~編集者・徳永祐巳子のふむふむ人訪記~
編集者の徳永です。
近頃、ソロキャンプやグランピングなどキャンプのスタイルも幅広く、また廃校や茶畑をキャンプ場とするユニークな場も話題にあがっています。
今回ご紹介するのは、棚田で有名な明日香村の「あすか棚田キャンプ」。発起人の中北毅さんとその仲間のみなさん。この日、朝から草刈りイベントがあるということで、旅くらメンバーはお手伝いも兼ねて取材に伺いました。私は午前中予定があり、午後から合流。石舞台古墳を越え、稲渕方面へ車を走らせると、煙がモクモクと立ち上がる、ここが「あすか棚田キャンプ」の現在地です。
徳永:この辺りへ来るのは本当に久しぶりです。しかしすごい煙ですね。草刈りお疲れさまでした。早速ですが、棚田キャンプを始められたきっかけを教えてください。
中北:2020年、コロナ禍で暇を持て余していた僕は友人とYouTubeで明日香村のことを発信しようと棚田に撮影に来ました。みなさんがご存知の棚田はきれいでしたが、横に目をやると「荒れている」と感じたのがことの始まりです。「棚田」とネットで検索して見つけた長野県上田市の棚田キャンプを参考にしました。もともと明日香村は「あすかオーナー制度」で棚田オーナーの受け入れをしていて、田植えから収穫までの体験を平成8年から(25年間)されていました。その事務局に企画を提案したら、「オーナーの中でも若手を紹介するので一緒にやってみたらどうか!?」と。大字の半分くらいが土地の所有者で、目的が「遊ぶ」ということではなく、景観を保つということだったので、みなさんの理解も早かったです。お米で収入を得るだけではなく、農閑期の活用としてスタートしたものです。

徳永:すぐに始められそうでしたか?
中北:昨年度1年間は、自分たちでプレとして月1でやってみました。12月に1回、1月の寒さはどうだろう、そして2月も。結局4月まで毎月1回やってみました。今年度から村のバックアップをいただき、事業化しました。正式にやりたかったので、県の方にもボランティアスタッフとして関わっていただき、農地の一時転用の申請も行いました。役場の中川さんにもお世話になりました。
徳永:まさに、田んぼのオフシーズンでの限定開催ですね。とはいえ、時期は秋から冬とめちゃくちゃ寒いじゃないですか!?
湯田:ずっと焚き火をしたり、あたたかい用意だけしていれば寒さはあまり問題ないですね。
中北:ただ、調理スペースも水道もありません。設備はトイレだけです。ソロなどで慣れておられるキャンパーさんに来てもらうのがいいかなと思います。
徳永:棚田キャンプってどんなんやろう、と初めての人が興味本位でくるとおそらく楽しめないですね。何でも揃っているキャンプではなく、何もないという、その魅力を楽しめる人が来てくださるといいですね。

湯田:何もないけど、とにかく静かです。夜は星もきれいで、焚き火を囲み、お酒を飲みながら語り合います。東の山からは朝陽もきれいです。
中北:夜は楽しいですね〜。お店での飲み会とは全然違います。
生駒:場の共有感ですね。
中北:何もないからこそ、自分の好きなアイテムでいろいろやりたいことができます。オートキャンプ場だと決まった区画ですが、ここは比べものにならないくらい広いです。小さな家1軒分のスペースはあるので、広々と使っていただけます。
徳永:ベテランキャンパーにとったら最高のキャンプ場ですね。
中北:しかも、寝床をこしらえるという“いちいち感”。米を作っている田んぼから始める!?って感じです。
生駒:利用される方が多いと人の声は気にならないのですか?
中北:段が違うと全く声も聞こえないんです。だから薪が欲しかったら電話するんですよ、「薪ちょうだい」って!
徳永:ホント貴重な空間ですね。そして、今日が草刈りイベント初回ということですが、毎月開催していくのでしょうか?
中北:草刈りイベントも、棚田の再生プロジェクトの一環で行っています。今日は初回で毎月やっていこうと思っています。参加したい方の申込み方法も考えているところです。








湯田:草刈り機を使うので、慣れている人に来てもらえるとうれしいです。
中北:刈った草を運ぶ人もいてくれるとうれしいですね。刈った草を運ぶのも、5往復したらかなりしんどいですからね。障害物競走みたいになってますよね。
生駒:棚田ならではの草刈りですね。
徳永:今日はお手伝いできなくて残念ですが、草刈りって楽しいですよね。
中北:昨年棚田オーナーにならせてもらったんですが、草刈りも楽しくて、草刈り機を買ってしまいました。だから、棚田キャンプでも、楽しみながらきれいにしていけるならいいなと思って草刈りイベントにも踏み切ったという感じです。

乾:私は16年くらい棚田オーナー制度に関わっていますが、ここ1〜2年でオーナーさんが急激に増えましたね。
湯田:子ども連れが増えましたね。今までやりたかったけど踏ん切りがつかなかった人が、やってみようと思って申し込まれていると思います。
徳永:コロナも関係しているかもしれませんね。
中北:屋外で遊ぶにも、公園ですら気をつかうときありました。この辺りは密にもなりませんしね。
湯田:この辺、いくらでも走り回れますからね。

徳永:中北さんはオーナーになられて1年目ということですが、お米を収穫されてどうでしたか?
中北:ここではほとんど手作業でさせてもらえるので楽しかったです。僕、都会の子なので。
徳永:ちなみにご出身はどちらですか?
中北:御所です。
徳永:え〜。御所も結構田舎なはずですけど(笑)。
中北:畑とか田んぼとかはしてなかったので。米がこんな風にできるんだということも新鮮でしたし、ましてや同じところでキャンプができるというのは愛着がわきます。
徳永:棚田の景色は昔から変わっていませんか?ジャンボかかしが変わるくらいですか?
乾:そうですね全然変わっていません。逆に良くなっています。あそこにある竹林も柿の木の周辺も、去年はもっと鬱蒼としていました。田んぼの世話をするより、その周りの整備が大変でね。でも、棚田に来る途中の景観がきれいだと気持ち良く、鬱蒼としていると獣も入りやすいので、そういうことに意識を向ける人が増えてきたのかなと思います。今日やったところも、12時間前と比べると……。
中北:これがこうなった感じです。



乾:上から下を眺めることができないくらい鬱蒼としていましたからね。棚田のオーナーが触れない場所だったのですが、こういう機会があって、今まで見たことのない景色を見ることができました。それが何より良かったなと思うことです。長いことやっていると自分の中で好きな景色があるんですけど、今日、その一番が変わりましたね。
中北:思うツボや!そうなったらいいな〜と思っていたけど、はまりましたね、乾さん!
生駒:めっちゃいいお話です。地元の方がそう思ってくださるって素敵です。ここでおにぎりとか食べられるといいですね。

中北:みんなの「したい」という気持ちが芽生えたら、そこをキープしたいと思います。そうするとまた人が集まってきますしね。
徳永:持続可能とは言いますが、そういう気持ちを大切にしないと続かないですね。
中北:草刈り作業ではなく草刈りイベントにして、終わったら楽しいことがある、という風にしていきたいと思っています。今日はごはんを一緒に食べるということでしかできませんでしたが、参加する方の持ち込み企画でやりたいことをどんどんやっていけるといいなと思っています。場所はあるので。
徳永:そう!場所があるって特別なんです。やりたいことがあっても場所がないと諦めることも多い時代ですから。
中北:長いことオーナーされているといろんなアイデアをお持ちだと思うんです。その機会を作っていけるといいなと思います。
乾:例えばハロウィンのジャック・オー・ランタンでライトアップするだけでもきれいだと思うんです。材料はいっぱいあるしね。
湯田:この前キャンプしてたら、地元の方が大きなカボチャを転がしていかれました。これで遊べって!その時はどう遊んだらいいねんってなってましたけどね。
中北:その時はキャンプ道具しかなかったから、そこに座るしかなかったです(笑)。
乾:やわらかいから、包丁とスプーンあったらいけるよ。
徳永:かかしだけでなく、季節ごとに装いを変えるのも楽しいですね。

中北:キャンプの時は、毎回ススキにランプをまきつけたりはしています。
徳永:あのススキの風景も、昔ながらが残っていて、いいですね。
乾:しめ縄づくりもいいですね。やってみたいという人もいるので、稲穂と藁でつくると面白いですよ。シーズン終わりでもできますね。
徳永:楽しみがいっぱいですね。
生駒:昔の人は暮らしの中でそれをされていたと思います。
中北:こうして話をすると、アイデアもいっぱい増えるのでありがたいですね。
生駒:この田んぼでの営みをしっかりと語り継いでいってほしいですね。
中北:お米は水をひっぱることから始まっています。ここの水は用水ではなく山の水。田植えから始まるのではなく、水の管理も必要です。田んぼに水が入る瞬間って、感動するんです。

中川:田舎でしかできないからね。
中北:この水路も室町から作られたと言われていて、約4kmほどの水路があります。
中川:日本一長いのではないかな。
中北:そんなガイドもしたいんですよ。前の総代さんに連れて行ってもらって2時間半かけて水路を歩いたんですけど、いろいろ昔のお話を聞かせてもらいながらで面白かったです。
徳永:水がなかったら、米はできませんからね。
生駒:棚田はいつからなんでしょうね。
中川:昔は住居が今の棚田の辺りにあったそうです。家よりも畑で収入を得るということを優先したので、移動させたと言われています。
生駒:都の米を作っていたということですね。
中川:平安時代の頃だったのかな。
徳永:そいうことも学びながら棚田でキャンプするのも楽しいですね。
中川:稲渕は、天武天皇が吉野に抜けた道でもあったのでね。
中北:歴史のことは、生駒さん生き字引ですから!稲渕も宮があったんですよね。
生駒:この辺りはどうだったのかな〜と想像するのも楽しいですね。

徳永:いろんな企画で広がっていけばいいですね。
中北:一過性のものではなく続けていきたいと思っています。景観を残していくためには、続けないといけません。楽しくできたら続けられると思うので、その仕掛けを作れたらいいなと思っています。できるカタチでやっていきます。
徳永:いろいろ実験しながら、ですね。
生駒:先ほど、草刈りしている時に、農作業を長年やっている人は自分の体力の見極めができているというお話が出ていました。
中北:「続ける」を前提にすると、焦らず進めていけますからね。
徳永:仕事も一緒ですね。
中北:本当に学べることが多いです。作業から農のことも学べるし、人生観にもつながるので、豊かになりますね。何もないけど楽しいです。秋まではお米が育っていた場所に寝床ができるだけでも楽しいです。
中川:人間の根幹だよね。今は便利過ぎるからね。農業ではなく、農地を活用するということ。業と考えるからしんどいと感じるけど。
中北:僕たちの入り口は、業ではなかったんでね。逆に、農業でやっていくとなるとやり方は変わっていくと思います。
湯田:自分の食べるぶんだけということだけで、固定観念のないところから考えると思いますしね。贅沢をしようと思わなかったら生き方は自由です。そちらの方が豊かなのかな、と思います。
中北:そういう場所があるのはうれしいですね。
徳永:きっと、これからの時代にピッタリなんだと思います。

湯田:農業をやろうと思っていきなりスタートすると大変ですけど、棚田オーナーを体験して、そちらの道に行きたかったらいけばいいし。キャンプをきっかけに、オーナー制度をみてもらえたらいいし。移住を考える人もいるかもしれないですが、移住するとなると空き家がなかったりといろいろ大変ですけど、関係人口が増えていけばいいかなと思います。
中北:そう!関係人口が増えるといいですね。はじめるのはできるけど、続けるのが大変だと思っているので、知ってもらって関わってもらえる人がいればいいなと思います。関わると考えますからね。
徳永:自然なカタチですね。
中北:こうして、いろいろ質問されてお話するほうがいろいろ出てきますね。
徳永:取材は問いかけることで気づけたり、広がったり。良かったです!思うツボですね、中北さん!

【編集後記】
軍手を持参し、やる気満々で到着しましたが時すでに遅し。写真で振り返ると背丈ほどの草がわんさかありましたが、みなさん仕事が早いですね〜。お疲れ様のぜんざいを一緒にいただきましたが、田んぼでぜんざいの美味しいこと!
新しい取り組みとして「棚田キャンプ」のお話を伺いつつ、人としての豊かさとは何かというところに話は展開していきました。景観を守っていくという大きな役目を担いつつも、「楽しむ」を忘れないでおきたいという中北さんの気持ちはきっと継続に繋がると思いました。ただ、草刈りは楽しいけれど大変な作業。お手伝いできる時は参加したいと思いますし、ご興味ある方はぜひご一緒ください。同時に、棚田の写真を撮影するために多くのカメラマンが訪れる場所。この景観を守る人がいることを忘れないでほしいな〜と感じた取材でした。青空の下、みなさんと同じ景色を眺めながら、数年後も美しい棚田がここにあることを願ったのでした。
(記事・徳永祐巳子、撮影・北尾篤司)
中北 毅
橿原市在住。明日香 夢の旬菜館内のレストラン「ポカフレール」のオーナーシェフ。以前は橿原にお店を構え、8年前にここ明日香村に移転。明日香村で育った野菜を使ったメニューが人気。棚田再生プロジェクト「あすか 棚田キャンプ」発起人。
「あすか 棚田キャンプ」開催期間は、11月〜4月。毎月の開催日はHPをご覧ください。
https://asuka-tanada.com/camp/


最終更新日:2022/01/28