奈良博が総力を挙げた“かつてない空海展”
弘法大師・空海の生誕1250年を記念した特別展「空海 KŪKAI - 密教のルーツとマンダラ世界」が開幕しました(※前期展示:2024/4/13~2024/5/12、後期展示:2024/5/14~2024/6/9)。
奈良国立博物館が総力を挙げて取り組んだ本展は “かつてない空海展” と称される規模で、展示件数115件のうち、国宝が28件、重要文化財が59件にも及びます。
平安時代の宗教家・空海は、衆生救済を願い、遣唐使の一員として唐にわたって、師匠となる恵果より「密教(みっきょう)」のすべてを受け継ぎました。密教の教えは非常に複雑で、文字によって伝えるのは難しいことから、空海は密教を体感できるよう図像による布教を試みました。
本展の会場では、密教の神髄ともいえる曼荼羅(まんだら)など、多くの仏像や仏画によって「マンダラ空間」を再現することでその世界観を体感できるようにするとともに、各地で守り伝えられてきたゆかりの至宝が一堂に展示され、空海と真言密教の魅力を紹介しています。
※この日は会期前日に行われたプレスプレビューに参加しています。通常は館内撮影は禁止されています。
大迫力!立体的な「マンダラ空間」を体感
本展の第1章「密教とは ― 空海の伝えたマンダラの世界」では、展示室に入った瞬間から大迫力の「立体曼荼羅」が目に飛び込んできます!
本記事を担当している私自身、『弘法大師空海が歩いた奈良』という書籍の執筆に携わったこともあり、今回の特別展は楽しみにしていましたが、その期待を大きく上回る素晴らしい内容でした!
密教世界の中心である大日如来と、それを取り囲む仏たちを、国宝「五智如来坐像」(平安時代、京都・安祥寺)を用いて再現し、胎蔵界と金剛界という2つのマンダラの世界をダイナミックな展示で体感できます。
空海は、延暦23年(804)遣唐使の一員として入唐し、恵果より体系的な密教を伝授され、密教による人々の救済と護国を目指しました。日本の真言密教を確立した偉大な宗教家であり、思想家であり、能書家としても知られるなど、マルチな才能を発揮した人物で、本展ではその全貌に迫っています。
立体曼荼羅の奥には、実際の密教の仏堂のように曼荼羅が展示されています。
曼荼羅とは、密教の宇宙世界を図示したもので、胎蔵界・金剛界で一対です。重要文化財「両界曼荼羅(血曼荼羅)」のうち胎蔵界(平安時代、和歌山・金剛峯寺 ※前期のみ展示)は、空海が唐で師の恵果から付与された極彩色の曼荼羅の姿を継承する、現存最古のものとなります。※後期は江戸時代、大阪・久修園院の両界曼荼羅に展示替えになります。
その隣には「マンダラには何が描いてあるの?」というわかりやすい解説もあり、その精緻な世界観をわかりやすく鑑賞できます。
その周囲に展示された「真言八祖像」(鎌倉時代、奈良・室生寺 ※前期のみ展示)は、インドから日本に至る、真言密教の教えを伝えた8名の祖師の肖像画で、真言密教の儀礼において欠かせない画像です。その迫力に圧倒されます。※後期は鎌倉時代、京都・神護寺の重要文化財「真言八祖像」に展示替えになります。
陸路のみではなく、海路からも伝わった密教
第2章「密教の源流 ― 陸と海のシルクロード」も興味深い内容でした。
仏教発祥の地・インドにおいて誕生した密教。根本経典とされる『大日経』は陸路を経由して唐に伝わりましたが、もう一方の『金剛頂経』はインドネシアを経て海路で唐に入ったのだそうです。密教の一部が海をわたって伝播していたとは知りませんでした。
ここでは、サンスクリット文字の経典、インド風の古式の仏さまを描いた図像などが展示され、ややエキゾッチックな密教の源流が感じられます。
全体でマンダラの宇宙的な世界観を表現した一室も印象的でした。
中央に展示されているのは、インドネシアのジャワ島東部にあるガンジュクの寺院遺跡から発見された「金剛界曼荼羅彫像群」(10世紀、インドネシア国立中央博物館)です。計49尊あり曼荼羅を構成していたものです。
空海の思い描いた密教の神髄を伝えるマンダラ
そしてこちらが約230年ぶり、6年間にわたって行われた修理事業後、今回が初の一般公開となる国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」のうち胎蔵界(平安時代、京都・神護寺 ※前期のみ展示。後期は金剛界に展示替え)です。高さ437.2cmという大きさです!
空海自ら制作を指揮した現存唯一にして現存最古の両界曼荼羅で、高雄山神護寺に伝わることから「高雄曼荼羅」と呼ばれます。
仏さまの姿が金銀の優美な線描で描き出されています。空海が思い描いた密教の世界観を間近で体感できる貴重な機会ですので、ぜひ遠目から全体を拝見したり、間近から細部を観察したりしてみてください。
国宝「両界曼荼羅(西院曼荼羅<伝真言院曼荼羅>)」のうち金剛界(部分)(平安時代、京都・教王護国寺(東寺))です。こちらは9世紀に描かれた彩色の両界曼荼羅としては現存最古のもので、鮮やかな色彩でエキゾッチックな仏さまが描かれています。多くの素晴らしい曼荼羅を見比べられるのも本展の大きな魅力です。
能書家・空海の著作や直筆の書も多数展示
空海の著作や直筆の書などに関しても、驚くほどの充実度です。 国宝「聾瞽指帰 下巻」(平安時代、和歌山・金剛峯寺 ※前期のみ展示)は、空海の出家前わずか24歳のときの著作。儒教・道教・仏教の教えを架空の人物に語らせることで比較し、仏教が最も優れていることを述べています。
国宝「三十帖冊子」(平安時代、京都・仁和寺 ※前期後期で展示替えあり)は、空海が唐から持ち帰った密教典籍の小冊子で、国内現存最古とみられる冊子本です。唐へ渡った最大の成果ともいえる唯一無二のもので、平安時代から真言宗随一の秘籍とされてきたものです。
空海が天台宗の祖・最澄に宛てた手紙三通を一巻とした、国宝「風信帖」(平安時代、京都・教王護国寺(東寺) ※前期のみ展示)。もちろん空海の直筆で、三筆のひとりに数えられた能書家・空海の筆跡とともに、平安時代初めの仏教界に新たな風を起こした二人の交流を伝えています。
この他にも、高雄山寺(神護寺)において行われた結願灌頂を受けた人々の名簿であり、筆頭に最澄の名前が見られる国宝「灌頂歴名」(平安時代、京都・神護寺 ※展示は4/29まで)など、貴重な空海の直筆の書が複数展示されています。
オリエンタルな「文殊菩薩坐像」は撮影可!
国宝「金銅密教法具」(9世紀、京都・教王護国寺(東寺))は、真言宗最大の法会・後七日御修法に用いる法具です。空海が唐から請来した品で、その目録『弘法大師請来目録』にも記されている由緒正しき逸品です。呪力が溢れ出ているような、不思議な美しさが感じられます。
鎌倉時代を代表する仏師・快慶の作である、重要文化財「孔雀明王坐像」(鎌倉時代、和歌山・金剛峯寺)は、仁和寺に伝わった空海ゆかりの孔雀明王画像を手本に造立された像です。どの角度から見ても快慶らしい端正な美しさで、今回の展示では像の後ろ側、光背の裏側まで拝見できます!
また、会場内の一級文物「文殊菩薩坐像」(8世紀、中国・西安碑林博物館)は撮影可能となっています。
この像は、長安にあった安国寺の跡で発見されたもので、当時の唐で密教が興隆を物語ります。大理石製のオリエンタルな雰囲気のお姿を、この機会にぜひスマートフォンに収めてください。
(文・中村秀樹、写真・中村恵理子)
■生誕1250年記念特別展「空海 KŪKAI - 密教のルーツとマンダラ世界」
- 会期:2024年4月13日(土)~6月9日(日)
※前期展示:4/13~5/12、後期展示:5/14~6/9 - 休館日:月曜日(4/29 [月・祝]・5/6 [月・休] は開館)、5月7日(火)
- 会場:奈良国立博物館 東・西新館
- 開館時間:9:30~17:00(※入館は閉館の30分前まで)
- 観覧料:一般 2,000円、高大生 1,500円、中学生以下 無料
※本展の観覧券で、名品展(なら仏像館・青銅器館)もご覧いただけます。
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最終更新日:2024/04/26