奈良、旅もくらしも

スマホを捨てよ、旅にでようVol.2曾爾村 ~曽爾高原だけじゃない!歩いて見つけたあたたかい曽爾~

「ちょっと休憩」と思ってスマホをいじっていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。のんびりするのもいいけれど、せっかくの貴重な時間、そんなことばかりに使うのはもったいない!

奈良にだって、まだまだ面白いところがいっぱいあるのです。普通なら車で行くところを、岡田と福井の大学生2人であえて電車やバスを乗り継いで、日帰り旅で巡ってみました。文章は岡田、写真は福井です。道中の発見や出会う人々とのお話。こればっかりは、ネットの情報からでは得られません。たまには、スマホを置いて(地図は見ますが)行ったことのない場所に踏み込んでみませんか?

さあ、通知はオフに!いざ出発!


第2回は、日本で最も美しい村・曽爾村。曾爾高原で有名な場所だけれど、今回はそれ以外の魅力を開拓していく予定。8月の終わり、おなじみ近鉄榛原(はいばら)駅から朝一番のバスに乗って「山粕局前(やまがすきょく)」まで向かった。駅前の通りを抜けて次第に山のほうへ進む。木々の濃い緑色、大きくて古い家屋、鋭い岩が張り出した川。「田舎の夏休み」感漂うの風景を眺めつつ、今回こそは計画通りに旅を進めるぞ、と意気込んでいた。

バスを降りて最初に訪れたのは「春日神社」。大きな銀杏の木が目印になっている。撮影をしているとサイクリングをしている人やベランダで朝のお茶をたしなんでいる人が。きっと地元の人たちだろう。早起きってやっぱりいいなあと日々の生活を少し反省した。

春日神社

このあたりは、曽爾村山粕、御杖村菅野を通り、伊勢市山田へ向かう伊勢本街道が通る。鳥居の文字を読んでみたり、奥に人がいないかのぞいてみたり、ひとしきり探索した後は、伊勢街道の名残がないか探してうろうろ……「山粕宿」の解説が書かれた立て看板を発見した。江戸時代、伊勢街道を通る人々の宿場として栄え、宿泊・休憩所である「旅籠」や荷物や手紙を送る「問屋」が置かれていたそう。すっかり静かな集落になっているが、かつては全国各地の人々が行き交うにぎやかな場所だったようだ。

宿場町だったことを示す石碑

川の水音だけが響く道沿いを歩いて向かった先は「めだか街道」。メダカの見学や購入ができる場所で、その名の通り、ずらりと並んだ水槽の中にメダカがこれでもかというほどたくさん泳いでいる。

伊勢本街道沿いにある「めだか街道」

メダカたちのすみか

青い鱗を反射させて泳いでいる子、レースのようなひれをもった子、金魚のように赤や黒の模様が入った子。涼しげに泳ぐ小さなメダカたちは、見ているだけでも癒される。強い日差しを浴びて育った丈夫なメダカは、初心者にも飼いやすいそう。親子連れからメダカマニアまで様々なお客さんがやってくる。この「めだか街道」は、地元の方々が「メダカブーム」に注目して始めたそう。メダカブームは2000年代の初めに品種改良で生まれた「楊貴妃」が火付け役となって起こった流行。近年、室内でも楽しめる新しい趣味として再び注目されている。もともと村おこしの一環として始めたものだったが、交流の場としてもうってつけだった。「メダカがいて悪いことなんて起こらないね。眺めてると癒されるから、他人の噂話もしなくなる。」と「めだか街道」代表の桝田秀美さんは語る。小さなメダカが人々を穏やかに結び付けてくれているのだろう。

1匹数百円~数十万円と値段もさまざま

続いて向かったのは、メダカ街道から徒歩10分ほどの古道具店「古道具 山ノ葉」。伊勢本街道が店の目の前を横切っている。気候のいい時期は、ウォーキングをする人も多いらしい。天井の高い木造の店舗は、もともと布団工場だった場所を改装した。

ブルーのドアが目印「古道具 山ノ葉」 

店内に並んでいる商品は、店主の柳原寛吾さんの選りすぐり。お土産にちょうどいいサイズのものから大きな家具まで様々だ。商品の種類に偏りが出ないよう、バランスよく仕入れているそう。さっそくかわいいかごを見つけて手に取ってみた。骨董品というと値段が張るのでなかなか手を出しにくいイメージがあったので、恐る恐る値札を見てみると、思いのほかリーズナブル。柳原さんの「古道具を気軽に楽しんでほしい」という思いが伝わってくる。古道具の中には、一般の方から買い取ったものも多いそう。幼いころから古いものに囲まれて育った人は「骨董品」という感覚がないまま捨ててしまうこともあるのだとか。柳原さんは、そんな骨董品たちの救世主になっている。古着好き、骨董好きの我々としては嬉しい限りだ。

かごもいろいろ。手にとってお気に入りを探そう。

古道具がいっぱい。あ、奥にコントラバスがある!

二人してあれこれ見て回った結果、気に入ったものを一つずつ買った。帰りの電車賃を取っておかなければならないので、1,000円以内で買えるものを探し回った挙句の掘り出し物だ。

さて、お土産も買えたしそろそろバス停に行こうかと思ったその時、静まり返った道路に「ブーン」というエンジンの音が。バスが行ってしまったのだ。

次のバスは1時間後。このまま待っているわけにもいかず、道路をてくてく歩いていくことにした。高原と言えど昼近くなると日ざしが強くなってくる。しばらく歩くと小さな八百屋さんが見えてきた。

トマトの直売所。曽爾のトマトは7月から10月半ばまでの3か月半しか出回らないらしい。

店先にはトマトが山積みになっている。そういえば曽爾はトマトが有名だったはず……買ってみよう!バスを逃してとぼとぼ歩いていたが、急に元気になって店に飛び込んだ。

真っ赤なトマトが山積み!

店先のおばさんは、「こんなところに何しに?」と驚いていたが、事情を説明すると納得したようだ。しきりに「曾爾高原ファームガーデン」を勧めてくださったが、今日中に行って帰ってくるのは難しそう。またの機会に回すことにした。

二人で分けて持って帰ろうと思ったが、あんまり美味しそうなのでちょっと味見することに。水筒の水でトマトを洗って豪快にかぶりついた。頬がおちるとはまさにこのこと。このトマトのためだけにもう一度ここまで来てもいいと思うくらいおいしかった。

涼しい川沿いをてくてく歩く

トマトを食べて復活した私たちはまた川沿いを歩いて行った。次の取材まで少し時間があったので、橋の上に座って一休み。すぐ下を流れていく川の冷気が足に当たってひんやり気持ちいい。少し遠くに地元の人が川に潜って何かを取っているのが見えた。前回訪れた東吉野村でもそんな光景を目にした覚えがある。こういうのが「田舎あるある」なんだろうか。のどかな風景になんだか懐かしい気持ちになった。

稲が黄金色に光っている

お昼過ぎ、ようやく「お食事処 豊栄」に到着。ここは民宿にもなっている。今回のお目当ては、イベントにも出展しているという、看板メニュー「力うどん」。名前からしてがっつりしてそうだが、いったいどんなうどんが出てくるのだろう。

「お食事処 豊栄」に到着

目の前に登場したどんぶりに目を丸くする。思った以上にボリューム満点。「おいしい…」と、時々小さな声で感嘆の声をもらしながら一心不乱に箸を運んだ。曽爾の野菜がたっぷり使われており、他ではまず食べられない。葛を使ったとろとろの出汁が麺によく絡む。

お餅が入って食べ応え十分 力うどん(600円)
コーンと溶き卵がたっぷり すすきうどん(650円)

コーンと溶き卵が沢山入っているのが珍しいなと思って聞いてみると、曽爾高原の黄色いススキをイメージしているのだそう。時期によってはトマトを使った珍しいうどんも提供しており、今は新メニューのハンバーガーを開発中なのだとか。「ここに来てくれる若い人がアイデアを提供してくれる」と話すのは店主の河合和巳さん。チャレンジ精神旺盛で、お話を聞くのも楽しいひとときだった。

次の取材先に向かおうとしたが、思った以上に急な坂道。気合を入れなければと思っていると、豊栄の河合さんが店の外に。なんと車で目的地まで送ってくださったのだ。もうちょっとリサーチちゃんとしなくちゃねと反省した。

国の天然記念物に指定されている「鎧岳」のふもとに位置する「カフェねころん」。特徴的な形とむき出しの岩肌が芸術品のような鎧岳は、坂の下からも見えるけれど、ここからの姿は迫力満点。店内の座席からは曽爾高原も見え、絶好のロケーションだ。

体に優しいランチやスイーツが楽しめる「カフェ ねころん」

田んぼ、山々、高原。曽爾のきれいなものが集結して1枚の絵のよう。

あけ放たれた大きな窓から、心地よい風が入ってくる。旬の食材を使って丁寧に作られたランチのほか、焼き菓子やコーヒーも楽しめるこの隠れ家カフェを求めて遠方から訪れる人も少なくないそう。店内に並ぶ古本やかわいい雑貨を眺めていると、「あ!」と思わず声を上げた。私(岡田)の好きな作家さんの本が並んでいたのだ。最近の古本屋さんではなかなかお目にかかれない作品も。聞いてみると店主の前川郁子さんも、その作家さんがお好きなのだそう。こんなところで同じ作家さんのファンに会えるとは、と嬉しくなった。もう一度一人でゆっくり来たいなあと思っていると、座席からにぎやかな声が。

野菜たっぷりのヘルシーランチ 
メインはひよこ豆とチキンのトマトソースご飯(990円)

家族や友達と来ても、一人でゆっくり楽しんでも。

この日は、お店のお得意さんが来ていたようで、前川さんと楽しそうにおしゃべりをしていた。遠方に住む友達を連れてきていたみたい。人に紹介したくなるような、独り占めしておきたいようなそんなカフェだった。

取材を終えると再び豊栄の河合さんが迎えに来て下さった。ありがたさと申し訳なさにちょっと赤くなりながら山を下りていく。そろそろ旅も終わりに差し掛かってきた。

険しい岩肌がむき出しになった「鎧岳」 

車内でこの企画のことなどをはなしていると、「せっかくなので見てほしい場所がある」と河合さん。渡り蝶・アサギマダラがやってくるという花畑に案内してくださった。フジバカマが整然と並んでいる小さな畑は、9月~10月末ごろにはアサギマダラでいっぱいになるそう。この時はまだ蝶はいなかったが、においをたどって毎年ここへ集まるというのだから不思議なものだ。人を怖がらないので、近くまで寄ってくるという。白い花に黒と薄青の蝶が群れる様子は、絵本の挿絵のように幻想的だろうなと思った。

フジバカマの畑。秋ごろには花と蝶でいっぱいに。
アサギマダラ

このフジバカマの畑は、地元のまちづくり団体「曽爾街道風景つくり隊」の方々がボランティアで管理をしている。曽爾を少しでも素敵な場所にしようという村の人々の想いが込められた場所だ。シーズンになると美しい光景をカメラに収めようと、遠方からもたくさんの人が訪れるそう。

日が傾きだしたころ、河合さんに深々とお辞儀をして帰りのバス停に向かった。今回の旅も、いろいろハプニングあり、思わぬ収穫もありだった。高原のススキや温泉が有名な曽爾。しかし、知らないだけでそれ以外にも魅力が山ほどある。前回の旅先である東吉野村に比べると、森林というより「昔ながらの田園風景」を楽しめる場所だった。伊勢街道の名残が思いのほか少なかったが、田畑の風景や山間からのぞく屏風岩を眺めて歩くのは、昔の人もしていたに違いない。かつてのような宿場町はなくなってしまったが、当時の様子を想像しつつゆったり過ごしてみるのもいい。楽しみ方が無限にある美しい村、ぜひ行ってみて。


〈スケジュール見本〉
今回の取材を踏まえて、曽爾村を丸一日楽しむタイムスケジュールを組んでみました。今回もがっつり歩くので、動きやすい服装と水分補給を忘れずに無理せず楽しみましょう。

8:11 榛原駅からバス(わくわく系統・曽爾村役場行き) 

8:51 バス停「高石」で下車

9:00  春日神社

10:00 めだか街道、周辺お散歩

11:00 古道具山ノ葉

11:20 バス停「山粕西」から乗車
「山ノ葉」でゆっくり過ごしたい場合は、ここから歩いても良し。おいしいトマトにありつけます。

11:31 バス停「曾爾横輪」で下車

11:32 お食事処 豊栄

12:30~13:00 足腰に自信のある方はここから歩いてみましょう!※坂が急です

13:00 カフェねころん

14:38 バス停「太良路」から乗車

14:42 バス停「曽爾弁天橋」で下車

14:45 フジバカマ畑

15:41 バス停「曽爾弁天橋」から乗車

16:14 名張駅


〈今回のテンパり度〉★★★☆☆
・お土産選びに夢中でバスを逃す。時刻はしっかり確認しましょう。
・徒歩で行けると思っていた場所が思いのほか急斜面。距離だけでなく、道の状態も要チェック!

〈次回の目標〉
お土産選びはほどほどに


めだか街道
住所: 奈良県宇陀郡曽爾村山粕1291
営業時間:10:00~17:00(4月~10月)
定休日:月
駐車場:有
めだか街道 (kcn.jp)

古道具 山ノ葉
住所:奈良県宇陀郡曽爾村山粕1154-2
電話:090-9709-6900
営業時間:11:00~18:00
定休日:火・水・木・金
駐車場:有
Home | 古道具山ノ葉 (square.site)

お食事処 豊栄
住所:奈良県宇陀郡曽爾村今井1262-1
電話:0745-94-2154
営業時間:11:00~14:00 ※夜は要予約
定休日:月
駐車場:有
お食事処 豊栄 | 曽爾村観光協会 (sonimura.com)

カフェねころん
住所:奈良県宇陀郡曽爾村葛288
電話:090-1319-8434
営業時間:11:00~17:30(ランチは土日祝のみ)
定休日:月・火・水・木
駐車場:有
カフェねころん書店(@cafe_necoron_bookstore) • Instagram写真と動画


編集後記

なかなか行けない曽爾村を存分に楽しめました!住民の方がおおらかで温かい、とても素敵な村でした。正直歩くのには大変な場所が多く、くたくたになりました……(岡田)

この企画を考えている時から、超汗かきの僕vs真夏の猛暑。となることを予想して覚悟を決めていたのですが、曽爾村はとても涼しくて爽やかな1日を過ごすことができました!(福井)


〈文〉
『猪突猛進☆凄腕チェイサー』 
岡田菜友子
福岡出身、奈良暮らし4年目の女子大生です。気になったものに、後先考えずチェイス&アタックする無鉄砲な性格を活かして、奈良の田舎をめぐるのが最近のブームです。同著『今月のおやつとうつわ』もよろしくね!
〈写真〉
『好奇心旺盛なよく歩くコアラ』
福井風太
僕は奈良生まれ奈良育ちの大学生です。
コアラのようによく眠る僕ですが、起きている時は元気いっぱい、1日平均1万歩の散歩好きです!好奇心と探求心で自分らしく旅を楽しみます!

最終更新日:2023/01/03

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