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金峯山寺の三郎鐘・銅燈籠・銅鳥居

総本山金峯山寺 寺史研究室助手 池田 晶

 金峯山寺には重要文化財に指定されている大型の青銅鋳物を3つ所蔵しています。1つ目は三郎鐘(さぶろうかね)、2つ目は銅燈籠(どうとうろう)、3つ目は銅鳥居(かねのとりい)です。
 令和4年6月12日(日)、近鉄文化サロン阿倍野において、龍谷大学の杉山洋先生をお招きし、「三郎鐘と金峯山寺の大型青銅鋳物」と題してご講演いただきます。先生の講演に先立ち、三郎鐘・銅燈籠・銅鳥居についてご紹介します。


三郎鐘

 まずは、三郎鐘からご紹介します。著名な鐘を3つ集めた言い方に、三名鐘(さんめいしょう)というのがあり、それぞれに太郎、二郎、三郎と名付けて呼ぶ事例が全国各地にあります。
 吉野では、奈良東大寺の鐘を奈良太郎、高野山金剛峯寺大塔の鐘を高野二郎、そして金峯山寺が所蔵する鐘を吉野三郎といい、三郎鐘として親しまれています。
 この梵鐘は、本居宣長が記した『菅笠日記(すががさのにっき)』に「世尊寺、古めかしき寺にて、大きなる古き鐘」とあり、これが三郎鐘のことで、江戸時代から古鐘として知られていました。
 なお、この梵鐘の銘文に刻まれた有名人には、平清盛の父である播磨守兼右京大夫平忠盛がいます。彼は、保延6年(1140)12月、母の供養のため、銅と鋳造料を施入し、翌保延7年(1141)に金峯山寺執行法橋仁春などの勧進によって鋳造されたとする銘が残されています。

 白河上皇・鳥羽上皇に信任された平安時代後期の公卿源師時の日記『長秋記』長承3年(1134)5月6日条には、白河上皇が建立した宝塔の造営をとりしきり、完成後はその執行に任じられた高算上人のことが記されています。この宝塔は、『金峯山創草記』に記される石蔵寺宝塔院のことです。
 高算上人は、金峯山寺の三大法要のひとつである花供懺法会をはじめた高僧として崇敬され、蔵王堂には「高算上人立像」が安置されています。その日記によれば、高算上人の執行職は、その後法弟の経算に伝えられ、のちに永久に伝えられたようです。そして永久から譲られるかたちで長承2年(1133)春に仁春が執行に就任します。仁春のことは、経算の嫡弟と記されていますから、仁春も高算上人の法弟だったことになります。
 日記には、何度も「高算一門」という表現がでてきますが、仁春も高算一門のひとりだったのです。『長秋記』の記録から、金峯山寺に大きな足跡を残した高算上人と、三郎鐘の勧進をした仁春が法弟の関係にあったことを確認することができました。
 なお、この鐘は、世尊寺とか鷲尾寺と呼ばれてきた寺の鐘ですが、この場所を少し登り、吉野水分神社を過ぎると、江戸時代までは高算堂という御堂がありました。高算上人の御堂近くにあった寺の鐘の勧進を仁春がおこなったことは、彼が「高算一門」であることとも関係があるのかもしれません。

銅燈籠

 次にご紹介するのは、銅燈籠です。

 この燈籠は蔵王堂の前にあり、六角形で構成される六角形燈籠です。
 蔵王堂を正面からみた燈籠の銘文によれば、施主の浄祐・妙久禅尼が御油田七反とともに、文明3年(1471)9月11日に寄進されたことがわかります。また、燈籠の制作者は「和州下田住大工左衛門助」とあります。この「和州下田」とは、現在の奈良県香芝市下田のことで、この地域では、古くから寺社の梵鐘や燈籠、明治以降は鍋釜の産地として鋳物師による生産活動が続けられていました。
 銘文による制作年代が知れるのは、珍しく貴重であり、当時の鋳物技術の動向を見ていく上でもとても興味深い燈籠であるといわれています。

銅鳥居

 最後にご紹介するのは、銅鳥居です。
 この鳥居は、吉野山観光駐車場から黒門を通り、登り坂をあがった、蔵王堂からは北方に位置するところにあり、古くから發心門(ほっしんもん)と呼ばれていました。
 これは、大峯山上に通じる4つの門の一番はじめに位置し、続いて修行門(しゅぎょうもん)・等覚門(とうかくもん)・妙覚門(みょうかくもん)が多くの修験者を迎え入れてきました。           
 創建については、聖武天皇の勅願により東大寺の盧舎那仏像の鋳造の際に余った銅で建立したとも、金峯山寺の中興の祖といわれる聖宝上人(理源大師)によって創建されたとも伝えられています。

 『太平記』には、正平3年(1348)に高師直(こうのもろなお)の兵火により焼失したあと、室町時代に再建されたとされています。そもそも、この鳥居は鋳銅製の筒と箱型空洞の内部に真木が入っているため、火災などには影響を受けやすい構造となっています。そのこともあって、自然災害による再建や経年劣化による解体修理など、幾多の困難を乗り越えて、現在にいたっています。
 現在、妙覚門と等覚門の扁額は、蔵王堂で拝観していただけます。

 また、金峯山寺では、春の秘仏御本尊特別御開帳に続きまして、令和4年11月1日(火)~30(水)まで秋の秘仏御本尊特別御開帳が開催されます。

 近鉄文化サロン阿倍野で開催されます杉山先生の講座は、下記のリーフレットをご参照ください。

最終更新日:2022/05/19

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