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寄り合い文化で育まれるレモングラスInterviewee:平原区自治会むらづくり委員会代表・北谷寿朗

~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~

編集者の徳永です。対談コーナーは今回で6回目。そろそろ地域づくりのお話を聞きたくなりましたので、こちらへ。

みなさん、「へいばらのレモングラス」という文字を見聞きしたことありますか?「奈良のレモングラス」と記されているのもそれにあたります。金色に輝くハーブティー、香り豊かなレモングラス。

栽培しているのは、奈良県吉野郡下市町の小さな集落です。今回は「平原区自治会むらづくり委員会」代表・北谷寿朗さんにお話を伺いました。


徳永:レモングラスをつくり始めて、今年で何年目になりますか?

北谷:もう7年目かな。当時この地区には27戸ほどあってね。田舎なので農家が多いと思われがちですが、勤めに出ている人も多くて。そろそろ定年という時期になったら、みんなで村を盛り上げる地域づくりができたらいいなと話が出ていたんです。ちょうどその頃に、下市町のバックアップもあって。2015年にレモングラスづくりをスタートしました。

徳永:下市町の助成金があったのですね。

北谷2013年に区長(自治会長)をやっていた時、「これからの集落について考えていくなら応援します」と下市町からの助成金が出ました。助成金は研修や講師代に使いました。

徳永:最初は勉強のために使われたのですね。

北谷せっかくの機会をいただいたので、みんなで話合いをしようとワークショップも開催しました。いろんな意見を聞かせてもらうため自分自身もファシリテーターの勉強をして、色カードを使うなど工夫しました。

徳永:本格的なワークショップですね。若い方も参加されましたか?

北谷高齢者だけでなく、30代、40代の若い子も参加してくれました。若い子は田舎はいらんかなと思っていたら、意外とそうでもなくて。「地域のみんなが仲良くやっている」という声もあって、評価が高かったですね。

徳永:若い方の意見を聞くきっかけになってよかったですね。ましてや高評価とは!うれしいですね。

下市町平原地区

北谷ワークショップは3回。1回目は地域の現状について、2回目は村の勉強。歴史を紐解いてみると薬草の村ということにたどり着いきました。そして3回目はこれからどうするかを考えました。一から考えるのは難しかったですが、その3回は自力でがんばりました。その後は、奈良県から専門家を派遣してもらえる事業があったので、サポートをしてもらえることに。

徳永:町や県のサポートなど、タイミングに適したものがあったわけですね。

北谷自分たちだけでは、風呂敷を広げただけで終わってしまったかもしれません。専門家に入ってもらうことで、定期的に話合う機会を設けられたと思います。具体的に、他地域の事例も教えていただけたのもよかったです。

徳永:ワークショップは、意見を出して終わってしまうものが大半なのではないかと思います。やりっぱなしだともったいないので、具体的に中身を詰めていけるサポートはありがたいですね。

北谷さらに町の支援事業にも応募することになり、事業計画をまとめるときも専門家に手伝ってもらいました。

徳永:主にこの事業は北谷さんが進めてこられたのでしょうか?

北谷副区長と私の二人が中心になってやっていたのですが、区長の任期は1年ですので、この事業も一緒に終わってしまうとダメだと思い、自治会の中に「平原区自治会むらづくり委員会」を立ち上げ、会長を担いました。

徳永:地域で新しいことを始めるとなると、反対派もおられたのではないかと思うのですが。

北谷委員会を立ち上げた際に、過去に区長をしたことのあるメンバーに入っていただきました。そのメンバーは意見を持っている方々で。委員会で熟議した内容を地域の方におろしていきましたので、理解は得やすかったです。

徳永:なるほど!確かな進め方だと思います。

北谷もともと小さな村で、門徒同士、地元のお宮さんも一緒に守っていますので、まとまりやすいんです。移住者もいませんし。

徳永:レモングラスを栽培すると決まったのはなぜですか?

北谷レモングラスに決まるまでは、他のハーブも試しました。でも一番簡単で、継続して栽培できるものがレモングラスでした。景観を良くしていこうという目的もあって、耕作放棄地を活用して栽培しています。

徳永:畑1枚で栽培されていますが、毎年植え付けされているんですか?

北谷毎年1000株。春に熊本から苗を仕入れて植え付けをしています。ここは寒い地域ですが、味が凝縮されるみたいで、美味しいレモングラスが育ちます。

8月収穫前のレモングラス
背丈ほどに成長した収穫前のレモングラス

徳永:数年前に奈良市内のカフェで「金のレモングラス」というメニュー名のハーブティーを飲んだことがあって。その時に、奈良でレモングラスを栽培しているんだと知り、その後、いろいろと商品を目にするようになった記憶があります。

北谷カフェの方と知り合いだったので卸していました。生産して商品はできたけれど、さてどこで売るかな!?と。家業で椎茸農園をしているのでそのルートで販売を始めました。

徳永商品を作ってから営業に回られたのですね。

北谷これで生活をしていかないといけないわけではなかったので、気楽にさせてもらっていました。レモングラスづくりは、地域のみんなが寄るためのきっかけですね。あまりみんなの負担にならないようにと考えています。

徳永:でも、栽培も加工も人手がいりますよね。

北谷春の植え付けも朝から2時間程度。夏の草引きも地域の草刈り作業の延長でみんなでやればあっという間に終わります。一人でやろうと思うと大変ですが、みんな寄って作業した後は、お茶飲んで一服。雑談の時間の方が長いかもしれませんね(笑)。

徳永:いいですね〜。田舎らしい風景です。

【収穫時に撮影に行きました/2021年8月】

みんなで刈り取り作業 →
私も少しお手伝い。稲を刈る感じ。→
刈り終えたら軽トラへ積みこむ→

洗浄場へ→
みんなで洗浄 →
目視で虫や汚れをチェック →
長さを均一にカット →
乾燥機へ

北谷老人会のみなさんにも2ヶ月に1回、加工作業をお任せしています。作業していただいたみなさんには少しずつではありますが、お礼をしています。でも、お礼より、作業の合間のお茶タイムやお昼を一緒にする時間を楽しみにしてくれているようです。

徳永:みなさんはおいくつくらいの方ですか?

北谷70歳以上のみなさんです。90代の方もおられますよ。みなさん慣れたもんです。

袋詰めは老人会の女性陣が担当!
手際よく。個数を間違えないように

ラベル貼り
ティーバッグ
リーフ用に粉砕されたレモングラス

徳永:平原地区のみなさんの手で、愛情がいっぱい詰まった商品だと思うと、また格別な味わいですね。

北谷この人達がいてくれるので、成り立っています。

徳永:今はコロナ禍で閉めておられますが、ピザハウスもレモングラスの栽培と同時期にスタートされたんですよね?

北谷当時、国の地方創生予算もあって、予算が倍以上になりました。将来的に地域食堂があるといいね!と話にあがっていたので、ピザハウスをつくりました。田舎ならそば屋さんとかなんでしょうが、レモングラスとそばはかけ離れていますからね(笑)。ハーブを使う料理と言ったらピザ!となったわけです。

徳永:確かに(笑)。

北谷最初は毎週日曜日にオープンさせていましたが、生地の仕込みも大変でしたので、月2回に。情報を聞きつけて遠方からも来てくださいました。世界チャンピオンから伝授したピザです。

徳永:山菜ピザなどオリジナルメニューもあって、お父さんやお母さんの愛情も込められていたら、それは間違いなく美味しいですね。

北谷お客さんをお迎えしてサービスをするなんて思ってもいなかったことですが、お客さんに美味しいと言ってもらえたことが自信に繋がって、みんなでがんばっていました。

徳永:本当に素敵なお話です。

北谷実は私、最初はハーブって何?ってところからのスタートだったんですよ。

徳永:え〜そうだったんですか〜。

北谷コロナが落ち着いたら、また再開したいと思います。

徳永:最後に、今後の展開を教えてください。

北谷今、ハーブティーだけでなく、最初は捨てていた茎の部分でオイルを抽出できるようになったので、飴や石けんも作っています。あと、ハッカも500株くらい植えてみているんです。

今までは捨てていた茎の部分
レモングラスのオイルで仕上げたあめ玉

徳永:どんどん新しいことに挑戦されているんですね。地域のために活動されるその精神が素敵だと思います。

北谷プランニングやマーケティングはまだまだ苦手なので試行錯誤しながらですが。生まれ育った場所ですし、みんな家族みたいなもんで。自分のためだけにがんばる人もおられるんですけど、それだけではあかんと思います。自分を犠牲にしてまでとは思わないですが、みんなでやるのが好きだから。でも、無理強いはしたくないんでね。

徳永:地域で活動していくには、そのさじ加減が一番難しいですね。

北谷負担と思われたら一番シュンとなるからね。みんな喜んで参加してくれているので、続けていけるやり方で、これからも「寄り合える」環境を守っていきたいですね。


【編集後記】

北谷さんにとっては「ハーブって何だ?」というところから始まり、みんなで学びながら栽培、商品化。

利益の追求より、田舎ならではの「寄り合い」を何より大切にしながらハーブづくりを行っておられました。小さな村だからこその顔の見える距離感。団結力。収穫も、洗浄も、袋詰めも、できる人が寄り合い、役割を見つけてサクサク作業を進める。

住人は7年で10戸ほど減り、限界集落をどうするのかという課題は拭えませんが、これがまさに地域のあり方なのではないかと思います。

へいばらのレモングラスは本当に香り豊かで美味しい。

それは自然豊かな土地の恵み、地域に流れる優しい空気、地域の人たちの愛情がたっぷり詰まっているからなのではないかと思います。地域の財産です。

取材時に「これどうぞ」と渡されたレモングラスの飴をなめると、マスクの中はレモングラスの香りに包まれ、幸せいっぱいでした。

この寄り合いの風景がいつまでも続きますように。

でも、ちょっとだけ道にはみ出てたんです。くれぐれも車には気をつけてくださいね〜。

北谷さん、平原のみなさん、ありがとうございました。

(記事・徳永祐巳子、撮影・北尾篤司)



北谷 寿朗
吉野郡下市町出身。吉野杉・桧の人工林に囲まれたハウスで、山の湧き水を利用して菌床栽培を行う「大和あゆみ農園」の2代目。2013年の自治会長時代に、下市町の助成金を活用し地域のこれからを考えるワークショップを開催したことをきっかけに、2015年より「平原区自治会むらづくり委員会」を立ち上げ、下市町平原区の特産品「レモングラス」栽培をはじめる。

大和あゆみ農園 https://www.shiitakeya.jp

へいばらのレモングラス https://shimoichi.com/heibara/

最終更新日:2021/08/28

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