奈良、旅もくらしも

【連載】奈良レベル1「2章 故郷を見つめる」ヨシノマホ

文・絵/ヨシノマホ

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大学生活にも慣れてきたころ、履修したとある授業で “自分のことを知ってもらうためのWEBページを作る” という課題が出されました。

自分のことを知ってもらう…

その言葉が私の頭の中で反響した時。ふと、生まれ育った奈良について “大仏と鹿以外に何も知らなかった自分” に対して感じた、あの時の悔しさがよみがえってきました。

「自分のことを知ってもらう為には、まず私自身がもっと自分のことを知らなければならないのではないだろうか?そして、その為には自分が生まれ育った場所についてちゃんと知る必要があるのではないだろうか?」
何故かそう強く感じた私は、この課題で自分の故郷を紹介するページを制作することに決めました。

…しかし、故郷を紹介するといっても一体何を紹介すればいいのだろうか?
奈良に関する知識が恐ろしく乏しかった当時の私はそれすらも分からず、両親に相談することにしました。
その結果、「近くにある吉野山を訪れるのがいいのではないか?」とのアドバイスをもらったのです。

吉野山に登るのは小学校の遠足以来で、その当時の事も “おやつとお弁当食べた” こと以外の記憶はほとんど残っていません。
吉野山が桜の名所だということも、両親から話を聞いて思い出したくらいでした。
(遠足の時は桜のシーズンではありませんでしたし、吉野山が桜の名所だということも普段はあまり意識せず生活していました。意外に思われるかもしれませんが、地元民で「桜を見に吉野山へ行ったことがない」という人は結構多いのです。)

一体吉野山とはどんな場所なのか?好奇心と不安が入り混じる気持ちで私は家を出発しました。

吉野駅に到着すると、眼前に吉野山の雄大な姿が迫ってきました。
「想像していたより急な山道かも?」
若干不安ではありましたが、徒歩でも登れるとの事前情報から、ロープウェイ乗り場はスルーして歩みを進めます。途中かなり急になっている場所もありましたが、舗装された道路は歩きやすく「七曲り坂」というくねくね道を登り切ると、山の斜面を一望できる見事な景色が広がっていました。
地図を取り出して「金峯山寺」という名のお寺までの道のりを確認すると、どうやらここから一本道で行けるようです。今までより坂も緩やかになり、周囲の景色を楽しむ余裕も出てきました。

千社札がたくさん貼られている黒い門。
宿や土産物店が立ち並び、情緒あふれる参道。
突如道沿いに現れる銅の鳥居。
睨みを利かせて聳え立つ迫力満点の仁王像。


時代を経て古くなったものが多い印象ですが、私にはそのどれもが新鮮に感じられました。

「自宅からほど近くに、こんな凄い空間があったなんて…!!」なんだか別世界に迷い込んだような…。そんな不思議な感覚を味わいながら、私は金峯山寺の仁王門をくぐり更に奥へと進んでいきました。

その光景を見た瞬間、電撃に打たれたかのような衝撃が私の体中に走りました!

圧倒的な存在感を放ち、歴史の重みをこれでもかと感じさせる金峯山寺「蔵王堂」。古建築としては東大寺の大仏殿に次ぐ大きさだといいます。

まさに圧巻!!!!

あまりの出来事にしばらく放心したあと、私は感動で自分の魂が震え続けているのをじっと感じていました。

当時、蔵王堂に関しての知識はほとんど持ち合わせていませんでしたが、 “なんだか凄いもの” だということだけはハッキリと分かりました。
この時に感じた感覚をうまく言葉で表現することは、未だにできませんが…、私のこの先の人生を変えるくらいの衝撃であったことは間違いありません!

この日を境に、私の奈良を知る旅が本格的に始まったのです。


吉野山への登山は “大学の課題をクリアするため” というのが当初の主な目的でしたが、蔵王堂を目にしてからというものの、課題とは関係なく「ただただ純粋にもっと奈良のことが知りたい!!」という気持ちがふつふつと湧き上がるようになりました。
あの日吉野山へ登ったことは、私の人生の大きなターニングポイントの一つになりました。


執筆者紹介

ヨシノマホ
奈良生まれ奈良育ち。「楽しく!面白く!」をモットーに、大好きな奈良を題材としたイラストや漫画、奈良グッズなどの制作を行っている。
Twitter:https://twitter.com/yoshinomaho
Instagram:https://www.instagram.com/yoshinomaho/

最終更新日:2021/09/23

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