観光すればいいという地域ではないので、一日では回りきれないですし、何度も足を運んで楽しむ地域。年をとってもゆっくりと回れる楽しみがあるのではないかと思えることがうれしいです。余白がある感じですね。
徳永:余白!私も好きな言葉です。
服部:社寺もいっぱいあり、長く守られてきたものだから、これからもなくならず、いつ行ってもそこにあります。毎年来られる人はゆっくりと観光を楽しんでおられます。今回はここ、次回はここと無理せずに観光しておられる人が多いと思います。一度にあちらこちらへ行くと疲れますしね。
徳永:そうなんです!奈良は何度でも来てもらいたい場所ですよね〜。
【編集後記】
「骨董品みたいになっていますが……」と、サボ売り場で見せてもらった一足。それは10年くらい履かれた男性のサボ。インソールを交換したらまだまだ履ける、それがNAOTの靴です。お店の入り口には「育てる靴」と書いてありました。いい響きです。大好きな靴とともに日々の暮らしを楽しむ。服部さんにNAOTの魅力や本への想いを伺い、ただただ心地いい時間が過ぎていきました。そして、しみじみと奈良に通じるものを感じました。
NAOTの靴は、奈良のように楽しめる靴、だと。
奈良は歴史深いからこそ味わい深く、暮らす人も旅人も時間をかけてゆっくりじんわりと楽しめる場所。NAOTの靴も、時間の経過とともに味わい深くなり、暮らしとともに履き心地が良くなっていくもの。
大好きな靴と奈良での暮らしを楽しめる……ありがたき幸せを見つけてしまいました。
服部さん、ありがとうございました。
(記事・徳永祐巳子)
服部多圭子
奈良県天理市出身。京都の大学を卒業し、神奈川県にて照明会社のパッケージデザイナーとして働く。結婚出産を経て、東日本大震災をきっかけに帰郷。2012年株式会社loop&loop入社。「風の栖(かぜのすみか)」「NAOT」にて販売員として服や靴を販売しながら、現在は「ループ舎」から発行する本の編集制作も担当。2児の母。座右の銘「人の笑いを神が楽しむ」。
株式会社loop&loop https://naot.jp/about/company.php
最終更新日:2021/04/07