奈良、旅もくらしも

「みんなでつくる!王寺をめぐるーと」イベントレポートvol.4

文化財再発見ワークショップ「みんなでつくる!王寺をめぐるーと」
イベントレポートvol.4「ワンデイウォーク」

奈良県北西部の町、王寺町。近年はベットタウンとして発展し、「街の住みここち『自治体』ランキング2020(大東建託株式会社)」で栄えある全国1位に輝くなど、注目が集まっています。歴史深く、魅力的な文化財も多い王寺町の魅力を知ってもらうべく、「探して、歩いて、自慢する!」をコンセプトに全5回のワークショップが開催されることに。「奈良、旅もくらしも」では、ワークショップの模様をじっくりご紹介します!


■名物学芸員による解説で王寺町を知るウォークツアー

参加者全員で王寺町のおすすめ「めぐるーと」を考えた前回までのワークショップを踏まえ、2022年3月5日にワンデイウォークイベントが開催されました。

ワークショップ参加者の皆さんの意見を取り入れた「王寺をめぐるーと」のパンフレットが完成!見た目もかわいく、わかりやすい冊子に仕上がっています。

ですが、今回はパンフレットに掲載されたコースではなく、この日のために用意された特別資料を片手に歩きます。見るからに盛りだくさんですね!

町内広報を中心とした直前の告知にも関わらず、この日は地元在住の方を中心に約50人がイベントに参加。検温やマスク着用を徹底し、感染対策をしたうえでの開催となりました。すっかりお馴染みとなった王寺町地域交流課の岡島永昌(えいしょう)さんのナビゲートで、王寺町の魅力を実際に歩きながら体験します!

【午前のウォークルート】
JR王寺駅~カルケット~モトミヤ~お大師さんの井戸~カボチャクイ地蔵~品善寺(特別公開)~孝霊天皇陵~親殿神社~火幡神社~白山姫神社~尼寺廃寺跡

まずは「カルケット」こと第一井路開渠から。元は農業水路が通っていたそうですが、現在は歩行者やバイク、自転車がガンガンすれ違う大切な生活道路です。通路の左右は明治時代のレンガの橋台が残っています。

住宅街の細道や、ちょっと急な坂を歩きながら、地元の人が大切に守ってきたお堂や神社跡を辿りました。現在の暮らしの中に、古い言い伝えや信仰が残る王寺町。さまざまな時代の歴史が今も息づいていることを感じます。

ワークショップでも人気だったカボチャクイ地蔵は、細道の先の高台にありました。明治の頃までは、地蔵堂前の広場で大量のカボチャを炊いて、参拝者にふるまっていたのだとか。現在は、集落の人だけで年2回の法要が行われているのだそうです。

この日は、通常は非公開の寺社や建物にも特別に入らせていただきました。品善寺(ほんぜんじ)では、平安時代に作られた木造阿弥陀如来坐像や、奈良県指定文化財の木造薬師如来坐像を間近で拝観できました。

王寺町には、子どもが生まれるとその年の秋祭りに絵馬を奉納する風習があるそうです。町内で最も多くの絵馬が残る火幡神社や白山姫神社では、建物越しに奉納絵馬を見ることができました。ズラッと並ぶ絵馬の数々、圧巻です。

白山姫神社の石段を降りたところで、岡島さんからの解説が。「明神山の山頂にかつてあった送迎太神宮の道標が、この石段に転用されたと考えられています」。よく見ると、たしかに文字のようなものが刻まれています。足元にも面白い歴史が隠されているのですね!

午前の部、最後の立ち寄りスポットは香芝市の尼寺廃寺跡。飛鳥時代に創建された寺院の遺跡で、国史跡に指定されています。塔跡の礎石を間近に見ながら、塔の構造や出土した遺物について解説が行われました。

敷地内の学習館には、巨大な塔心礎の模型や塔基壇の土層を剥ぎ取った断面が展示されています。地中にあった心礎の巨大さから、塔の規模が伺えます。実際に断面の前に立って眺めてみると、想像が膨らみますね!

■小さなお堂から蒸気機関車まで。王寺町の多彩な魅力に触れる

尼寺廃寺跡で昼食休憩を取り、午後からも引き続き歩きます。「午前中はかなりアップダウンがありましたが、午後のコースは平たんですよ」という岡島さんのひと言に、参加者の皆さんのホッとした表情が浮かびます(笑)。ふだん歩き慣れていない旅くら編集部一同、体力の無さを実感しました…。参加者の皆さんはとてもお元気!見習わなくては。飛び出し坊やならぬ「飛び出し雪丸(?)」に見守られながら、午後からのコースを歩きます。

【午後のウォークルート】
乳垂地蔵~太神宮灯籠~芦田池~大日さん~谷家住宅(特別公開)~達磨寺~大和鉄道築堤地下道~船渡陸橋~舟戸神社・西安寺跡~D51形895号機~松浦家住宅(特別公開)

午後のコースは、推古天皇の乳母(めのと)の母乳があまり出なかったため、使いを送って祈願したところ垂れるほどにたくさんの母乳が出るようになったという言い伝えが残る「乳垂地蔵」からスタート。それにしても、この日訪ねた場所はどこも綺麗に手入れされていて感動します。

一般住宅の脇にひっそり佇む「大日さん」は、小さなお堂の中に阿弥陀如来像の石仏がお祀りされています。「よく通るのに知らなかった」と呟く参加者も。

通常非公開の谷家住宅は、外から見ても圧倒される豪壮なつくり。江戸時代末期に法隆寺並松の大工が中心となって完成させたものだそうです。現在も人が住んでいるため撮影は不可でしたが、特別に中を見せていただき、記念の絵葉書が配られました。

聖徳太子の飢人伝説が残る達磨寺は、マルシェやアートイベントが開催され賑わっていました。ご本尊の聖徳太子坐像や千手観音坐像、本堂下から発掘されたという舎利容器などを拝観しました。

王寺町のマスコットのモデルであり、聖徳太子の愛犬と伝わる石造雪丸像もしっかり解説。岡島さんは「しっぽがくるんと巻いている後ろ姿がお気に入り」だそうですよ。このほか、境内に3基ある古墳も見学しました。

大正期につくられ今も現役で活躍する地下道や鉄道橋、交通の要衝に位置する舟戸神社・西安寺跡を経て、舟戸児童公園内にあるD51形895号機へ。昭和19年につくられ、引退後に保存展示されている蒸気機関車です。運転席にも乗り込むことができ、当時の運転手気分を味わえます。地元のキッズたちもきっと大喜びでしょうね!「鉄道のまち」らしい文化財です。

最後に、通常非公開の松浦家住宅にお邪魔しました。鉄道隧道(トンネル)の掘削を請け負う「松浦組」の当主だった松浦音吉が建てた明治時代の建物で、6棟が国の登録有形文化財になっています。大きな仏壇や襖絵など、貴重なものをたくさん見せていただきました。現当主のご好意で、松浦音吉と奥様の肖像画も拝見。布に描かれた肖像画、凛々しいお姿でした。

約10kmにおよぶ欲張りルート。「知らないところばかりだった」と地元の方にも好評だったようです。ウォーキングによる心地よい疲れの中、王寺町を後にしました。尽きることのない王寺町の魅力は「めぐるーと」パンレットにも満載。ぜひお手に取ってご覧くださいね!

(文・油井やすこ)

最終更新日:2022/03/14

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